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 それからは兄に明日行く視察の街のことを聞いたり、地図を見たりしながら過ごした。アメーリエも興味深そうに街を見ていた。


「そう言えば、アメーリエとラーラはどこの出身なの?」


 聞いたことがなかったなぁ、と思って尋ねると、ラーラは少しだけ意外そうにわたしを見て、アメーリエはハキハキと「ここら辺ですかねー」と地図に指で丸を描いた。この国の真ん中にある王都より北みたいだ。


「ラーラは?」

「わたしは王都から旦那さまにスカウトされました」

「え、スカウト!?」

「へぇ、そうだったんだ。ちょうど僕が今のラヴィくらいの年齢に、僕付きの侍女になったんだよね」

「はい、年が一番近いからという理由で」

「へぇ~!」


 五年前にそんなことがあったんだ。それにしてもスカウトってなんだ。スカウトで侍女ってなれるものなのか。


「最も、旦那さまが私を雇ったのは六歳の頃でしたが」

「六歳!?」


 驚きすぎて思わず高い声が出た。六歳を雇うってどういうことなの、父よ!

 わたしが目を白黒させていると、あまり笑わないラーラがクスクスと鈴が転がるような声で笑った。それに気付き、はっとした表情になるとすぐに無表情に戻ってしまう。


「……ラーラの笑った顔、初めて見たような気がします」

「貴重な笑顔だったね」

「私のことは放っておいてください」

「ラーラはですね、旦那さまに拾われたんですよ」

「拾われた?」

「アメーリエ!」

「あ、すみません、ラーラ。でも、内緒にする話でもないじゃないですか!」


 アメーリエが困ったように微笑む。うっすらと涙も見えるのは気のせいではないはずだ。ラーラが父に拾われた?


「それはどういうことなの、ラーラ?」


 兄も知らなかったらしい。二杯目の紅茶を飲みながら尋ねる兄と、どうしようかぐるぐる悩んでいるラーラ。普段の彼女はこんなに思考を読ませないのに、わたしの質問とアメーリエの言葉に悩んじゃっているんだね、話すかどうかを。


「おふたりにはあまり良い話ではないのです」

「それでも教えて欲しい。良かったら話してくれないか?」

「わたしからもお願い。それに、なんだか今のラーラつらそうだから……、話せるのなら話して? まだ小さいわたしたちでは頼りないかもしれないけれど、話すことで気が楽になるかもしれないし……」


 ラーラはしばらく黙って、それから大きく息を吸い込んでから吐き出した。力強い視線でわたしたちを射抜く。だから、わたしもじっとラーラの目を見つめ返した。そのうちに諦めたように肩をすくめて、ほんの少しだけ微笑んだ。


「……面白い話ではないです。私はただ、奴隷商人に捕まっていたところを旦那さまに助けられて、このお屋敷に侍女見習いとして雇われました」

「奴隷商人!?」

「この国に奴隷なんていたんですか!?」


 兄とわたしが声を荒げる。ラーラはゆるりと首を左右に振って、昔を懐かしむように目元を細めて過去を語り始めた。


「本当は居ないハズなんですけどね。この国で奴隷は違法ですから。ですが、ああいう輩は陛下たちの目を掻い潜って人を拉致し、商品にしていました。私は六歳の頃に近道をしようと思った裏道で奴隷商人に捕まりそうになったところを、旦那さまに助けていただきました。六歳の私は孤児院に身を置いていまして……、その孤児院から旦那さまが私をお屋敷に連れてきて下さいました」


 し、知らなかった……!

 兄とわたしは視線を交わす。互いに驚いているのがよくわかる表情だった。


「あれ? どうしてアメーリエは事情を知っていたの?」

「侍女同士の懇談会があって、その時に酔った勢いで身の上話をすることになりまして、その時に」

「十五歳と十六歳がお酒を飲んでいい世界だったっけ、ここ……」


 なんせゲームでは一度も飲酒描写がなかったハズ。舞台が学園だからなかったのかもしれないけれど。


「……ラヴィ、一応教えておくけど、この国の成人は十五歳だからね」

「そんなに早いんですか!? え、待って、じゃああの学園って……」


 十五歳から十八歳までの三年間を過ごす人が多いであろうあの学園の全員が実は成人済だったなんて……!

 あー、でもそれでか。ラブラブなシーンにほんのり匂わせるくらいの描写があったのは、全員が成人しているから大丈夫だったこと……?


「ラヴィニアお嬢さまのいう『ニホン』では成人の年齢が違ったのですか?」


 顔に思いっきりクエスチョンマークを貼り付けているアメーリエに聞かれて、わたしはうなずく。


「日本ではね、お酒とタバコは二十歳になってからって育てられるわ」

「二十歳で成人?」

「はい。日本ではそうですね。子どもの頃にお酒を飲んだりタバコを吸ったりするのは禁止されています。身体の成長に良くないから」

「……あの、この空気の中大変申し上げづらいのですが、私たちお酒を飲んでいません。飲んでいたのはアルコールのない、ただのブドウジュースです」

「……え? でも酔った勢いって……」

「アメーリエの言葉が適切ではありませんでした。正しくは、『その場の雰囲気に酔って』です」


 ……その場の雰囲気に酔うってどんな感じなのかしら……?

 アメーリエも恥ずかしそうにもじもじしている。いやまぁ、成長期に飲んでなくてよかった、って思うところなのかなぁ……?




ブックマークありがとうございます♪


今年の更新はこれでラストです。新年に更新出来たらいいなぁと思います!

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