53話 最後の夜に追憶を
一か月後…
ホギ国王の居城…
王族居住スペースに上がる螺旋階段の中腹に、雷神グループの、「犬」のスフィアと「鷹」のシトリー。 もう一人、マスターと呼ばれる…顔も頭も傷だらけのボロを着た剃髪の初老がいた。
スフィアとマスターは、シトリーに剣の指導をしていた。
マスターはバランスの悪い階段で修行している、シトリーの剣技の動きを見て、心からの呆れた小声で、
「 同じスフィアの子なのに、ここまで違うとは…」
スフィアはマスターを睨みつけ、
「二度と言うな…誓え」
マスターは慌てて、スフィアに頭を下げ、
「ごめん…もう二度と言わないと誓う…申し訳ありません」
スフィアはシトリーの動きを見ながら、
「お前の経験上…これまでのシトリーの修行を見てきて、シトリーはどれくらいまで行ける? いずれはワタシに近づけるか?」
「スフィアに?」「フッ」と鼻で笑った後、真剣にシトリーの動きを見ながら
「絶対に無理」
マスターはスフィアに真剣な顔で、
「闘争心の差これが最大の原因じゃな、まあ…スフィアとの差は全てに遠すぎる」
スフィアは残念そうに…
「やはりそうか」
下の方からピチャっと僅かな音がした…スフィアは、
「廊下に張った水の音? ラドンか」
コツンコツンと靴の音を鳴らしながら「蛇」のラドンが現れた。
スフィアは、
「ずいぶんと時間がかかったな?」
ラドンはスフィアを見つめ、
「すこし欲しい物がありまして…雷神は?」
シトリーは剣技を止め、
「屋上で大イビキでぐっすり寝てる、城にあった酒ほとんど飲んでたよ 。飯もありえないくらい喰ってた。 でもラドンの分も残してくれてるみたい」
ラドンはフッと笑い、
「雷神らしい」
スフィアは修行を止めたシトリーを見て、
「シトリー、今日はもう寝なさい。今夜の見張りはワタシとラドンがするから」
「うん、おやすみなさい。母さん上の階にいる。街で話しかけて連れて来た旅の女とお酒飲んでいい?」
「好きにしなさい」
「やった」
シトリーは急いで、上の階に上がっていった。
マスターは呆れた顔で、
「相変わらずよの…」
スフィアは真顔で、
「あの子は、人間でも女には優しいから、父親似なんでしょうね…マスターも休んで」
マスターはもぞもぞっとタバコを取り出し咥え、置いていた酒瓶をよっと手に取り、
「スフィア、そうさせて貰います、適当に部屋を使わてもらいます」
の~そと一歩ずつ一歩ずつ遅く、マスターは上に消えた…
今夜の雷神睡眠中の見張りは「犬」のスフィアと「蛇」のラドン。
ラドンは持っていた布袋を、
「どうぞ」と
スフィアに渡した。
「なにこれ?」
「遅くなった理由です」
スフィアは布袋を開けた。
「これは? 薬草の治り草?」
ラドンは恥ずかしそうに、
「山で摘んでまいるのに時間がかかりまして…」
スフィアは嬉しそうにラドンを見て、
「ラドンありがとう」
「いえ、あの……勿体ないお言葉」
「大切に使わせてもらっうっ…ごほごほ」
スフィアは悪い咳をした。 それを見たラドンは、
「大丈夫ですか?」
すぐにラドンは、綺麗な布をスフィアに渡した。スフィアはその布を口にやり、
「うぐっっもう…ラドン以外の仲間には隠し通せそうもない」
ラドンは不安な顔で
「スフィア様、俺はどうしたら…」
スフィアは優しい顔で、
「ラドン、上の階の左のすぐの部屋のテーブルの下に開けてない酒2瓶隠してある。取ってきて」
「しかし、今のスフィア様の体に酒は毒です」
「ラドン決めたの…」
「なにをですか?」
「今夜がラドンと…家族達との最後の夜とね」
「そんな…スフィア様がいなくなるなんて…」
「なにも、すぐに死ぬわけじゃない、ワタシは最後にアナ帝国でやる事がある。そのためには明日の朝、皆と別れないといけない。そのために、ワタシの奥義『合気』 そして究極の剣『ステラジアン』もシトリーに継承させた…」
ラドンはうっすらと涙を浮かべ、
「シトリーはお任せください…俺が必ず一人前にさせてみせます」
スフィアは左目を瞑り、ラドンに深くお辞儀をした後、
「夜は長い、最後の夜はお互いに酒を飲みながら前回の続き…ワタシの生涯、ワタシ達家族の事をラドンに聞いて欲しい」
しずかにラドンは2本の酒を取りに行った。
ラドンは酒をスフィアに渡し、横に座って、ぐっと一口飲み、
「お願いします…ハルゴ砦の奇跡スフィアの真実を…」




