77話 ースフィア編ー エリーゼの街のディーバ 2
「最後のパスカルは、ここの二階の右端の部屋にいる。 灯りもついている」
そう言った、黒サラシ女は怯えた目で、
「馬車の中に金も入れた、これでワタシの命を助けてくれるのか?」
ワタシは黒サラシ女の目を見つめ、
「約束は守る…ハルゴでお前を傷つけたのもあるしな」
安堵の息を吐いた後、
「ありがとう…本当に…」
ワタシは目を瞑り、腕を組んで、
「フ、お前の売った昔のドトールの仲間がこれからどうなるか? 気にならないのか?」
黒サラシ女は背を向け、
「ワタシの売った男達も、ドトール闘技場もワタシにとっては過去、今はただ歌を歌って人に褒められたい、記憶に残りたい」
「歌は闘争で勝つより、楽しいのか?」
「闘争を捨てたって事はそういう事なんだろうね」
こっちを向いて、
「スフィア…気になっていたけど、いい香水つけてるね…」
去る。
ワタシはパスカルの部屋に歩む。
ドアにカギはかかってなかったから、入る。 中は空き瓶が散乱した汚い小さな部屋…ベッドでは大いびきをかいて眠る、ブ男のパスカル。 ワタシは近づき、顔に軽くビンタする。
「パスカル起きろ」
「んっ…ん…あ? オマエだれ?」
「スフィアだよ」
「あ? ゴミ犬? 髪伸びたな?」
「なるべく傷つけたくない、早く起きて、外の馬車に来い。 そこで縛って連れていく」
「はあ? お前、何言ってんだ?」
パスカルは汚い笑みを浮かべ、
「そうか~復讐か? またボコボコにされてえのか~?」
「違う、外の馬車に金がある、やるから、ついて来い」
「金? マジか? 俺もう金無い助かる」
パスカルは、ワタシについて外に出る。
馬車を指差し、
「この中だ」
「あざっす」
バカが顏入れた瞬間、首に当て見して気絶させ、馬車に押し込み、手足を縛る。
すでに拘束しているスプリントス、パワードは静かにパスカルを見ていた。
ワタシはいったん、外に出て、前に座り、馬を操縦した。
2日後…
水車小屋への帰り道、川沿いは馬車は通れない岩道なので、馬車を置き、金の入った袋を持ちながら3人の縄を引っ張り、連行する。
道中、パスカルは抵抗したが、ブ男をますますブ男にしたら、3人とも抵抗しなくなった。
水車小屋が見えた。
水車小屋から、雷神が走ってくる。
「おかっ…スフィア! おかえりなさい!」
「ただいま、アモンは?」
「街に買い物に行ってる。…ところで後ろの3人はなに?」
「雷神へのお土産だ」
「え?」
ワタシは後ろの元剣闘士の三人を見ながら手の平で指し、
「まだ人間を殺したこと無いでしょ?」
3人は、それぞれの目を見合った。その目には昔の闘争心が蘇る兆候がある…
「この男達は元ドトール剣闘士だ。 かなり強い人間だ。 5歳の雷神の初の実戦練習にちょうどいい相手」
その言葉に、パスカルは、
「おい! そいつ5歳なのかよ!! 俺と身長変わらねえぞ!!」
ワタシはパスカルに、
パ--ー------ン!
ビンタして、
「私語は慎め!」
「いってぇぇ…なんだぁぁ‥…今の…平手打ちは…えぎぇえ…」
パスカルの左の眼球は少し出ていたから、掌で優しくガン!と押し込んでやった。
3人を水車小屋の前まで連れて行き、
小屋の中から、剣を4つ持って来て、無造作にばら撒く、
「これで殺し合え! 元ドトールの3人は雷神を殺せば生かして返す!」
ワタシの言葉に雷神は不安な顏でコッチを向いたが、ワタシは目を逸らし3人を見て、
「ワタシは約束は守る」
少し離れた所の岩山を指差し、
「ワタシはあの上から見る、それならば雷神を殺した後に逃げる事も可能だろう?」
スプリントスは手を上げたので、
「なんだ?」
スプリントスは雷神を見つめながら、
「3人がかりでもいいのか? どんな手を使ってもいいのか?」
「殺し合えと言っただろ? 無論だ」
ワタシは最後に、雷神の肩をポンと叩き、
「スプリントスとパワードはかなり強い土産だ…殺れ、殺らないと、殺られるぞ…」
「スッ…スフィア…」
ワタシは腕を組み、目を瞑り、
「雷神が、この程度で死ぬのなら…革命など不可能だったという事だ」
長い髪をなびかせ岩山の上に向かう。
岩山の頂上で座り、
「はじめ!!」
直後!
パスカルが逃走を図る!
ワタシは水車小屋から隠し持って来ていた包丁を振りかぶり、
「逃走はゆるさん!!」
ビュン!
右の太ももに刺さった。
片足で飛び跳ねている。
しかし…
どういう事だ…
雷神… 弱い…
このままだと… 土産に殺される…
パワードの剛撃で雷神の持った剣が弾き飛ばされる…
雷神は全速力で逃げ、川に身を投げた…
くっ…敵…いや人間に背を向け逃走とはぁぁぁ
神のはずなのにぃぃぃ…
ワタシの5歳の時には…クマを素手の合気で殺していたのにぃぃ
川から出て来い!! まだまだ戦えるだろう!! 3人をさっさと殺せ!!
ワタシの期待に反して、雷神は水面に顔を出したまま、一向に動かない…
3人は… 逃げ消えた…
その晩…
焚火で焼いた魚を食べる、ワタシとアモン…一人ぽつりと離れて座る雷神。
アモンは酒瓶をグイっっと飲み、
「雷神…ごはん抜きとは…可哀そうに…」
ワタシは魚に刺さっていた木を雷神に投げ!
「これでも甘すぎる!!」
雷神を指差して、
「ワタシは…ワタシは…あんなのに期待してたなんて…まあ…修行中もなんか鈍いから…そんな予感もしてたけど…命かけになったら何か変わると思ったけど…」
「スフィア…そう投げやりになるな…あの怒髪天…昔は父に虐待されていたらしい…子供の時は弱かったからだ」
「本当か? 雷神をかばうためのウソなら許さないぞ…」
「マジ。 雷神に今のうちに武を教えるのは無駄ではない。言っておくが巨体に武を極めさせるのは容易な事ではない…時間がかかる…20年…30年…」
「そうか…」
ワタシは、雷神の方を向いて、
「雷神! すまなかった! 魚を食べていいぞ!」
嬉しそうに雷神が走ってきた。
後日…
都市ルーベラに食料を買いに行った。
リンゴを吟味していたら、
「知ってる? アルフォートの歌手のリリアンが死んだって?」
「ええ…本当?」
「3人組の通り魔に襲われて、めった刺しだって…怖いねえ…」
「俺、聴いたことあるけど凄い奇麗な歌声だったよ…可哀そうに」
可哀そうじゃないよ…
あの黒サラシ女じゃなくて、歌手で死ねたんだから。




