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 兄は椅子に深く座り、ラーラから渡された紅茶を飲んだ。それからカップを置いて目を閉じてなにかを考えるように口元に指を掛けた。

 わたしも紅茶を飲んで、ゆっくりと息を吐く。そして日本のタイムスケジュールを眺めて懐かしくなった。

 あの頃のわたしは、ただがむしゃらに働いていた。心の渇きを乙女ゲーで癒す喪女だった。……まともに恋愛したことあったっけ? 恋人ができても三ヶ月くらいで別れる、を繰り返していたし、そのうち仕事の量が増えて恋人を作る気にもならなかった。

 まぁ、そんなわたしだから乙女ゲームに手を出したわけだが。現実世界じゃなくてもいい、キュンとしたい! って感じで始めたゲームだったなぁ。

 前世を振り返っていると、兄がわたしをじっと見ていることに気付いた。


「……リリアナ学園って十八歳で卒業だよね。僕が『攻略対象』ってどういうこと?」

「おにいさまはリリアナ学園で植物学の先生の助手になるんです。なので学園に残っています」

「二年も?」

「いえ、正確には主人公が卒業するまで学園に残っているので、約五年。学園生活を入れると約八年は学園に残っていますね」

「……あんまり想像したくない未来だなぁ」


 肩をすくめる兄に、わたしは眉を下げてしまう。


「……あ、そうだ。今度の僕の誕生日にルーカスを呼んでみるよ」

「え!?」


 いきなりの話題転換にわたしは変な声を上げてしまった。二年前に会っただけの人に招待状を送るの? と頭にクエスチョンマークを数個出していると、兄はわたしの考えを読んだのか頭を左右に振った。


「実はルーカスとは友人なんだ」

「ええっ!?」

「二年前に会った時に、話が合ったんだ。それからずっと文通をしている」

「えええっ!?」


 なにそれそんなの知らなかった!

 そう言えばゲーム内でも結構親しかったっけ? ルーカスは人懐っこいからだとばかり思っていたけれど……。


「おにいさまと友人だったなんて……驚きました」

「うん、僕もきみがそんなに驚くとは……」


 いやいや、驚くに決まっているでしょう!

 それに、今度の誕生日っていうことは、来年。来年の五月三十一日が兄の誕生日だから、その日にルーカスと会える!?


「来年が楽しみになったね?」

「はい、おにいさま! あ、でもいいんでしょうか……。多分、ゲームではルーカスとラヴィニアは学園で初めて会うんです」

「だって、ラヴィは学園に行かないでしょ?」

「えっ?」

「考えてみたんだけど、ラヴィのその運命は学園に通っているからじゃない? それならお父さまに相談して、他国に留学っていう手もあるでしょ? それこそ、ルーナ王国とか他の国とか、ね?」

「……なるほど……。確かに学園に行くことでフラグが成立するのだとしたら……」


 兄が考えていたのはきっとこのことだったんだろう。なぜわたしが全ルートでそうなる運命なのかを。

 ゲームの世界だから、ゲーム通りに進んでいくのかも、なんて頭の片隅で思っていたけれど、回避できるなら回避したい!


「それから、あとは気をつけることありそう?」

「……殿下の婚約者になる未来を避けたい、というのはありでしょうか」

「エーデルトラウト殿下、か……。ラヴィが殿下の婚約者になるのはいつだった?」

「ええっと……、ゲームでは十歳の頃でしたね」

「じゃあそれまでの間に殿下に婚約者が出来れば、ラヴィは婚約しなくて済むね。もしくはラヴィに婚約者が出来れば良いのかな?」

「正直、ゲームでなぜわたしが選ばれたのか謎なんですよね……」


 政略結婚なんてそんなもの、と言われたらそれでおしまいだけどね!

 それでもゲームの『ラヴィニア』は殿下のことが好きだったみたい。殿下のことが好きで、いつか殿下も『ラヴィニア』を愛してくれる日が来ると信じて、王妃育成教育を受けていたんだ。

 なのに割りとあっさりと殿下は主人公の手を取っちゃうんだよー! 誰か『ラヴィニア』の苦労をわかってあげて! って殿下ルートではしみじみ思っちゃったなぁ。


「眉間にシワが刻まれているよ、ラヴィ」

「はっ、つい……。ゲームでの『ラヴィニア』があまりにも不憫で……」


 自分で自分を慰めている感があるけれど、ゲームはゲーム、わたしはわたしだ。ちなみに『ラヴィニア』の不憫っぷりは兄に全部話した。全ルート共通であるのが断罪イベント。

 殿下の婚約者であるルートでは手作りの菓子を渡そうとする主人公を諌めたり、他の攻略キャラだと主人公と相手のラブラブっぷりが凄まじくて、誰が入ってくるかもわからない教室でなにをなさっているのかしら? とか、他の生徒が真面目にしている中なぜあなたたちだけ休んでいるのかしら? とか、お前は学級委員長か! ってくらい学園生活は真面目にしていたもんなぁ、『ラヴィニア』。

 学級委員長……もしくは風紀委員と心の中で呼んでいたな、わたし。

 でも確かに学園に行かなければそんなことも起こらない!

 ナイスアイディアです、兄よ!

 それにしても、来年の春にはルーカスに会えるってことがわたしの中では重要だ。頑張って伯爵令嬢の名に相応しい振る舞いができるようにならなきゃねっ!


評価とブックマークありがとうございます!


次回は月曜日を予定しています。

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