7話 ースフィア編ー スフィア15歳
「お、うまいなコレ」
「キノコ鍋うまいだろ」
「スフィア、王都に仕入れ頼む」
「うん、まかせろ」
「髪伸びたな? 切ってやろうか?」
「頼む、シトリーの髪も切ってやる」
「スフィア? 背伸びたな」
「シトリーと同じくらい」
「スフィア…レナはアナ帝国に負けるかもしれない」
「そうなのか?」
「町で聞いた、そのうち…この町も危ないかも」
「スフィア、レナの聖騎士が病で倒れたらしい。 もう歳だしな」
「すごく強い聖騎士だったんだろ?」
「アナ帝国が本格的に攻めてくるかも…」
「スフィア」
「なに?」
「いや、あっ…なんでもない」
3年経った
スフィアもシトリーも15歳の、ある日…
シトリーの服屋に全員坊主頭の、まだ10代らしい若い兵9人がぞろぞろと入って来た。 隊長と思われる一番背の高い男が店番をするスフィアに話しかけた。
「シトリーはいるか? 徴兵だ」
「ちょっと待って」
スフィアは、シトリーの部屋に呼びに行く。
「シトリー? あいつ等、また来たみたいだよ」
ベッドのふくらんだ布団からシトリーの弱々しい声。
「すまん、スフィア…また頼む」
スフィアは呆れ顔で見て、
「またなのか? 戦争行くの嫌なら断れよ」
「バカ…もうまじでレナ国は追い込まれてヤバいんだよ」
「だからなに?」
「イヤなんて言える訳ないだろ? 通じる訳ないだろ?」
「イヤなら言えよ、イヤって言えよ」
「だから病気って言えよ言ってくれよ…たのむよ…死ぬのが怖いんだよ」
「シトリー」
シトリーの服屋の外で待つ隊長がタバコに火をつけ吹かし、仲間の坊主兵達と話を始める。
「ふう~おそいな?」
「仮病かな?」
「よくあるやつだな」
「まあ…来ても先方隊だ、すぐ死ぬだろうがな」
「世界最大アナ帝国の主力軍勢が、ついにレナ王都制圧に動くそうじゃねえか?」
「鬼才と呼ばれる『皇太子アーネスト』自ら指揮するらしいな?」
「宿敵レナ国を倒し、聖水アークを奪還すると自ら指揮を志願したそうだな」
「皇太子自らでアナ帝国の兵の指揮を上がりまくっていると聞くぞ。 向こうの総数40万らしい」
「言っておくがよ~ それどころじゃねえぜ、副将に『怒髪天キングレオ』だ」
「キングレオって? マジか? 世界の聖騎士序列2位のビジャ国の聖騎士が? 」
「ビジャ国は勝ち馬に乗るんだろ? 怒髪天と兵3000をアナ帝国に貸すらしい」
「怒髪天とかシャレにならん…俺の父が言っていた、アレはもう人間じゃないと…」
「アナ帝国の先陣には名将と名高い『フレデリクス烈将軍』、それに戦いのプロ、『ドトール闘技場の剣闘士』達も導入するらしいぞ…もうレナ国も終わりだな」
「もはやレナ国の兵は、どう絞り出しても3万いるか、いないか…」
「隊長? どうするよ?」
タバコを吸っていた隊長はタバコを落とし、踏み消した後に仲間を睨みつけた。
「レナ国が降伏しないなら、逃げるに決まってるだろうが? 相手は皇太子率いる40万だぞ? 怒髪天だぞ? 名将フレデリクスだぞ? あのドトールの剣闘士達だぞ? 100パー死ぬわ、童貞で死にたくないわ」
「隊長? 逃げるってどこに?」
「誰でも受け入れる、ならず者国家があんだろ?」
「あ? そういうえば」
隊長は「シュッシュッ」っとシャドウボクシングの様な事をしながら、
「俺はかなり強いが、今回はあまりにバカげてる、『登龍門』に入って武でも極めるわ。 オレはもっと強くなれる」
「俺たちは隊長?」
隊長はシャドーボクシングの様な事をピタッと止め、ニヤケて仲間を見て、
「なんなら、俺に付いて来るか?」
「ああ、隊長、俺たちはどうせ他に行くところも無いしな」
隊長はまた、新たなタバコを口に咥えて、
「頃合いを見計らって、逃げっぞ」
「これから徴兵するシトリーは? 連れていくか?」
隊長はマッチでタバコに火をつけ仲間を見渡して、
「邪魔になるだけだろ? 腑抜けはいらんしな……ぷっ」
兵隊達が「はっはっはっ」と笑っていると…
スフィアが服屋の戸をパタンと開け出て来て、戸の前に立ち、両手を広げた。
「シトリーは病気だ」
隊長はタバコを吹かしながら、通せんぼするスフィアを見つめ、
「すまんが、病気でも連れて行かなくてはならん。 これは戦争だ、無理矢理でも連れていく」
「戦争だからな、本来なら行くべきだが…シトリーは特別なんだ、物凄く弱いんだ、でも凄く優しいんだ」
隊長はタバコを持ちながら歩み、スフィアの前に立ち、
「どいてくれ、手荒な真似はしたくない」
「ワタシがシトリーの代わりに徴兵を受ける」
「なんだと? お前、本気で言っているのか?」
「シトリーに人間は殺せない、連れていくだけ無駄」
「女…お前は人間を殺せるのか?」
「殺せる」
と即答で返した。
「フフフ、面白い女だな? 名前は?」
「スフィア」
隊長はタバコを深く吸った後に、
「スフィアか? 俺は、お前の入る隊の隊長グルギュラだ覚えておけ」
グルギュラはタバコをポイ捨てして、踏み消し、スフィアに背を向けた後、
「明日の朝、向かいに来る。 言っておくが今夜が、お前の大切なシトリーとの最後の夜になるかもしれんぞ…」
グルギュラと若い兵達は去った。