73話 ースフィア編ー スフィアの涙
住み家案内の少年が笑顔で、
「どうですかこの物件? 家は平屋ですけど、広く暖炉も井戸もあります、ルーベラの街まで6キロですが希望通りの目立たない場所です。すぐそこに湖があり釣りもできますよ。 賃貸月々1.5金、買取50金です」
ワタシは腕を組み残念そうに、
「すまないが、ここはダメだ。 ほかに無いか?」
「え? 最後に一つだけありますけど…さらに遠くなりますよ…」
「ワタシ達には街で買った馬もある、ぜんぜん問題ない」
住み家案内の少年はサッとロバに乗る。
ワタシは、雷神を抱えたアモンを「せ~のっ」と馬に乗せ、ワタシも乗り手綱を掴んだ。
「距離がありますので少し急ぎますね」
パッパカパッパカ 先行のロバは走る。
ワタシも長い髪をたなびかせながら走る。
後ろからアモンがワタシの長い髪を邪魔そうに、
「スフィア? いい家だったじゃろ? 立派なベッドまで付いていたのに?」
「その子は巨体だ、いずれ4メートルを越す、あの家では小さすぎる」
湖へ繋がる川を上流にひたすら走る…
やがて、水車小屋が見えた。
あれか?
水車小屋の傍で、ロバを止めた少年は苦笑いで、
「ここですけど…」
川の流れで動く水車、少しはなれた所の岩山には洞窟がある。その入り口の大きさは高さ5メートルほど、横は4メートルほどだ。
後ろからアモン、
「スフィア…まさに」
「ああ…」
ワタシは馬から下り、小屋の戸の前に立ち、
「中を見ていいか?」
少年はロバから下りて、
「どうぞ」
戸を開けて、奥の水車の機械を見ながら、
「あれまだ使えるな? 少し手を加えれば機を織れるし、鍛冶もできる」
「はい、そうですね、でも家族3人で暮らすには狭すぎるかと小屋の半分が水車の機械の作業所に取られていて、大人二人寝たらもう余裕は無いですよ、それに街まで20キロです。」
「ひたすら川を下れば都市ルーベラだな?」
「はい」
「ここに決めた、いくらだ?」
「あ、ありがとうございます! きっと旦那様も喜びます! あの…買取しかダメで8金ですけど」
ワタシは10金を袋から取り出し、
「釣りはいい、お前が取っておけ」
「こんなに? ありがとうございます!!」
少年は何度も頭を下げて、ニコニコ笑顔で最後に挨拶して去っていった。
ワタシは馬の両サイドにかけてた物資の入った袋を下した。
さてと…アモンに買い物を頼んでいた物資の中を見るか…
お鍋、お酒、たばこ、お酒、たばこ、……マッチ
あ?…なんだよこれ? 酒とタバコとばっかりじゃないか?
食料とか紙とか鉛筆とかノコギリとか粉ミルクとか無いのかよ…
早速、アモンを怒ろうと思ったけど…
「おうよちよち、おじいちゃんとこれから住む家ですよ~♪」
「う~きゃきゃ♪」
もういいや…新居、初日だし怒るのやめよう。
「ならず者国家」のここまで、雷神を抱えて来てくれたからな…
明日、ワタシが街で必要なモノを買ってくる。
ワタシは川の水に膝まで浸り、腰の聖剣ステラジアンを抜き、
シュッシュシュシュ
突き、水面に30センチくらいの魚を4つ浮かばせた、ここなら食料は簡単に手に入る。
その夜…
枯れ木をくべて、火をおこし、前の街で買っておいた塩を魚にかけて焼く、焼きあがった魚をアモンが一口食べて、
「うまい! なかなか」
「水がキレイなんだろうな? うまいな」
「ぎゃあ! ぎゃあ!」
布を巻いて置いた雷神が泣き出した。
アモンは優しくなで、
「お腹が空いておるんじゃ……」
こっちを見てきた…
目を逸らして、魚を食べる。
「アモンが粉ミルク買ってこなかったから仕方ない、明日、買ってくる、一日くらいなら死なない」
「粉の乳より、母乳の方が栄養が高い、飲ませてやれ」
「いやだ」
「雷神を、強い神にしたいんじゃろ?」
「うっ…分かったよ」
ワタシは雷神を抱き、胸を出す。自然に吸い始めると子は目をつむる。
「雷神…よく飲むな…吸う力も強い」
アモンは、ワタシと、乳を飲む雷神を見る。
「ワシが武などお前に教えなければ……いやワシがお前に会わなかったら‥‥おまえは優しい母で幸せな人生を…」
「タラレバは言うなアモン」
ワタシは乳を飲ましながら、酒瓶を渡す。
「飲めアモン、今夜はワタシも飲む」
「いただこう」
雷神は腹いっぱいになったのかな? 眠った。
それから、ただ沈黙に飲む…
「おやすみ」
焚火が消えると、アモンは小屋に雷神を抱いて入った。
川のせせらぎ、
闇を照らす星達、
フクロウの鳴き声、
ワタシの気持ちを汲んでくれるようだ。
見えない右目が熱くなる…瓶を握りしめ、泣いた。




