62話 -スフィア編ー スフィアvsバルバトス
スフィアはドトール闘技場の王者バルバトスの動きを見て止まった。
「えっ?」
「どうした? 早くオレを倒さないとフレデリクスの軍が来るぞ」
冷や汗と笑みを浮かべるスフィアは、
「今の反応? まさか合気か?」
「なにそれ?」
「合気じゃないのか?」
バルバトスは右のガントレットを突き出し、
「どんなヤツでも最後はこの拳でぶん殴る、それだけだ! 行くぞ!!」
バルバトス! 低く! スフィアに速く近づき!
下から右のガントレット ブゥゥーーーン!!
横から左のガントレット スゥゥーーーン!!
とにかく速い、そして圧倒的破壊力。
とても前には出れない、スフィアはひたすら避ける側に立つ、心の中で、
( ガントレット、剣では弾き飛ばされ、かえって不利 )
距離を辛うじて取ったスフィアはステラジアンを鞘に戻し、姿勢は中腰で両手をぶら下げて
「来い…」
「なるほどね、オレを倒すには体術しかないと思ったのか?」
バルバトス襲い掛かる!
右のストレート!
スフィアは見切って避け、右手を取り脇固めを図るが、バルバトスは柔らかく身体を前転させて阻止!
その直後であった!
スフィアの速いハイキックがバルバトスの首筋を襲った!
が!
バルバトス、ガントレットをクロスさせ防御。
鉄入りの靴先からジーーーンという感触が頭まで伝わったスフィアは、サッと足を戻し、また距離を置く、
「つっ強い…なんてもんじゃない」
バルバトス、クロスしたガントレットの隙間から目を出し、
「お前もな、速すぎて拳が当たらない」
少し前から雷に雨脚が強まっている。 土の地面、二人の足場が悪くなっていく、避けが中心のスフィアにとっては不利である。
バルバトスはスフィアの足元の、完全にぬかるんだ地面を見つめながら近づき、
「どうやら神はオレに味方したようだな」
「フッ、油断するな? お前のガントレットに雷が落ちるかもしれないぞ」
「なら近くのお前も死ぬな? くらえ!!」
バルバトス! 射程距離に入り!
己の奥義! 『ガントレットでの極めの打撃』をスフィアへ!
引き込まれるようなウネリを持つ破壊の打撃、圧倒的な速度!
その一瞬
バシャーーーーーーン
岩に砕ける大波の如く、高く舞い上がったドロしぶき…
なにが起きた?と、ドトールの剣闘士、レナの兵は、しぶきを見る。
二人の死闘の行方を、気にしていた一部のドトールの剣闘士、レナの若い兵達に何が起きたか見ていた者もいた。 バルバトスの『ガントレット極めの打撃』が超人的な速度と破壊力だったゆえに、凄まじい破壊力と化した投げ…
『一本背負い』
「うっっっ…ぶえぇぇ」
仰向けで倒れるバルバトスの口から血がゴボっと出た。
バルバトスの右手のガントレットを掴み立つ、スフィアは、
「完璧だった…さてと」
バルバトスはスフィアを見上げ、
「やめろ…やめてくれ…」
「コレは戦争、背骨だけじゃダメなんだ」
仰向けのまま、ゆっくりと首を振るバルバトス
「たったのむ殺してくれ…」
「圧倒的な強さのお前が不具になれば最高に敵兵の士気が下がる。 今ので死ねなかったのは、お前は神に見放されたのかもな?」
スフィアはストンと倒れ込み…腕十字を…
ギッボギ…さらに締め続ける…
すでにバルバトスは失禁し、意識も失っていた。 身体はガクガクと小刻みに揺れている。 それでもまだ締め続けている…
バルバトスの姿を見たドトールの剣闘士達は完全に戦意喪失…
剣闘士の一人が、
「やめだ! 俺達ドトールの剣闘士は! 撤退する!」
それを聞いたグルギュラは、
「今さら! なにを言う!」
スフィアはサッとバルバトスの腕を離し、
「グルギュラ帰らせてやれ! バルバトスも連れて帰れ!」
生き残った剣闘士数名は10頭馬車に、スフィアにやられた負傷者達を運び、アナ帝国の方へ…
「はいや!」
馬車を走らせた…
去り行く馬車を見るスフィアとグルギュラ。
スフィアは背の高いグルギュラを見上げながら、
「31番隊は無事か?」
「ああ、それにしてもお前は恐ろしい女だぜ」
スフィア己の右目を指差し、
「向こうの一番手はワタシの眼を狙っていたからな、お互い様だ」
スフィアはステラジアンを抜き! 高く掲げて味方の兵に!
「さあ! 陣形を整えろ! 勢いは我らにある!」
ドトールの剣闘士を乗せる馬車の荷台の上…
剣闘士達、負傷者を応急処置している。
「ひでえ…あのバルバトスさんがこんな目に…」
「他の上位剣闘士も酷い…ドトール闘技場の面目丸つぶれだ、あの女許さねえ」
眼を失った忍者男が両目を押さえながら
「あの女の名はスフィアだ! わざと見せしめにするために! 戦闘で死を覚悟している俺達をこんなにしやがった!」
股間を触りながらグテッとしている黒サラシの女、バルバトスを見て、
「はぁはぁ…バルバトス、たしか死んだ女との間に息子がいただろう? いつも父の試合を観に来ている子…うぐぐ」
剣闘士の一人が、
「たしかバルムートだっけ? 可哀そうにな…自慢の父が…」
馬車の前方にアナ帝国の軍隊が見えた。




