2話 ースフィア編ー 動物の村
スフィアは幾つかの山を、ベットリ長い黒髪をなびかせ、越えた。
夕暮れ時、森に囲まれた小さな村が一望できる高台にたどり着いた。
「あれが村? 人間はどこにも見えないな? とりあえず行ってみるか」
シュッ、トン、シュルルル~ 高台から、村に降りた。
村の建物は朽ちていたり、ツタに覆われていたり。
あちこちに草が視界を遮るほどに生えている。 もちろん人の気配も無い。
そんな村を歩いて見回ったスフィアは少し安心して、
「なんだ~ 人間もワタシと同じような暮らしをしているんだな?」
戸が朽ちて開いてる家を見て、ニコっと、
「中に入ってみるか」
家に入ると野犬の家族がいた。
「バゥ~?」
「ここは犬の家か? 邪魔したな」
次にスフィアは向かいの屋根が大きく壊れた家の戸を、ギギギッガギッギーと開けた。
中にはカラスの家族がいた。
「アホー?」と鳴いた後で、スフィアを無視。
「この家はカラスの家だったか?」
次に、沼に床が一部浸かっている、戸の開いた家の中を覗き込むと、中には蛇の大群がいた。
「しゃ~? しゃ?」
「この家は蛇の家か~」
スフィアは村を全て調べて、人間が居ないことを確認。
「ココは動物の村か~、もう日が暮れるし、この村で眠るか…お腹空いたな」
スフィアは柔らかい茂みで両手を枕にし、横になった。
「明日はもっと北に行ってみるか、お腹空いたけど、自由なんだワタシ」
夜
「ん?」
スフィアは一匹の野犬の顔ペロペロで目が覚める。
「おいおい、眠りの邪魔をするなよ? 食べるぞ?」
カラスも蛇もボロ家から出てきて、スフィアに寄ってきた。
寝るのを止めアグラで座ったスフィアを、
犬とカラスと蛇はジ~っと興味深そうに見ている。
「この毛皮かな? 心配するな、殺してないよ。 野垂れ死んでいた大猿の毛皮だよ。 だけど、冬を越すために皮を貰った、お前達も生きるために何かをするだろ?」
動物たちは、少し納得したような感じをみせた。
しっぽを振りながら近づいてきた犬は、
スフィアの腰の聖剣『ステラジアン』の入った鞘に気づき、
「ばうん!?」
サッと離れ、
「ガルル~~ゥ! バウ!」
と威嚇を始める。
「コレか? 安心しろ」
スフィアはポイっと遠くに聖剣を投げ、それを見た犬は安心した様な表情を見せた。
「犬は剣が嫌いなのか? 覚えておく、来い」
スフィアは集まった動物たちと一緒に眠りについた。
翌日…
朝一で、動物の村を離れようと思っていたが、別に急ぐ必要も無い上、村の動物達に愛着が沸き、もう一日、動物の村で過ごす事を決めたスフィアは食べれる木の実を探すため、少し遠くの森にいた。
昨夜、一緒に眠ったカラスが、お供している。
カラスは木の上に実を見つけると、クチバシで指す。
「アッホアッホ」
「あっちか?」
サルの様に素早く登り、木の実を取って下りた後、
スフィアは足元の山盛りの木の実を見て、
「まあまあだな♪ 村に帰るぞ、カラスにも分けてやるからな♪」
「アッホッホッホー♪」
スフィアは毛皮のお腹にある大きなポケットに木の実を入れて、村へ帰る。
夕方頃
村に着く直前に、村の方から人間の言葉が聞こえた。
スフィアは木陰に隠れ村を探る、カラスもスフィアの頭の上に乗り村を覗く。
槍を持った赤の軽装兵200人程がいた。
唯一、馬に乗った30半ほどの重装の男が、
「近くに誰も居ないんだな?」
「はい! サラマンド将軍!」
「幸い井戸もあるし、今夜ここで野営する、明日までに伏兵する谷に行かねばならん、朝は早いぞ、明日に備えて休んでおけ」
「は!」
馬から降りたサラマンド将軍は兵の一人に兜を預けながら、
「隣国レナの領地に、もうこの地まで進攻した。 難攻不落『ハルゴ砦』さえ落とせば、あとはレナの王都を包囲し供給を途絶えさせればレナは終わり」
兜を預かった兵は、
「お言葉ですが…伏兵とはいえ、200は少な過ぎたのでは? それに連戦で疲労もあります」
サラマンドはフッと笑った後、
「この200名は俺と共に戦い抜いた精鋭達…今回の戦で手柄を存分に与えたい」
近くの深い茂みに移動し、聞き耳を立てていたスフィアは、頭の上のカラスに小声で、
「初めてアモン以外の人間を見るけど、アナ帝国の兵隊みたいだね? 精鋭とか言ってたね? 精鋭ってかなり強い人間って意味だよ。 ワタシは人間の強さも、性質も分からないからな~まあ明日の朝には居なくなるみたいだし、今日は静かに隠れていようね?」
「アホ…」
カラスは怯えていた。
近くに、小便をしに来た二人の兵が、
「はやくレナのどっかの町とか村を占領してえな」
「おいおい、女を見つけたらオレが先だからな」
スフィアはカラスに小声で、
「あの小さなモノぶらさげてる男は、女を見つけたら何をする気なんだ?」
カラスはひたすら、
「アホ…」
怯えていた。