表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/130

56話 -スフィア編ー アビゲイル



 金色の長い髪の女アビゲイルの接近に、髪の短い女スフィアは両手を出し構える。 腰の「ステラジアン」は使わない。

 アビゲイルのカタナの間合いに達した…


 だが、カタナを放てない…勝てないと悟ったからだ。 腰の剣を使わないスフィアの構えには余裕すら感じ… 己より武力が格段上な父が殺られた事実…


 思考した…

 表情には一ミリも出さず、眼はスフィアから一ミリもそらさず、扉から覗いた時の事を思い出す、一番、弱そうな者を、覇気の無い剣の構えと顔の、もう一人の女が明らかに弱い。 それに…上級職であろう衣服。


 心の中で、横に立つミスティに狙いは定まる。 人質にし、優位に立つ。


 アビゲイル、サッと、ミスティに方向転換し目を向ける。


 こっちに向かれたミスティは、

「ほえ?」

 驚いた。



 その一瞬、カタナを持つ両手は、スフィアの両手に掴まれた。

「ミスティ狙い、やると思った」


『合気』を持つスフィアに手を摑まれたら、アビゲイルの体は折り紙も同然、カタナは瞬く間に手から離され、うつ伏せで倒され、右腕は乗られたスフィアに極められる。


「ぐっ! クソが! 殺せ!」

声を荒げるアビゲイルにスフィアは、

「黙っていろ」


 スフィアはミスティを見上げ

「どうする? 指揮官?」


 ミスティはアビゲイルに歩み寄って屈み、顔を近づけた。

 すぐさまアビゲイルは、顔を上げ「ペッ」とミスティの顔にツバを吐きかけて、笑みを浮かべながら、

「お前の様な女がハルゴ砦の指揮官だと? レナはもう終わってるな?」


 唾を手で拭いながらミスティは笑みを浮かべ返す

「その言葉、昔に聞いてます」


「ははは、そりゃ、そうだろうね」


 ミスティはアビゲイルの頭を指先でピンピンと叩き、

「勝てば官軍負ければ賊軍、それがワタシの座右の銘」


「なに? なら、その覇気の無い顔に剣の構えが演技なのか? 確かにツバをかけられても、その余裕…ただ者じゃないかもしれんな? …そんなのどうでもいいわ! 早く殺せ!」


 ミスティは立ち上がり、グルギュラに、

「直ちにアビゲイルを連れて行き、首を討ちなさい」


 アビゲイルはその言葉に、

「上等、笑いながら討たれてやるわ! はははは!」


 グルギュラはチラチラとアビゲイルを見ながら、

「しかし、指揮官? なにか情報を持っているかもしれません、 敵の数とか? 怒髪天が来るとか?」


 アビゲイルの上に乗っているスフィアは、

「グルギュラ、あいにくだが、この女は何一つ情報は持ってないぞ。 どうせ金で雇われた剣闘士だ、皇太子アーネストは捕らえられても問題の無い者を刺客に放ったはずだ」


 グルギュラは残念そうにアビゲイルを見つめ、

「そうか…」


 スフィアはグルギュラに、

「手枷を持ってこい」

 次にミスティを見つめ、

「ミスティ、この女は利用しよう」


 アビゲイルはポツリと、

「殺せ、はやく、殺せ…」





 翌日の朝…

 演習広場にはハルゴ砦のほとんどの兵が集められていた。


 砦の中では、ミスティがスフィアに不安げな顔で、

「本当にそれでいいんですか?」


「ああ、勝つためには、わが軍の兵を鼓舞し、狂気させ、騙す魔法をかける必要がある」


 ミスティはうなづき、

「分かりました」



 白いタヌキ兜を被ったミスティは白いマントをたなびかせ、演習広場に出た。

 若い坊主頭の男兵達、短い髪の女の兵達は、

「指揮官が来たぞ!」


 ミスティは兵達に、

「昨夜! 敵の暗殺者がワタシの部屋に来て指揮官であるワタシの命を狙った!」


「え? 敵が?」

「指揮官大丈夫だったんですか!」


 その兵達の声に答えるように、スフィアが扉の入り口から、アビゲイルの父の死体をズルズルと表に出した。

 すぐにミスティが死体を指さし


「この男はドトールの剣闘士! だが腕は未熟! ワタシを襲った成りの果ての哀れな姿がコレだ! 有名無実とはまさにこのこと!」


 兵達はざわめき始めた。直後、グルギュラがアビゲイルを連行して来た。


 アビゲイルの姿は手枷をされ、口には自決しないために布を巻かれていた。

 ミスティはアビゲイルを指さし、

「この女の名はアビゲイル!! ドトールの剣闘士の女!! 命惜しさに、この女が敵軍の実情を全て吐いた!!」


 アビゲイルはミスティを睨みつけ、

「う~~う~~」


 ミスティは指2本を突き出し

「敵軍は2万!! 怒髪天は来ない!! ドトール闘技場はやらせ!! 敵将フレデリクスはヘタレ!! 皇太子アーネストはマザコン!!!」


 その言葉に兵達は、

「まじか?」

「40万から2万って簡単じゃないか?」

「攻城戦なら勝てるんじゃない?」

「マザコンさいてー」

「敵将がヘタレって…」

「怒髪天来ない~良かった~」

「ドトール闘技場ってやらせだったんだね」



 ミスティは兵達に歩み寄り、近くの男兵達に、

「この戦! 戦果を挙げた兵達には!」

 アビゲイルを指さし、

「あの女を好きにするがよい! 褒美の一つだ!」


 その言葉にアビゲイルは目をか開き、ミスティを見た。

「う!! う~~」

 男兵達は、盛り上がりを始めた。


 ミスティは兵に、

「戦はもう近い!! 修練に励め!!」

 砦の中へ、スフィアもそれに続いた。



 残された、アビゲイルは涙を流し、

「う~~う~~~」


 グルギュラは、泣くアビゲイルを砦の中に連れて行くために、グッと引っ張る。



 その途中だった。 若い男の兵達から、欲情の眼を浴びて泣くアビゲイルにグルギュラは、


「死ぬよりつらいかもしれんが、死ぬよりマシだ」


「う~う~」


 砦の中に入り、

「俺が一番、手柄を立ててお前を救ってやるよ」

「うっ? うん…」


 砦の入り口の片隅で、腕を組んで盗み聞きしていたスフィアは目を瞑りながら、


「フッ」


 笑った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ