95話 受け継がれしもの
45年の生涯の最後で…
はじめて打撃を喰らった…
いってえぇぇな…
メロディの右のこぶしはスフィアの胴の中心に
『極めの打撃』を喰らった衝撃…
ズーーーーーーーーーーーーッ
スフィアの体を支える左足は奈落の崖際に運ばれた…
メロディの黒い口隠しから、強い呼吸の音が聞こえる
「はあ! はあ!」
スフィアの右目の隻眼を隠す白い布は、ヌゥゥっと赤く染まる…
喰らった腹を右手で触り、
「フフ…(まだまだ動ける…まだまだ戦えるだろ? 戦え…肉体…)」
折れた足で、せまるメロディ!
前屈姿勢で両手をぶらり落とす、己の構えをしたスフィア!
せまるメロディが目前に来た!
前蹴りが迫る!
スフィア…動かない体に…
「動かない…」
不具の右足に! メロディの蹴りを喰らう!
崖に体が落ちる…
間際…
スフィアはヒビの入った右手一本で…
崖の角を掴み…体を支える…
見上げて…
「メロディ…まだまだ動ける~」
笑む…
見下ろすメロディ
「スフィア…ハァ…ハァ…」
「フフ…まだまだ戦うからな…ぐっ…うっ…」
手は… 離れた…
終わった…
ガン
燃え尽きれたよ…
ドン
我が子… 雷神とシトリー…
ドン
雷神勝てよ… シトリー幸せに…
バシャン!
水しぶきが上がる。
メロディは…
「勝った…うっ」
力なく… 倒れる‥
広場には半殺しの、オリバー・ココ・ロメロを含むドトール四天王…
その戦いをドトール女子刑務所の上から傍観していた男がいた。
アナの皇帝アーネストである。
「赤い髪のメロディ…フレデリクス知っておるか?」
左大臣フレデリクスは答える。
「革命隊のリーダーだった女です」
「そうか…」
「子供の頃は、ドトール闘技場の王者バルムートのペット(奴隷)だった女です」
「バルムート…バルバトスの息子か…」
「しかし…あのスフィアを破る人間がいるとは…」
「治療して、後日、王都の城に連れて来い…」
「はっ」
後日…
王都の謁見の間には…
高座の皇帝に、屈むメロディとオリバーが…
ともにケガ人が明白な姿…
しばしの沈黙の後、皇帝は口を開く…
「聖騎士ググは国外に逃亡した…よって世界序列一位のアナの聖騎士の椅子は不在」
メロディは下を向いたまま…
オリバーは少し反応する…
皇帝は、横にいた大神官に、
「後は頼む…」
大神官は小さく頷いた後に、屈する二人を見下ろして
「1か月後の聖戦に、オリバーとメロディを、アナの聖騎士代理として聖戦に参戦させる…」
オリバーは顔を上げて、大神官を見て、
「仮聖騎士? なにゆえ?」
「仮じゃ…オリバーとメロディの二人どちらか…聖戦で雷神を討ったその者を…アナ帝国第17代聖騎士に任命する…」
オリバーはチラッと横のメロディを見た後に、
「承知… (やっときた…11年前の聖騎士へ挑んだ時のリベンジが…)」
大神官はメロディを見て、
「オリバーは承知したが?…メロディは?」
メロディは立ち上がり…
「タダじゃ、いやだ」
大神官は驚いて、
「なに? アナの聖騎士だぞ?」
「アナの聖騎士に興味は無い。だけど条件を飲んでくれるなら、聖戦に参戦する」
大神官は、皇帝を見て、
「陛下…? どうしましょう?」
皇帝は、メロディを見つめ、
「申せ」
「ブロディとココの釈放だ」
「よかろう」
「ありがとう…それと…」
横のオリバーを見下ろし…
「この男は…卑劣な手段でバルムート様を殺した…」
その言葉に、オリバーは上げた顔を横に向け、メロディを睨む。
メロディはその眼を見ながら、
「ワタシが雷神を討てば…オリバーへの仇討ちを許して欲しい…」
しばし、沈黙が続く…
ずっと皇帝は二人を見る…
やがて…
「メロディ…オリバーを討った後に、アナの聖騎士になるのが条件だ…」
メロディは、皇帝に両コブシを合わせ、深々と頭を下げて、
「ありがとうございます…」
背を向け、去ろうとした時…
皇帝が…
「待てメロディ…」
振り返り、
「なんですか?」
「この城で聖戦まで泊れ…逃げるかもしれぬからな…ブロディとココの釈放は、余が書き上げた書状と印を押した物を後で、お前に確認させる」
「でもドトールに帰りたい…」
「だめだ、皇帝からの命令だ…」
「え~~」
すぐに初老の従者が来て頭を下げた…
「聖騎士候補メロディ様…こちらへ…」
メロディは従者の顔を見て、
「おじいさん…どこかで?」
従者は移動を催促する。
「こちらへ…」
「うっうん…」
謁見の間から出ると… 従者はメロディの顏を見て、
「懐かしゅうございますな…それにたくましくなられた…今は亡きバルムート様もきっと喜んでいましょう…」
「まさか? バルムート様とオリバーが戦った時の使者さん?」
「さようです…」
「使者さんがいるなら、なんか安心した」
「お部屋に案内します…」
階段を上がり、
部屋に入る…
とても豪華な部屋に、
「ほえ~凄い部屋だ~」
「食事もワタシが運びます」
「ありがとう」
「メロディ様…なぜ皇帝が城に泊まるように言ったか分かりますか?」
「逃げないためだろ?」
「それはオリバーを前にした陛下の建前でございます…アナの聖騎士の椅子…それは、とてつもない椅子なのです…」
「うん…知ってるけど…」
「もう一人の聖騎士候補オリバーはアナの聖騎士への執念は凄まじい…、メロディ様が…どの場、いつ、よる、食べ物、水…殺害を企ててもおかしくない…」
「うん…オリバーは卑怯者だ…」
「身の安全のために城で確保したかったのですよ…」
「皇帝も色々、考えているんだな…」
従者は、大きなテーブルの上にある赤いリボンを付いた大きな箱を手の平で指し…
「あの箱の中身は…陛下からの贈り物です…」
「贈り物?」
従者は頭を下げて、
「では…ワタシはコレで…」
「うん…またな…」
部屋から去る…
メロディはベッドに座り…
目の前の箱を見つめ、
「開けてみるか…」
リボンを解き、箱をパコっと持ち上げ開ける…
「え!? え!? え!」
磨かれ…
輝く…
己のバルムートから受け継いだ『ガントレット』があった‥
手紙があり、興奮押さえて、取って開ける…
『 メロディ 聖戦のためにアナ帝国中を探させた
帝都の公安が見つけ出した
ドトール闘技場の
王者バルバトス
王者バルムート
ドトールの赤い髪メロディ
3名に受け継がれた その『ガントレット』で
ドトール闘技場が生んだスフィアの子 雷神を討て
その『ガントレット』は そのためにある
』