12話 赤い髪の子
8年後
アナ帝国のとある港町
生まれたスヤスヤと眠る乳児の母に、傭兵であった乳児の父は怒鳴り、酒瓶を投げ、父は知る限りの侮蔑の言葉を母に無残に放った。
「捨ててこい」
父が乳児に放った最後の言葉。
痩せた母は乳児を少し重たそうに抱え家を出た。人目を気にし、幸い静かに眠る我が子を隠すように歩きながら、これはユメではないかと錯覚しそうになったが、海辺の町のリアルなレンガ調が母を追い込んだ。
( どうすればいい、なんであんな事を言われないといけないの? ワタシはわるくない、捨てないと、赤い髪の人間なんて見た事も聞いたこともない、きっとこの子は悪魔の子だよ…か…酷い病気の子…)
やがて…
母は人気のない断崖にたどり着き、スヤスヤ眠る我が子を見て、
「それでも間違いなく、ワタシの子なんだ」
小さな命の重たさは、今までの母の生涯の去勢心を壊した。
母はすこし寒そうに、
「なんか違うな…もう町を出よう」
服一枚、無一文で町を出た。
寒いから南へ。
その夜の野宿は浜辺の大きな岩の上、波の音と浜風を感じながら、
「旦那が向かいに来たりして」
さらに歩き、雨が降る2日後の夜の野宿は浜辺の洞窟。
「誰か向かいに来るかな…ごほごほ」
さらに歩き、風が吹く3日後の夜の野宿は浜辺の岩の隙間。
「泣かないで…もうオッパイでないよ…」
晴れた4日目の昼…
やつれきった母は、浜辺を南に向かう道中、始めて人に出会った。
まだ若い母と、同い年程の少し小柄だが がっちりした身体の男だった。 どうやら浜辺で一人修行をしているようで、両腕に『ガントレット』を装着し大きなヤシの木をなぐっている。
「あの…」
「なに?」
優しい目をした男だった、母は少しの安心感を抱いた
「水をいただけませんか?」
「水だけなら…アンタとその子、次の町まで行けそうもないよ」
「そうですか…」
「訳ありか? どうだい? 俺のペット(奴隷)にならないかい? 俺はドトールの剣闘士
お前ら二人を食わす余裕は‥‥無いことはない」
母はちらっと我が子を見た後、
「はい…ぜひ」
「なら、母のお前は今から虎だ」
「えっ? この細く弱いワタシが虎ですか?」
剣闘士は笑った母を見て、
「ギャップがいいじゃない? これからの名はタイガ、俺の名はバルムート」
「ありがとうございます剣闘士バルムート様、この子は?」
「赤い髪?」
タイガは少し気まずそうな顔で、
「そうなんです…」
「珍しいな20年生きているが赤い髪は初めて見る。 かの地の飛竜よりも稀でまるで幻想上の生き物のようだ…よし、この子は不死鳥だ」
「不死鳥?」
「名前はメロディ…どうだい? お母さん? …いやタイガ」
タイガは震える顔と涙を浮かべた目でバルムート見た。
「あっありがとう…とても素晴らしい名だと思います!」
「そうか」
バルムートは照れ臭そうに目をそらした。