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69話 -スフィア編ー 髪



   「やめてくれ」



 クロス男爵の言葉で…ワタシは噛み切る舌を戻した。

 クロスは調理場で何かをしながら、

「ハルゴ砦の奇跡スフィアに5万金以上をかけた…フフ、うちの家の金庫はもう空みたいなもんだ…だから…そんな簡単に死なないでくれ」


「なぜ…こんなワタシを助けた? この体はもう戦う事もできない…正直、政治的利用価値も無い…」


「だからスフィアを5万金で手に入れられた、あの奈落の底にいたスフィアは最安値だからな」


「だからなんでワタシなんかに投資するんだよ? サラシ女の言った通りだよ、もうスクラップだ」


「オレは直るのに賭けた、それだけだ」


「直らないよ…どこも…」


「そんな事を言うな…5万金は、永遠に低い爵位で頑張ってきた俺の代々の先祖たちが積み上げてきた全ての金だ」


「そんな大事な金…バカかお前?」


「ずっと上を見上げていたクロス家は…オレの代で博打に出る、一年前なら1億金以上の価値があるスフィアを最安値で買う賭けにね…さてと」


 クロスは緑色のネトネトしたモノの入った器を持ってきた。


「なんだそれ?」


「薬草の治り草だ」


「そんな高価なモノ? しかも、こんなに?」


「体に塗れ、完全に治るかは分からないけど効果は絶対にある」


 器を受け取る、クロスは後ろを向いてタバコに火をつけた。

 体に塗る、痛い…けど…この一年の痛みに比べたら大したこと無い…これは全身いる…あ?


「股にも効くのかな? これ治るのかな?」


 クロスはタバコを持った手を上げながら、

「ははは、さあな、気になるなら塗ってみろよ」

 再びタバコを吸い始める。


 下に塗る…うっ…アイツのが…思い出してしまう。

 この一年で無数の男の種を入れられた事を…


「終わったか?」


「うん…でも…」


「背中か? オレが塗ってやる、うつ伏せで寝ろ」


「うん…」


 クロスがタバコを消してこっちに来る、ちゃんと顏を見てなかったけど、30歳くらいの髭のよく似合う、背の高い、かっこいい男…きっとよくもてるんだろうね…


 背中に治り草を塗ってくれる。 優しい手使い…なんか気持ちいい…

 ボソッとクロスがささやいた。


「 DOG か…奴ら…こんな大きな焼き印を…ここはよく塗っておくな…」


「クロス!」


「なんだ? どうした?」


「そこは塗らないで」


「わかった」


「……ありがとう」


 塗り終わり、

「ワタシは朝から酒蔵の仕事があるから帰るが…」


 クロスが棚を親指で指し、

「食料はあそこにある、治り草もな」


 次に横にある大きな(かめ)をポンっと叩き、

「水もだいぶある、今度来た時に、また水と食料を持って来る」



「次はいつくるの?」


「5日後の昼かな、怪しまれてもアレだ…頻繁には来れない」


「わかった…」


 クロスは棚から一本の葡萄酒を取り出し、ベッドの横のテーブルに置く、今まで気づかなかったけど、その近くに手鏡が置かれていた。

「オレからの出所祝いだ。うちで作っている葡萄酒だ…フフ…多少の酒は身体に良い」


『✖』のラベルが貼ってある。

「クロス家はそれ作っているんだ?」


「残念ながら、ドトールで一番安い酒だよ…俺以外の貴族は誰も飲まない…」


「贅沢だな貴族は?」


「味は悪くないけどね…飲みやすいし…まあ気が向いたら試飲してみて」


 猫のラベルの葡萄酒を思い出して、

「最後に聞きたいことが、笑った猫のラベルの葡萄酒を知らないか?」


「レナの有名な酒だよ、オレの知る限り最高の酒だ…」


 クロスは背を向け、

「質問してきてくれて良かった…もう大丈夫かな?」


「え?」


「自殺はするな……スフィア…」


「なに?」


「なにがあってオレはお前の味方だ……それと…これからは同等のバディだ…」

 格好良く去る。


 馬の鳴く音が聞こえた。



 あの

 かっこよさ  やさしさ  いさぎよさ  さわりかた



 救ってくれたクロスは女たらし…と、分かっているけど…


 鏡を見るため…立てた… 自分(おんな)の力で…


 髪が肩まで伸びていた…

 優しく

 前髪で右目を隠す。




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