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58話 -スフィア編ー 幻の奥義『空』



 14日後の深夜…



 指揮官室のベッドの上で、アグラで座るスフィアと、正座で座るミスティ。

 ミスティは頭を深々と下げて、

「師匠、今夜も御指導ありがとうございました」


 スフィアはニコっとミスティの眼を見つめ、

「前のミスティとは比べ物にならないくらい強くなった」


「今なら、あの時のサラマンドに勝てますか?」


 スフィアは少し考えて、

「合気の練習を続ければ、そのうちサラマンドを越える」


 ミスティはニコリと笑い。

「スフィアの合気はホント凄い『打撃』『投げ』『極め』『斬る』『突く』 そして、『軌道』と『くう』…全て体得できた人はいるの? スフィアは全て体得できてるの?」


 スフィアは苦笑いで、

「アモンは『打撃』『投げ』『極め』『斬る』『突く』までで、ワタシはそれにプラス『軌道』を体得しているけど後は『空』これが合気の最終地点かな」


「『空』か~『空』ってどんなモノなんですか?」


「 1の力を10にも100にもする神業(かみわざ)



 ミスティは嬉しそうにスフィアに目を輝かせて、

「100倍強くなれる!? きっと師匠なら体得いけるわ!」


 スフィアは申し訳なさそうミスティを見て、

「でも合気の歴史上ただ一人も体得した者はいないらしいけどね…。 遥か昔の言い伝えでは……この「星」が認めた者のみ体得できるとか…神話のような奥義だよ」


 ミスティはガックシと、

「ならさすがの師匠でも無理ですね? まあ『空』なんてなくても最強ですし」



 スフィアはベッドから降り、石畳の上で寝転がり


「さあ、今夜はもう寝よう、3時間くらいは寝れる」


 ミスティは石畳の上で横になるスフィアを見つめ、

「相変わらず、床が好きなのね?」


「うん、地面の方が好きなだけ…おやすみ」


 ミスティも横になり、

「タヌキが1匹、タヌキが2匹、タヌキが3匹……zzz」




 その頃…


 アナ帝国の帝都城の松明を焚かれた庭園では、酔いつぶれた数人の若い男女が倒れている中、小さな円卓に向かい合い座る、アーネスト皇太子と、鎧兜を着けた30代のフレデリクス将軍の姿があった。


 アーネストは一回り年上のフレデリクスにグラスを突き出し、

「しかしフレデリクス将軍は酒が強いな?」


 フレデリクスはグッと飲んで、

「皇太子、酔っぱらって倒れている皇太子の悪友と同じにして貰うと困ります」


「少し失礼な言い方ではないか?」


 フレデリクスは足元で倒れているちょぼヒゲを足で踏みつけ

「ならば付き合う相手は考え直した方がいいでしょう、いずれ皇太子はアナ帝国の皇帝になるお方、その先は…フフ」


 フレデリクスは自分の前の酒瓶を、皇太子の開いたグラスに注ぎ…

「皇太子、飲んでみてください」


 皇太子はフレデリクスの失礼な言動に苛立ちながら、グラスを持ち、少し飲むと、

「水? お前は、ずっと水を飲んでいたのか?」


「私は皇太子の顔色を伺うつもりなど無いです、しかし皇太子に万が一が無いように常に警戒していました、だが、この寝転がっている輩共は警戒心の欠片も無い…圧倒的優位とは言え、レナ国との戦時、いつどこで何が起こるか分かりません」


 皇太子は手に持ったグラスを見つめながら、

「なるほど」


 フレデリクスは水を飲み干し、水のオカワリを注ぎ…

「しかし、ワタシがいるかぎりご安心を」


 フレデリクスが手をパンと叩くと、近くの茂みの中から黒い犬がヒョコっと顔を出した。

「ワン…」


「犬? いつからだ?」


「最初から、そこの茂みの中に忍ばせていました、この犬はレナの人間の匂いを嗅ぎ分ける…もしレナの刺客が近くにいたならば吠えていたでしょう」


 皇太子アーネストは嬉しそうに、

「相変わらずフレデリクスは隙がない」


「皇太子、進言しておきます。 あなたはアナの皇帝になり世界を支配する心をお持ちならば友など持たない方がよろしいかと」


「上に立つ者は孤独だな」


「孤独だから「結果」が全て」


 フレデリクスは立ち上がり、

「さあ、寝室までお供します、そろそろ終わりにいたしましょう」


「そうだな」


 酔っぱらっている皇太子に肩を貸したフレデリクスは、

「出陣まで3日、皇太子、約束しましょう」


「なにを約束する?」


「今回の戦争では、レナに奇跡など起こさない事を」


 皇太子は手に持っていたグラスをフレデリクスの目の前に見せ、


「最後に余からの頼みだ一口、飲んでくれないか? 中は水だ」


 フレデリクスは毅然とした態度で、

「お断りします」


 皇太子はグラスを逆さまにして酒を落とし…


「まあ…お前なら奇跡も寄せ付けないだろうな…」



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