32話 飛竜の刺青
トンッ
グラスを置く音で、ブロディは回想を止めた。
「どうぞ」
無表情なメアリはグラスを置き、また応接間の扉の横に立った時に、扉が開いた。
今まで応接間に居た客人に、メアリはスッと頭を下げる、ルマンドは愛想笑いをしている。
客人は今まで、ブロディがこの屋敷で何度も会った事がある。
聖騎士ググ
以前よりも怪しい色気が増している。 すぐさまブロディは立ち上がり頭を下げ、
「聖騎士ググ様おつかれまです」
いつもは素通りするのに、今日は機嫌が良いのか? 聖騎士ググは立ち止まり、ブロディを見てニヤケながら、
「おうおう、ブロディ。だいぶ前にこの屋敷から逃げたのに、最近よく見かけるな?」
聖騎士ググの言葉にルマンドは不安げな表情を見せた。
ブロディは頭を下げたまま、
「はい、最近は生活がもう苦しくてルマンド様のすねをかじっているのです」
「なるほど、表を上げい」
「はい」
顔を上げたブロディを見て聖騎士ググは、灰皿の吸い殻を見て、
「ワタシに一本くれ?」
「はい」
ブロディは胸ポケットから急いで、一本のタバコを両手で渡しした。
聖騎士ググが、それを咥えると、すぐさまメアリが火をつけようとしたが、しっしっと手を振り、
「お前はいい、ブロディつけて」
「はい」
ブロディはサッと聖騎士ググの咥えたタバコにマッチで火をつけた。
「こんな安物を吸ってるのか? ぷは~どう?」
と、いじわるに煙をメアリの顔に吹きかけた後、ブロディの顔を見て、勝ち誇った顔で、
「なかなか美人になったではないか? ワタシには遠く及ばんがなフフ」
「はい、その通りです。ググ様の美しさに及びません」
聖騎士ググは嬉しそうに、
「金に困ってるなら上客を紹介するぞ?」
ブロディは深く頭を下げ、
「まことに申し訳ありませんが…」
聖騎士ググは急にコメカミに青筋を立てて、苦笑いで、
「こっ、断る? ふっ普通? お前が? ワタシの誘いを?」
ルマンド侯爵がたまらず、
「聖騎士ググ様…ココは私の顔を立てて勘弁してあげてくださいませ。 ブロディは私が一番、可愛がった子供なのです、どうかご容赦くださいませ…」
聖騎士ググは、ルマンドを笑いながら見て、
「フフ、ジョークじゃ、ブロディを少しからかっただけ。ブロディがルマンドの一番のお気に入りって事は知っておる」
ルマンドはほっとした顔で、
「さようでしたか…」
「ブロディ…アレを久しぶりに見せてくれ」
と聖騎士ググが言うと、ずっと無表情だったメアリが初めて嫌そうな顔を見せた。
ブロディは、
「はい」
おもむろに上着を脱ぎ、胸を隠し上半身裸になった。
聖騎士ググは待ちきれない様に、
「はやくはやく、背中背中」
「はい」
ブロディは背中一面の 飛竜の入れ墨を露わにした。