第三話
「ここまでこれば大丈夫かしら。」
と、ハクアが呟く。
大図書館を出てから数分しかたっていない。後ろを振り向けばまだ小さく大図書館が
見える程度の距離。
「おい。ここまでこればって___________
俺がハクアに聞き返そうとしたとき、直後に爆音が響いてきた。
そう。さっきまで俺らがいた大図書館の方向からだった。
「___おい!何が起きてんだ!何か知っているんだろ?ハクア!」
俺が焦りながら訪ねると、ハクアは淡々と告げた。
「テル。あんたが連れてきたアイツ。あいつが大図書館を爆破しただけよ。
そう。シノア様が阻止しようとしていたけど。無駄だったようね。」
「は?おいおい。ライアが爆破を?そんな事をするわけが、、」
「テル。アンタは、、、本当にあいつについて知ってるの?
ただ、、記憶をなくした先で初めてあった人がアイツだっただけでしょ。」
いや。そんなはずはない、、と断言できるものも何もなく。
”確かにそうかもしれない。”と思うには足りるものだ。
「じゃあシノアは!アイツは無事なのか!?」
「さぁ。ただ、この爆発だもの。多分死んでるんじゃない?そもそも、シノア様は自爆を覚悟で阻止しようとしていたもの。」
「お前、、言い方ってものがあるだろ!!」
そう怒鳴りハクアの肩を掴み振り向かせる。
しかしその顔を見て俺は息をのんだ。
ただ涙をこぼしていた。
整った顔に、透明の雫がいくつも滴り落ちている。
「最後。シノア様はなんていってたか分かる?」
泣いているハクアは、嗚咽を漏らしながらも、失笑していった。
「『ハクア。愛しているぞ』ってさ。」
それを聞いた瞬間。俺の体は無意識に爆発の方に動いていた。
「馬鹿。アンタが行ったところで変わらない。助けてくれたシノア様のためにも。
逃げないと。」
そう話すハクアに「大丈夫だから。」とだけ告げて俺は歩みを進める。
こんな強がった話し方をしているが、ハクアはおそらくまだ15近くだろう。
俺がやらないと。ただそんな使命感に燃えていた。
大図書館が近づいてくる。
歩みを止めず、まっすぐと歩いていくと、爆発の煙の中心にライアが佇んでいた。
「やぁ、ライア。よく騙してくれたな。」
挨拶がてらに軽口を交わす。
俺が来るのは予想外だったのか、驚いたような顔をして、そして、、、笑った。
「あれ。先輩。どうしたんすか?まるで、人が死んだみたいな顔をして。」
そういいながらライアは、近くにいた、倒れたシノアを掴み上げると。
そのまま、、、首を引きちぎった。
「いやぁ、、なかなか強かったっすよ。いやはや。頑張ってここまで来た甲斐がありましたよ」
そう笑いながら話すライアに恐怖と怒りを覚えて。ただ話す。
「なんで、、なんでシノアを殺したかったんだ、、?」
怒りで我を失わないように、なんとか会話を続ける。
そして頭の中で明確に、ライアを倒す方法を考えているときだった。
「あ?いやいや、違いますよ先輩。俺が狙ってるのは先輩だけっすよ。」
気が付くと俺の真後ろにナイフを突き出したライアがいた。
「お前、、、どうやって、、!!」
「先輩。最後にヒントだけ話しますね?俺の手で触れた相手って、一時的に無敵になれるんすよ。つーことで。頑張ってください。と、だけ。」
そう言い放つと、ライアは指を鳴らした。
刹那。俺の視界はどこか街のような場所に移っていた。
賑やかに話す街の人々。ただ、そんな光景に謎の恐怖を覚えて。気が付くと叫んでいた。
「おい!俺から離れろ!!」
____その叫び声は、、大きな爆発の爆音によってかき消されていた。
先ほど見えた町はすべて崩壊していて、建物はすべて崩れている。、
所々にはクレーターができていた。
ただ茫然としている俺に「あぁ、、、ライアが爆破させたんだな。」
と、いうことだけは理解ができたが、ほかは理解が追い付かない。
周りには泣き崩れている少年。その母親らしき死体。
そんな阿鼻叫喚の景色が広がっていた。人々の叫び声や泣き声。
全員が体に大きなやけどを負っていた。
誰もが絶望をあらわにしている。
まるで死神にでも襲われたときのように。
ただそんな中。明確に敵意を表している一人の少年がいた。
その敵意の矛先は、、、俺だった。
「お前だろ!!お前が僕のお母さんを殺したんだろ!!」
理解が追い付かない。なんで俺がこんなに敵意を表されているのだろうか。
そう考えると、すぐに答えが出てきた。
そりゃあこの爆発の中心にいて、無傷。また悲しみもしていない人が居たら、そう思われるだろうな。
弁明しようとするも。言葉が出ない。
たった数分でこんなにも壮絶な出来事が起きたからだろうか。
頭が正常に働いていないのか。
それとも声がつぶれていたのか。
そんなことは分からなかったが、何故か俺の周りに、多くの人が集まっているのは見えた。
一人が言った。「こいつ、、、あの死神じゃねぇか、、?」
一人が言った。「本当だ!死神だ!逃げろ!」と。
一人で「ライアの狙いはこれか。」と納得して笑っていると、周りからは悲鳴が湧き起こる。
俺の近くには、当たりに響く俺の乾いた笑い声と、茫然と俺を見つめる人々だけだった。
そんな地獄のような光景の中。誰かが歩いてくる音が聞こえた。
「この人が、、、この騒動の主犯ですか。」
そう言ったのは俺と同じで無傷の男だった。
そして、男は何かの詠唱をし始めた。
そのままゆっくりと俺の体に手を翳したが、避けるつもりも、気力もない俺は、
素直にその場にとどまっていた。
男の詠唱が終わったとき。体が後方に吹っ飛んだ。
周りから歓声が起こる。そしてその男は腰に携えていた剣を引き抜くと、
俺の体に躊躇なく刺してきた。
ただ。俺は叫ぶことも逃げることもせずに、目を瞑っていた。
これが死ぬって感覚なのか。そう思いながら、遠のく意識に体を委ねて、
何度も何度も振りかざす剣の痛みをただ感じていた。
俺は知っているだろう。この事件で彼は英雄と称えられることを。
倒れていた人々の中に、燃える炎の火に照らされる、まるで透明に見える、美しい白髪の少女。ハクアをがいたことを。
俺は、まだ死ねないんだろうなということを。