第一話
「、、、ん、、」
何度経験しても、目を覚ます瞬間というものは実に億劫なものだ。
眉をひそめて訝しんだ顔をしても、起きなくてはならない事には変わらないのだが。
体を起こして辺りを見渡したところで、あることに気付く。
「おいおい、、どこだよここ、、、」
見知らぬ部屋のベッドに横たわっていたなんて、とんだ恐怖映像だわ。
我ながら恐ろしい。
「な~んで俺はこんなとこにいるのかねぇ~っと、」
記憶を遡ろうとした瞬間、激しい頭痛が襲うとともに
あることに気付いてしまう。
「ははは、、俺、、誰だよ、、」
苦笑交じりに出たこのセリフは人生で言うはずではなかった言葉なんだけどなぁ、、
「まぁ、とりあえず行動だろ!」
ふと窓の外を覗いてみると、見たこともない壮大な景色が広がっていた。
正確に言うと、日本ではありえないような大きな大木に、ケルベロスのような魔物。
そして、、美しい花々。
何だろうかあの花は。見ているだけで心を奪われるような感情になっていく。
「さぁ、こっちへおいで?」と言われているような錯覚、それに加えて
抗えないほどの気持ちが沸き上がってくる。
”美しい花には気を付けて、心を抜かれて食べられちゃう”
そんな言葉が聞こえた気がしたが、そんなことが気にならないほど『近くで見たい』という気持ちが
膨れ上がっていた。
俺は窓から飛び降りると、その花にゆっくりと近づいていく。
窓越しの時とは違い花自体が音楽を奏でているような美しさがあった。
警戒など忘れて、近づいていくと、、、
地面から牙が生えてきた。
「はあ!?」
嘘だろ。人間を狙って捕食してるだろこいつ!!
どうにかして逃げるすべはないかと必死に頭を働かせるが、
もう既に俺の体はこいつの口の中に半分以上入っている。
あいにく、俺の脳は打開策を思いつかなかったようだ。
あぁ、、終わったな、、
覚悟を決めて目を閉じようとした瞬間、鋭い金属音が聞こえてきた。
刹那、俺の体は外に放り出される。
「大丈夫っすか?」
笑顔でこの化け物を一撃で始末した青年は訪ねてくる。
見たところ俺よりも少し年下くらいだろうか。俺の年齢知らないが。
青年の金髪が靡く、心地よい風に当たって、ようやく自分が生きているという
実感がわいてくる。
「あぁ、、大丈夫だよ。本当に助かった」
「いや~間に合ってよかったすよ!先輩に死なれたらどうすればいいんすか!!」
そういってぶう垂れる青年が言った言葉。「先輩_」という部分。
簡単に記憶がなくなったなどと言わないほうがいいのだろうが、
助けてもらったしな。
「えっと、君。多分俺のこと知ってるだろ?」
俺の質問の意図がわからなそうな顔をしながらも頷く。
思い切って俺は口に出した。
「あのさ、、実は俺、記憶がないんだ」
「えっ?さっきのバケモンに襲われたときっすか!?」
「あっ、いや違う、、今日朝起きた時から何も思い出せないんだ、、」
青年はすこし考えるような顔をしたが、すぐに
「、、、嘘ではないみたいっすね。」と、答える。
どうやら信じてくれたようだ。
「でもまさかあの先輩が記憶喪失だなんて。驚きっすよ!!
取敢えず、どのくらいわからないのか教えてくれませんか?」
「、、自分の名前から何もかもだ」
「えぇ!!じゃあ俺のことも知らないんすよね、、ショック、、」
「なんかごめん」
そういうとすぐに笑顔に切り替わって「冗談っすよ!」と明るくいってくる。
終始笑顔で話してくれるこの青年は『ライア』というらしい。
そして俺はこの世界の仕組みを知るために、まず「大図書館」と呼ばれる
場所に向かっているところだった。