92話 メロディvsスフィア 2
ガタ
リフトはドトール女子刑務所に下りた。
すぐにエリが走って来て、
「新入りさん! 初めまして! エリです!」
「スフィアだ」
「だいぶ…年上みたいなんでスフィアさんでいいですか…ん?」
エリは、スフィアの横に倒れている死骸を見て、
「あっ…ア…アブラック…?」
エリはゆっくりスフィアから背を向けて、
「敵だー!」
刑務所の中へ逃走!
スフィアはエリの後を辿るように、右足を引きずり歩く…
すると、リフトは上がり始めた。
刑務所の中に入る。
通路には、エリを先頭に女囚たち30人がスフィアに対して臨戦態勢。
エリは両手にホウキを構える。
他の女囚たちの手には瓶、お鍋、フライパン、ランタン、石。
スフィアは女囚たちを見渡して、
「どいてくれ、無益な殺傷はしたくないからな」
エリは後ろを見て、
「メロディさんを呼んだか?」
「はい!」
「きました!」
女囚の群れの真ん中に道ができ、赤い髪の口隠しが来る。
後ろには、くせ毛髪の小柄なココ。
スフィアは右足を引きずり3歩近づき…
メロデイの体の後、目を見つめ、
「フフ…よかった…以前より、鍛えているな?」
「お前は誰だ?」
「スフィア」
メロディはスフィアの隻眼を隠す白い布を見て、
「会うのは二回目だな? いつかの夜…」
「その口は?」
「潰された」
「白の目隠しと、黒の口隠し…白と黒か…」
スフィアは真顔でメロディを見て、
「お前に頼みがあって、この場所に来た」
「なんだ?」
「ワタシと殺し合いをしてくれ」
「…」
「お前が受けぬのなら、逃げ場の無い刑務所中の女を全て殺すだけだけどな」
女囚たちはざわめきだす。
その中、
スフィアの顔をジッと見るメロディに、後ろのココは、
「ご主人様…片足悪いし片目だにゃん…楽勝だにゃん…」
「ココ…」
「なに?」
「あいつの左目…とてもきれい…」
「え? ババアだにゃ?」
メロディはスフィアに問う。
「殺し合いじゃないとダメなのか?」
答える。
「殺し合いだ」
「ワタシは人間を殺したことが無い」
スフィアは腕を組み、目を瞑って笑みを浮かべ、
「お前の、そのバージンはさっさと捨てるべきだな? 初めての相手がこのワタシになるかもしれないな?」
「男ともした事が無い」
目を開き、腕を組んだまま真顔で、
「それはどうでもいい」
メロディは歩き、すれ違いざまに、
「表に出ろ」
「フフ…」
二人は歩み、
広場の中央に来て、向かい合う…
素手同士…
スフィアの構えは前屈姿勢で両手を力なく下ろし、顏はメロデイを見つめる。
メロディは両手を顔の位置に持って来た構え。
スフィアはエリを見て、
「お前が開始の声をかけろ!」
「はい…」
エリは小さく息を吐いて…
「開始!!」
動く…
双方…
速く 交錯するコブシ、足、
しかし…
戦況は…
すぐに決する…
後方から、首を締め上げるスフィアは…
「なんだ! これは!?」
「うぐ… (スフィアの戦闘技術…神がかっている…)」
スフィアは呟く…
「もう終わってしまう…」
首を絞めながら、赤い髪をグシャっと掴み、
「あの闘争心は! どこに消えた!!」
髪を引っ張る…
「ぐぐ… ‥ 」
手を離す‥‥
息を切らすメロディ
「はぁ…はぁ…くそぉ…」
顔を上げた時…
パーーーーーーーーーーン!
スフィアの平手打ちが襲う!
二回転転げるメロディ…
「ぐぐっ…(左の鼓膜が…くっ…脳震盪を…)」
スフィアは見下し…
「まだまだ戦えるだろ…?」
「くそ…ぶんなぐる…」
握った右のコブシを…
両手で掴み、捻る…
「ぐわわあ!!」
「脳震盪の目が覚めたか? もう何度も…勝負アリだぞ…」
スフィアはパッと両手を離す…
メロディは力なく、うつ伏せに倒れた…
「うっぅぅ… (コイツ…人間じゃない…)」
いっさい体は動かない…
ココ 「ごしゅじんさま~!!」
周りの女囚たちから…
「あのメロディさんが…」
「まったく相手にならない…」
「何者なのよ…アイツ…」
「ワタシ達どうなるの…」
声をよそに…
メロディの前で、スフィアは尻もちをつき、両手で顔を押さえ、
「なんだよこれ…生まれて初めて戦いたいと願った、ワタシの最期の相手が…」
指の隙間から赤い髪のメロディを見て、
「これ?」
その時!
女囚たちが!
「リフトが下りてきた!?」
「強そうな男が5人!?」
「あれはドトール闘技場四天王よ!」
「デカいヤツ! 帝国最強オリバー!」
メロディの指はピクっと動いた。
それをスフィアは見逃さなかった。