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12.

「セレーナ様……っ! 居たら返事をしてください! セレーナ様……っ」


 セレーナが居ないことに気付いたマリーと護衛二人は広場を探し回った。

 けれど、どこにも見当たらずマリーはそのまま広場周辺を、護衛二人は街へと捜索範囲を広げることにした。

 広場に残ったマリーは、途中で見回りの皇室騎士団を見かけたら手を貸してくれるよう二人に言付ける。

 皇女を見失ったなどとバレたら首が飛ぶと思った騎士見習い二人は青ざめていたが、それどころではない。

 マリー自身も下手をすれば死刑だろう。

 それでも、自分の命よりもセレーナのことが心配だった。

 まだ言葉も話せず、泣くことしか出来なかった時から見守り続けてきたのだ。

 成長するにつれてどんどんと人目を怖がるようになり、口も心も閉ざしてしまった少女が、最近漸く心を開き始めてくれたというのに。

 七年間渇望していた笑顔を、やっと……やっと見せてくれるようになってきたばかりだったのに。

 それなのに……もし、怖い目に遭っていたら……。

 もし、また心を閉ざしてしまったら。笑えなくなってしまったら……。

 そう考えるとマリーの胸は張り裂けそうに痛んだ。

 こんなことなら目を離すんじゃなかった。こんなことになるならば、手を繋いでいれば良かった。


(こんなことなら……連れて来なければ良かった……っ!)


 あの時、花まつりの話さえしなければセレーナは興味を持たなかったかもしれない。

 街に行きたいなんて言わなかったかもしれない。

 全部自分が、自分が余計なことさえしなければ……。

 セレーナを必死に探しながらマリーは心の中で己を責めた。


(セレーナ様……!)


 暫くすると、見回りをしていたであろう皇室騎士団数人が駆け寄ってきてマリーに声をかけた。

 セレーナが居なくなってから体感ではもう数時間は経っているような気がするが、実際は三十分くらいだろうか。

 騎士見習いのどちらかが呼んできてくれたのだろう。

 マリーは一通り説明をすると、状況を把握した騎士達が一人を残し一斉に駆け出す。

 一人は一旦残り、マリーはこの場に留まり、もし万が一セレーナが戻って来たら保護して欲しいと言った。

 本当は誰より一番探しに行きたいのは彼女であったが、普段はセレーナ付きのため街に出ることはそれほど多くない。

 それならば、街の地理に詳しい騎士達に任せた方が早く見つかる確率が上がるだろう。

 探しに行きたい気持ちをぐっと堪えて、マリーは頷く。

 そして、騎士はもし見つけたら近くで巡回している騎士に報告するよう言ってから走り去って行った。

 あまりうろうろして、もしセレーナと行き違いになってしまったらいけないと、広場の中心まで移動すると顔を右へ左へと動かしセレーナを探す。

 楽しそうに手を繋いで歩く親子が、幸せそうなカップルが通り過ぎる度マリーは泣きたくなった。

 さっきまで、ほんの三十分程前まではあんなに楽しかったのに。

 楽しい思い出になるはずだったのに。

 色鮮やかだった景色が今はモノクロに見えた。

 全ては自分が発端で起きたことなのに、なにも出来ない無力な自分に腹が立った。

 探しに行くことも、守ることも何も出来ない自分が悔しい。

 どれだけマリーが後悔していても時間は戻らないし、セレーナは帰って来ない。

 見つからないままいたずらに時が過ぎるだけだった。

 明るかった空もいつの間にか夕闇が迫っている。

 今日は花まつりのため街は一日中お祭り騒ぎで賑わっており、周りを見れば今もほとんどの人が笑顔でお酒を飲んでいたり、お喋りをして楽しそうにしていた。

 こんなにも必死で、この世の終わりかのような顔をしているのは自分だけなのかもしれないと思うと、急に目の前の光景が現実ではないように思えた。

 足元がふわふわして自分でしっかり立てているのかわからなくなる。

 今この瞬間も不安に怯えているかもしれない。怖い目に遭っているかもしれない。もしかしたら、乱暴されているかもしれない。泣いて、助けが来るのを今か今かと待っているかもしれない。

 セレーナのことを想うと、マリーは不安に押し潰されそうだった。

 そろそろセレーナが居なくなって二時間くらいは経っただろうか。

 もしかしたら、もうこの街から外へと連れ出されているかもしれない。

 そうなれば、見つけ出すのは更に難しくなってしまう。

 もう会えないかもしれない。あの可愛らしい声が聞けなくなってしまうかも……。

 自分の軽率な発言がこの状況を作ってしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。

 自分がセレーナの未来を奪ってしまうかもしれない恐怖に目の前が真っ暗になる。

 頭に殴られたようなガンガンとした痛みが襲い、足はガクガクと震え始める。

 俯き過呼吸にならないよう右手で胸元を握りしめ、反対の手で口元を押さえる。

 抑えていた涙が溢れ落ち、煉瓦畳を濡らしていく。


(どんな罰だって受けます! なんだっていたします! 自分の命でよければ差し上げます……! だからどうか……どうかセレーナ様を助けてください! お願いします神様……っ)


 セレーナが神に祈ったその時、少し離れた住宅街の方から人が争っているような怒号が聞こえてきた。

 もし今の声の中にセレーナがいたら……。


(しっかりしなさい、マリー! きっと大丈夫……!)


 弱気になる自分を叱咤して、大丈夫、無事に帰ってくる。そう自分に言い聞かせながら、マリーは冷たくなった両手をぎゅっと握りしめ、セレーナの無事を祈った。

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