10話 -スフィア編ー ハルゴ砦の女指揮官 ミスティ
難攻不落と呼ばれるハルゴ砦を、近くで目の当たりしたスフィアは、
「素晴らしい砦だな? 高さも大きさも角度も強度も申し分ない」
グルギュラは、スフィアを見て、
「今は演習しているようだ、ハルゴ砦の指揮官に会う、私語はするなよ」
整列して、ハルゴ砦の中に入ったスフィア達は、広場で演習をしている若い兵達を横目に、タヌキのオブジェの付いた白い兜をつけたハルゴ砦女指揮官の元へ。
グルギュラは女指揮官に一礼して、
「指揮官、「ハルゴ31番隊」新兵1名を連れて来ました。名はスフィア15歳です」
「31番隊ごくろうさま」
女指揮官は演習をしている兵達に、右手を突き出し!
「演習やめい!!」
出した右手をスフィアの方向に回し、
「では! これから新兵の指導をワタシ自らしましょう! 31番隊も他の隊の皆もよく見てて! 見る事も修練の一つですからね!」
兵の誰かが、
「指揮官の実演だ!!」
ぞろぞろ…と演習以外のハルゴ砦の若い男兵、女兵達は集まりだした。
女指揮官は木の棒を二本持ち、一本をスフィアの前に差し出し、
「ワタシはこのハルゴ砦の指揮官ミスティです。さあ…持ちなさい、スフィアさん」
その時、スフィアは、タヌキ兜と顔で、首狩りサラマンドの時に助けた女と気づいた。
「え? うっ…うん」
ハルゴ砦の女指揮官ミスティは、変な返事のスフィアに、
「分かりますよスフィアさん。 あなたのような剣を持ったことの無い若い女性が兵になるという事は大変な事なんです。 しかし…今のレナは一人でも戦える人間を必要としているのです」
と言った後に、スフィアの手に棒を優しく握らせ、少し離れてスフィアの方を向き、
「大事なのは、人を切れるかどうかなのです。それが出来る人間か、今からテストします」
指揮官ミスティは、棒を顔の前に水平にするように構え、
「さあ! スフィアさん! 全力で来なさい!」
その構えを見たスフィアは小声で、
「うわぁ…隙だらけだよ」
周りにうじゃうじゃと集まった、たくさんの兵をチラッと見て心の中で、
( この女指揮官…余計な真似を…私が砦の指揮官をあっさり倒したら、アナとの戦争に圧倒的に不利なレナの兵の士気が下がる。 うじゃうじゃと逃亡兵も増える。 それに、この若い兵達は多分、誰も指揮官の言う事を聞かなくなる。 しかも、この女指揮官は国王の親族かなんかだった様な記憶が? しかたない…アナ帝国と戦うためにここは負けるか…くそ! )
指揮官ミスティは、スフィアに大きな声で
「どうした! 早くかかってきなさい!」
しかし、スフィアはもう一度、ミスティの構えを見て心の中で…
( アレにワザと負けるのは難し過ぎる、いや無理だ…絶対にごまかせない )
スフィアは棒をポトンっと落とし、両目をつむり、顔を上げ!
「指揮官! やっぱり無理!」
周りの女もいる若い兵達は、
「あはは」
「ははは、まあ、こんなもんだろ」
「スフィアだっけ? あんな若い女で、ハルゴ砦の指揮官が相手じゃな」
「木の棒とはいえ怖かったんでしょうね? 指揮官のあの構えが」
「まあオレは初めて指揮官が戦うトコロを見てみたかったけどね」
「なんと言っても指揮官はレナ国王と近い親族だからな」
「人柄も素晴らしいわよ」
「それにもし奇跡が起きてレナが守り抜けば、俺達の指揮官は王族だから、俺たちも出世や褒美も見込めるしな」
「レナ国聖騎士が病気で伏せてる中、さすがにハルゴ砦の指揮官に志願しただけの事がある」
「そうね、ワタシ達も頑張らないと!」
その兵の集団の中、グルギュラ率いる31番隊の兵の一人が、
「隊長? スフィアって態度は偉そうだけど全然ダメじゃないっすか?」
グルギュラはタバコに火をつけ、一口吸い、悔しそうな顔のスフィアを見た後に、目を閉じて、
「フフフ…俺は全然そう思わないがな」
指揮官ミスティは、スフィアに歩み寄り、落ちた木の棒を手に取り、それをスフィアに優しく握らせて、とても優しい顔で…
「スフィアさん? 努力ですよ…精進しなさい…」
指揮官ミスティは集まっていた若い兵達に、
「それでは! 各自、持ち場に戻りなさい! 演習していた兵は続きを! ワタシは部屋で一人で集中して戦術を練る! 31番隊も演習に参加!」
指令を発し、堂々と『白いマント』をたなびかせ、大きなハルゴ砦の中に入っていった。
スフィアは『白いマント』をよく見ると、
『 ハルゴ岩四木完 ミスティ 』
と書かれていた。
それを見たスフィアはガクッとアグラになり、
「あれと一緒に戦うのか…?」