74話 ースフィア編ー ドトールの街
5年後 (1話から11年経過) (メロディの生まれた年)
ワタシは22歳になった。
ワタシの髪を切るアモンは、
「これくらいで?」
手鏡を見るワタシは、肘の所くらいまで切られた髪を触り、
「これくらいだな、ありがとう」
アモンは顏の髪をはたきながら、
「どういたしまして…ところで本当に行くのか?」
「うん、そろそろ動かなきゃな」
「それにしてもなぜドトールなんじゃ?」
ワタシは大きなずっしり金の入った袋を持ち、馬にかけながら、
「前に話しただろ? ドトールのクロス男爵だ。 昔、借りた金を返さないとな、それにクロス男爵はアナの爵位を持つ、パイプを作っておいた方がいい」
「それで、街の高利貸し襲いまくってソレだけの金を?」
「取り立て無くなって喜んでいる人たちの方が多いからな、アモンと雷神の、当面の生活費は水車小屋の中にあるし、馬も二頭置いていく」
「雷神は喰うからな~~御飯が大変じゃ…それと」
不気味な顏のアモンがにやけて、
「スフィア…袋の中を見たぞ…化粧なんのつもりじゃ~~お前が化粧なんて見たことも聞いたこともないぞ~~」
「ばっばか! 時と場合によれば必要かもしれないだろ!」
「ふぉふぉふぉ、顔が赤くなっとる、まあ頑張れ」
雷神が水車小屋から出て来て、寂しそうな顔で…
「スフィア…いくの?」
5歳なのにすでにワタシやアモンより背が高い雷神。 顏は優しい顏…髪の毛は白…ワタシを犯した人間に白い髪などいなかったのにね…その白い髪をポンポン優しくたたき、
「雷神、しばし待っててくれ」
「うん」
「アモンにしっかり指導を受けろよ」
「うん‥かあさ」
ワタシは睨みつけた。
「うっかりでも言うな…」
「うっ…うん」
「雷神…お前はいずれ、この星を支配する神だ…母など居ない、分かったな?」
「うっうん…分かった」
ワタシは笑い、
「雷神に土産を持ってくる」
「うん…」
馬を走らせる。
10日走り…
アナ帝国の忌まわしいドトールの街についた。
街をちゃんと見るのは初めてだけど…すごい大きいな街だ。
あの…ドトール闘技場の前を馬でゆっくり通る。
手が震える、チラッと見る、頭が熱くなる。
馬を馬置き場に置いた、右目を見られない様に長い髪で隠すと、
すぐ係が来て、
「馬置き0.1金です」
「はい」
入場口へ行く、
「もう最後の試合なんで割引で0.2金です」
「はい」
「今日のメインは王座戦だ、王者ブッチャーに新鋭バルムートが挑む大一番だ」
バルムート? どこかで聞いたような?
入る、観客席が近い…地上から下に観客席がある構造だったのか?
満員の観客、熱気が凄い、昔と同じ…?
一番の上に立ち、腕を組み試合を見る。
《 それでは!! 伝説の絶対王者バルバトスの子!! 復活したガントレットは誰も止めれらない!! ふ! ふ! 不殺のバルムート―!!! 》
そうか? バルムートは、ワタシが殺したバルバトスの息子か…
その時、重たそうな瓶を背負った売り子の子供が来て、
「おねえさん! 発泡酒どうですか!?」
なんか人の良さそうな男の子…少しは軽くしてやろうと金を払い、貰う。
「ありがとうございました!あの、どっちを応援してるんですか?」
「ワタシか? どっちでも」
「ならバルムート覚えていた方がいいですよ?」
「なぜ?」
「赤い髪のメロディをペット(奴隷)にしてから全戦全勝だからです」
「赤い髪のメロディ?」
「バルムートのペット不死鳥のメロディですよ」
ワタシは癖の『へ』の字口で、
「ふ~~ん」
遠くのごろつきが、
「おい! 酒くれや」
「こっちもな!!」
「へい! よろこんで~♪ ソールドアウトできるかも!」
作り笑いで行った。
あの子…きっといい大人になるね…
試合が始まった。
ワタシの前の座った観客たちは、
「うわ!! 今の攻撃やべええ!!」
「きつ…イヤヤヤバい…賭けてんだぞ! デブ!!おい!!」
「新王者誕生かよ!!」
「バルムート!! バルムート!! バルムート!!」
熱戦だった…のか? たぶん他の観客にとってはだろうね…
勇気を振り絞って入って良かったな…
安心した…この試合を見るまで正直、恐怖心を抱えていたコノ場所が
棘艶も狂気も実力までも無くなってしまっている。
観客もあんな試合で…
腰のステラジアンに手をやり、
「あのレベルなら…今ワタシが行ったら、あの王者も全ての剣闘士も殺せるな……まあやらないけど」
酒を飲まずに逆さに流し木の器を捨てた。
それに気づいた、さっきの子供の売り子が「え?」って顏で見ていた。
笑顔で返し、闘技場を後にした。
クロス男爵に会う前に行きたいところがある…
高級な服屋を見つけた、どうやら装飾品も売ってるらしい。
入ると、貴婦人風のおばさんが、
「お客様? 何をお求めで?」
「正直、ワタシは詳しくない」
10金をカウンターに出して、
「これで適当にマシな格好にして欲しい」
「いやはや、今日は暇でしたので大助かりですよ」
店の鏡をチラッと見て、
「…化粧とかもできるのか?」
「はいはい、大丈夫ですよ♪ お化粧はサービスでしますからね」
すぐに黒のワンピースを渡された、着衣室で着て出る。
鏡に映る。
生まれて初めてのワンピースだ…うわ…なんだこれ…
貴婦人は嬉しそうに、
「やはり、予想通りですね、あなたには黒が似合うと思ってました」
「似合ってる? なんか…おんなおんな過ぎて…」
「とんでもありません! ワタシは有名なプロですよ! ぜ~~たいに似合ってますから!」
「うっうん…わかったよ…」
貴婦人はネックレスを持ってきて、
「黒の服にはこれですね…黄金のネックレスか…ダイヤ??…少々…お値段がはずみますが・‥‥もう少し出せますか…? いえ…どれくらい出せますか?」
「いやっ…ちょっと、これ以上は…」
なんか「ちっ」って聞こえたような。
「そうですか、ならシルバーですね」
「それでいい」
「ならシルバーのブレスレットもつけましょう。あとヒールも。下着もどうですか?」
「下着?」
「そうですよ、もし今夜、殿方とお会いになるなら全てを新調された方がいいです」
「分かった分かった」
30分後…
完全に改造された。
「うわ…こんなに変わるんだな…ワタシ」
「あとはコレですね…」
「なに?」
小瓶を見せつけてくる。
「香水です…これは限定でウチでしか取り扱ってません…」
貴婦人が手の甲にシュシュとかけた後に、手を持って来て、かがせてくる。
とてもいい匂い…香水…無茶苦茶、欲しくなった。
貴婦人は香水を嗅ぎながら、
「いい匂いでしょう…コレを入れると少々、ご予算を越しますけど…」
「この香水の名前は?」
「ルカ」
「ルカか…貰おうかな…二つ…買っとこうかな…」
「ありがとうございます♪」
清算 12金 2金を追加で払った。
ヒールって…歩きずらい。 すぐに前の靴に履き替えた。
宿に行き、馬を置き、部屋を借り、部屋に入り、窓を開けると、
クロス男爵の屋敷は容易に分かった。
斜めの向こうに、『✖』印の看板の酒蔵に隣接した、屋敷。
あそこにクロス男爵が…
ヒールを履き、
鏡を見る…
あの時のように…




