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16.

 マリーが険しい表情を浮かべたことに気付ていないセレーナは、にこにこと無邪気に話しかける。


「エルドラド公爵のご子息だったのですね! と言っても、先日初めてお会いしたのですが……」


 眉尻を下げて笑うセレーナに、カースも曖昧に頷いて答える。

 揺れたフードに視線がいく。

 さっきから気にしないようにしようとは思っていたのだが、セレーナはフードの中が気になって仕方がなかった。

 カースも自分と同じで人目が気になるのか、人がいるところでは名前も教えてくれなかったけれど、今日は教えてくれた。ということは、もしかしたらフードも脱いでくれるかもしれないと考えたセレーナは、お願いしてみることにした。


「それより、先日もフードをかぶってらっしゃいましたよね。お願いばかりでもうしわけありませんが、もしよければお顔を見せてはいただけませんか……?」

「…………」

「っ、姫様。助けてくださった恩人にあまり無理を仰るのは……」


 マリーが制止しようとした時、ぱさりと布が落ちる音が聞こえ、セレーナは目を輝かせ、マリーは青ざめた。


「まあ……!」


 セレーナの声にカースはびくりと肩を揺らすと、素早くフードを被ろうとする。

 しかし、続いたセレーナの言葉にフードを掴んだまま動きが止まった。


「すてきです……! 黒いおぐしに黒いひとみに……赤いひとみ?」

「すみ、ません。お見苦しいものを……」


 苦しげに言う彼に、セレーナはきょとんと首を傾げる。


「え? 何故ですか? とってもきれいですよ。先日はくらくてよく見えなかったので……。やっとお顔を見ることができてうれしいです。あらためて、この間は助けてくださってありがとうございます」


 椅子に座ったまま背筋を正してぺこりと頭をさげると、フードを掴んだままの指先から力が抜けた。

 セレーナが顔を上げると、少し戸惑っているようなカースと目が合う。

 彼に出会ってから初めて子どもらしい一面を見たセレーナは嬉しくなって、花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 それを見たカースはさっと顔を逸らすと「いえ、ご無事でなによりです」とぶっきらぼうに答える。

 しかし、話し方とは反対に彼の首元や耳がほんのり赤くなっているのを見たセレーナは両手で口元を押さえ、幸せそうに笑った。


「ふふっ、やっぱり公子様はお優しい方なのですね」

「え……」


 セレーナの発言に、今度はカースだけでなくマリーも硬直した。

 何か言いたげな視線を感じたセレーナは、どうしたのマリー?と首を傾げる。


「あ、いえ……その」

「私は呪い子です」

「のろいご?」


 マリーが言い淀んでいると、カースが先程までの歯切れの悪さから一転、きっぱりと言い放った。

 その言葉にさあっと血の気が引いていくマリーの姿を見て、さっきから様子がおかしかったのはこれだったんだなと気付く。

 気付いたところで特に何も思わないけれど。


「はい。黒い髪に黒い瞳というだけでも不吉なのに、片目だけ赤いのは呪い子である証拠だと」


 セレーナの顔からは先程までの笑顔が消え、淡々と静かに話を聞いていた。

 話を聞けば、はっきりとした根拠もなくただ黒髪黒目は忌み嫌われており、そこに片目だけ赤い瞳を持って産まれてきた珍しさから、人々が勝手に呪い子と呼んでいるだけだった。

 カースの話が終わると、紅茶を一口飲んだセレーナが無表情のまま問いかける。


「なるほど。それで? 公子様はだれかにのろいをかけたことがあるのですか?」


 そこでちらりと顔を青くしているマリーを一瞥してから、それとも目が合うと呪われたり?と冷静に聞いた。

 先程までのほわっとした可愛らしい雰囲気はどこへやら、何を思っているのかわからない表情のセレーナを見た二人は困惑しているようだった。


「いえ……ありません。そのような力は持っておりません」

「そうですか。では、気になさらなくてよろしいかと」


 にっこり笑って言うセレーナに、マリーもカースも目を見開く。

 可愛らしいお姫様の見た目と優しげな声音のせいで、気にするなと言われたことに気付くのが遅れた。

 普段から遠慮がちに話し、少しは明るくなったとはいえ、人の顔色を窺っていることがまだまだ多いセレーナが思ったことをはっきりと言い切るとは思わなかった。


「わたしは……公子様はきれいだと思います」

「え……と……?」


 まだ頭が追いついていないらしいカースが、動揺しつつも声を絞り出す。

 その様子を見たセレーナは、表情を和らげて話を続ける。


「じっさい、公子様はだれかをのろったこともなければ、そもそもそんな力をお持ちではないのでしょう? それともなにか良くないこととかありましたか?」

「なかった……と、思います」

「わたしはあなたに出会って助けられました。あなたがいてくださらなければ、今日の幸せをかんじることはできなかったでしょう。今日の幸せは、あなたがわたしにくれたものです」

「俺が……」


 セレーナの言葉に、カースの顔が泣きそうに歪む。

 まるで初めて誰かに言われたとでもいうような、見ているこちらも思わず涙が零れてしまいそうな表情だった。

 はっとしたマリーは、カースの側へと移動すると深々と頭を下げた。


「申し訳ございません。姫様を助けてくださった恩人だというのに、私も噂を鵜呑みにしてご不快な思いをさせてしまいました」

「わたしからもあやまります。ほんとうにごめんなさいっ」


 足がつかないためぴょんと軽く跳ねるように立ち上がってから、勢いよく頭を下げた。


「いえっ! だ、大丈夫です。マリーさんも気にしないでください。ほんと、こんな俺のことを気持ち悪がらずに笑いかけてくださっただけで……。それに、皇族の方が簡単に頭を下げないでください……ビックリします……」


 セレーナが頭を下げた瞬間、反射的にカースも立ち上がって慌てた。

 それでも、しどろもどろになりながらもきちんと意見を言うところは流石だ。


「かんだいな対応にかんしゃいたします」

「ありがとうございます」

「いえ……。それより、私相手にそんなに畏まらないで頂けると有り難いです」

「わかりました。では、公子様となかよくなりたいので話し方をかえますね」

「はい……?」

「あ、公子様も“おれ”でいいですよ」


 取り乱した時に出てきた“俺”が、普段彼が使っている一人称なのだろう。

 カースは気付いていないが、無意識に自分を卑下しているなと感じたセレーナは、あえて仲良くなりたいを強調して了承した。

 そして、もう少し距離を縮めようと提案をする。


「そうだ! わたしのことはセレーナと呼んでください」

「そんな……! 皇女様をお名前で呼ぶなんて恐れ多すぎます!」


 首と手を左右にぶんぶんと振って断るカースに、セレーナもめげずに次の提案に移る。


「では、公子様はセレーナと、わたしはカース様とお呼びするのはどうでしょうか! お互い名前で呼べばこうへいでは?」

「も、もっと嫌です! あ、すみませ……っ」


 勢いよく放たれた拒絶の言葉に、セレーナは笑顔のままピシリと固まった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

カースくん家の爵位名は、エルドラドで臣民公爵です。

本編内で説明出来ずすみません。

あと一人出したいキャラクターがいるのでその人が出たら、登場人物紹介ページを作ろうと思っています。

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