48話 ドトール女子刑務所のボス 5
「殺れよ」
メロディは一歩一歩近づく…
「なに?」
ココは落とし穴の下を覗いた後、メロディの方を見て、
「それ以上近づくな!! 女達は死にたくないと泣いているぞ!!」
メロディは歩みを止め、
「ココ…おまえどこまで腐ってるんだ?」
「近づくなよ!」
「なにがレデイーナさんだ両親だ? つまらん自分語りとかくだらん…お前は、全て利用しか考えていない…性根が腐ってるだけ」
「ぐっ…近づくなよ…」
「両親を殺したって? 絶対にお前って可愛くないもん? 誰もが絶対にしない両親を殺すくらいだもん、なに正当化してる薄汚い心を」
ココのコメカミに血管が浮き出した。
「おまえ…」
「レデイーナって、あんたが酒場に誘って消えたんだよね? つまらんかったんでしょ? 普通に? ココという人間が? アンタと話して帝都離れる決心がついたんだろ普通に? うっとおしいから、邪魔だから、汚い人間だから」
さらにメロディは、いやらしい笑みの目で、
「でも♪ レディーナってドブネズミも汚い娼婦なんだろうけどね♪」
ココの表情は…
ギーギギギギーーーっと、完全に元の顔とは別人のようにキレていた。
キレたら損得関係無いココの足元に、火のついたタバコが落ちていた…
「殺す…おまえ殺す…ころっす」
ココは、己の最大の奥義!
両手両足で最大の力で地を叩き! 地をはう超高速タックルを放つ!
狙うのはメロディの足一本!
倒れたら、あとは鋭利な爪、噛み付き、得意の目潰し!
殺し合い、場慣れしているココの必勝スタイル!
「無茶苦茶速っふん!!」
メロディはココの胴体に速く強烈なキックを放つが!
ココはこれを渾身の力でキャッチしていた!
まさかの事態にメロデイは心の中で!
(まじでコイツつよい! ロメロとは比べ物にならない!)
血を口から零しながらココは心の中で
(なんだこの蹴り? 無茶苦茶、ぜったい骨いってるよ…)
足を取りバランスを崩させてダウンを取ったココは、瞬時に追撃の噛み付きを首に狙うが、間一髪、メロディは左手を出した。
それを予想していたココは、この流れは必勝スタイル…
左手で首を守るメロデイに出来た死角左側から、2の手の目潰しをメロデイの目へ!
ココは勝ちを確信した!
時だった…
メロディ…
残った右手で黒い口隠しをすっと目の上に巻くし上げていた…
ココの目潰しの手ごたえは、
硬っ
え?
メロディはシュっと黒い口隠しを外した、ココの右手の人差し指と中指の爪も黒い口隠しと一緒に持っていかれた。
ココはメロデイの顔の全貌を目の当たりにしながら、心の中で、
( 銅線のワイヤー? 編み込んでる? )
直後、右腕はシュルっと取られ、うつ伏せにされたココは、メロデイに腕固めを決められた!
「ぐぐぐぐががががあぁ…!ううううげっっげえぇぇぇ‥」
周りの女囚達から、
「殺せ!! 殺せ!! 折ーれ!! 折れー!!」
の大合唱が!
落とし穴の下からも、
「殺せ!! 殺せ!!」の声が!
囚人皆から死ねコールを一身に受け、蹴りで脇腹の骨も砕け、爪を剥がされた右腕を完全に極められて、死ぬほどの痛みのココは…
「ぐぅそ…赤毛! 折れよ! 折れ! 殺せ!! 早く殺せ!」
決着を願う。
しかし、メロディは腕を極めながら、
「お前はそれでいいのか!?」
「私はゴミなんだよ! 死んだら皆喜ぶ! お前が言っただろ!! はやく殺してくれ頼む!! ぐっっぞいでぇえ…」
メロデイの力が…ゆるんだ…
ココはこの感触を生涯忘れない…
技を解いたメロデイは、立ち上がり、ココを見下ろし、
「もう一度、孔雀兜のロレデイーナさんに会いたいだろ?」
完全に痛めた右腕を左手で押さえるココは涙を流し、
「くっっ‥くそくそ…聖騎士と知っていたんだ」
ゴツっと左手で、地を叩き、
「施設から帝都に向かう道中・・偶然、馬に乗った孔雀兜のロレデイーナさんを見たんだ…」
「きっと憧れていたんだよね」
「私だけが知っていた…超一流の聖騎士が帝都闘技場に紛れて噛ませ犬をやっている事を…ロレデイーナさんは遥かにワタシより上の存在なのに、親殺しの私を妹のようにしてくれた、ずっと、夢のようだった…温かくて優しくてツギハギだらけで。 だけど…あの東洋人の聖騎士が来てから夢は覚めた」
メロディは落ちてた黒い口隠しを取りながら、
「ワタシもいたよ憧れる人バルムート様、ココと同じ、居なくなって夢から覚めた」
「お前の心は壊れなかったのか?」
メロディは黒い口隠しを巻きながら、
「復讐に失敗してコレ。 それにブロディに迷惑かけた。 だけどオリバー…アイツだけは絶対に許さないバルムート様の仇…絶対に『ガントレット』でぶん殴って殺す…」
その時、他の女囚達が集まり、その集団から、
「赤毛さん! そいつを死刑しちゃってください!」
「そいつ! この刑務所で100人以上殺している女です!」
「生かしておくと危険です! 絶対に寝首掻かれますよ!」
ココは、女囚達の方を見て、
「くそっあいつら100も殺してないっての…ぅぐぐぐっ」
砕けた脇腹に腕の痛みもあり、敗れたココは堪忍した様にメロディの方を見て、
「まあそういう事だ‥やっぱり私が死ななきゃならんみたいだ。 赤毛‥お前がドトール刑務所の新しいボスだな」
のそのそと飛び降り自決するために、崖際まで歩んでいる…その時、
「待て」
「なんだ?」
「死ななくていいよ」
ココは、態度急変した女囚達を見ながら、
「ダメだって…私が死ななきゃ女囚達は許さんし、てかアイツらに寝首掻かれて死ぬだけだし」
メロディは 女囚達の方を見て、
「私が! このドトール刑務所の新しいボス! ドトールの赤い髪! メロディだ!」
女囚達からは歓声とパチパチパチと拍手が、
「ココは殺すな! 命令だ! いいな!」
女囚達は微妙な反応、表情でざわめきだした。
痛めた右腕を左手で押さえながら、メロデイの前に来たココは、
「どうして、そこまで私を助ける? ありえないどうして?」
メロデイはニコニコっと、
「笑顔でお酒を分けてくれただろ」
ココは不思議な胸からこみ上げる何かを感じ、力なく崩れ…
「ありがとう‥死にたくなかった‥本当に死にたくなかった」
メロディは ココに背を向けながらに、
「もう人はころすな」
と言い、刑務所の中へ歩む。
ココは強く噛み締めた唇で、
「うっうん…うっ…ぅぅ」
生まれて初めて、本当の涙を流した




