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本日2回投稿。2回目です。(2/2)



「なるほど……。ラヴィとしての記憶もちゃんとあるの?」

「はい……と言っても、三歳くらいからの記憶です。赤ちゃんの頃の記憶はありません」

「それは僕にだってないよ。でもそっか。納得したよ、話してくれてありがとう」

「……あの、おにいさま? そんなにあっさり信じていいんですか、こんな話!」

「だって、本当のことなんでしょう? ああ、でもこれは出来れば誰にも言わないほうがいいね。アメーリエ、ラーラ、口は固いよね?」

「もちろんです」

「はい、絶対誰にも言いませんっ」

「ラヴィ、もしも前世のこと、そしてこれからのことに不安になったら僕らを頼って。共通の秘密が出来たから、話しやすいだろう?」

「おにいさま……!」


 なにこの子超いい子!

 じゃなくて、もしかしてわたしの味方を増やして相談役を増やしてくれた……?

 前世のことがあるし、この世界との違いに戸惑うかもしれない。そういう時にひとりだったらつらいけど、他に相談できる人がいれば心強い。


「ありがとうございます、おにいさまっ」


 感極まって立ち上がり兄の近くまで行くと彼の手を両手で取って深く深く頭を下げた。わたしよりは大きいけれど、まだ小さい兄の手。その手はとても暖かくて、とても優しいものだと思った。

 兄は片方の手でわたしの頭にぽんと手を置いてよしよしと撫でる。すごく優しい手つきで撫でられて、何故なのか涙が出てきた。

 昨日前世を思い出して、頭の中も心もキャパシティオーバーになったみたいだ。だってわたし、家族も友達も置いてきてしまった。きっとわたしがあの世界から居なくなったあと、大変だったと思う。きちんとお別れも言えなかった。あんなふうに命が終わるなんて、思ってもいなかったから。

 もっとちゃんと色んなことを話しておくんだった――……。

 後悔してももう遅い。もう日本の家族や友達には会えない。それが堪らなく寂しい。それでも日本に生まれ変わることを選ばなかったのはわたしだ。だって、生まれ変わって記憶があったとしても、わたしには新しい両親がいて、生まれ変わる前の両親に会えるわけじゃないって思っていたから。


「だいじょうぶ、だいじょうぶだからね、ラヴィ」


 優しくわたしの頭を撫でる兄に、涙が余計に止まらなくなる。泣いて、泣いて、めいっぱい泣いて。目が真っ赤になるくらい泣いたら喉が乾いた。兄の手を離すと、彼はふわりとわたしを抱き上げて膝に座らせ、すかさずアイスティーをわたしに持たせてくれた。

 少しだけ温くなってしまったけれど、アイスティーはじんわりとわたしの身体に染み渡っていく。ほう、と息を吐いて、今の状況にハッとした。兄の膝に座って水分補給しているってどういうことなの……!?


「ラヴィ。きみは前世の記憶があって成人しているとしても、今のきみはまだ五歳なんだから。甘えていいんだよ。そっちのほうが僕らは嬉しい」


 いやもう『ラヴィニア』ってめっちゃ甘やかされてるよね……?

 兄の膝から降りて、ハンカチを取り出して目元を拭う。ハンカチをしまって数回深呼吸を繰り返してから兄に向けて笑みを浮かべた。


「話を聞いてくださってありがとうございました。なんだか心が軽くなったような気がします」

「どういたしまして」


 兄はどこか安心したように目元を細めた。それからアイスティーに手を伸ばしてこくりと一口飲む。その仕草も実に優雅で、さすがって感じだ。

 わたしがじっと見ていることに気付いたのか、兄は「どうしたの?」と首を傾げた。慌てて首を左右に振って「なんでもありません」とアピール。

 この少年があの青年になるのかー……、ゲームのスチルを思い出してしみじみと確かになー、なんて考えていると、兄が思い立ったように小型のノートを取り出してペンと一緒にわたしに渡した。


「おにいさま?」

「ニホンの文字を教えてくれないかな? 僕らも覚えるから」

「え?」

「そしてこの文字を、僕らの暗号にしよう。僕らしか読めないから、手紙にするのもちょうどいいだろう?」


 なるほど。確かに!

 わたしはそれじゃあと日本語の平仮名を書き始める。兄はそれを見ながら「変わった文字だね……」としみじみ呟いた。

 アメーリエにラーラも興味深そうに平仮名を眺めている。この世界の文字とは全然違うもんね。こっちの世界はどちらかといえばローマ字に近いし。それでもちょっと違うんだよね、ローマ字とは。五歳とはいえ伯爵家令嬢。一応文字の練習はしている。家庭教師もいるし。


「これが日本語の平仮名です!」

「他にも文字があるの?」

「はい、カタカナと漢字があります」

「面白いね」


 あ、これもしかして兄の興味をひいてる?

 兄はこういうの好きなんだね。そういえばゲームでも色んな国の文字を知っていたっけ。文字もだけど言葉もかなり知っていたはず。バイリンガル……ではないな、マルチンガルだっけ、数ヵ国語を話せる人って。


「ラーラ、紙とペンを。アメーリエ、きみもこれで練習して」

「わかりましたっ」


 ラーラから紙の束を渡されたアメーリエはしっかりと胸に抱いてうなずいた。兄はじっとノートを見て、一言「よし」と呟いた。わたしが首を傾げると、平仮名を書いたページを破ってアメーリエに渡す。


「僕はこの文字を覚えたからラーラに教えるよ。アメーリエにはラヴィが教えてあげてね」

「え、もう覚えたんですか!?」


 はやっ! 驚いて目を丸くすると、ラーラはどこか誇らしげに兄を見ていて、兄はただニコニコと笑っていた。いやもう……ハイスペックですね……おにいさま……。と、遠い目をしたわたしは悪くないと思う。


「それじゃ、今日のことは僕らの秘密ってことで。午後はどうする?」


 気が付けばもう昼食の時間になっていた。わたしはうーん、と考える。午前中は兄にいっぱい構ってもらったし、誕生日の翌日ということで今日は家庭教師も来ないし、今度は姉に構ってもらうかな?


「午後はおねえさまと遊びます」

「そっか。うん、そうしたほうがいいかも。昨日あまりラヴィに構えなかったから、ユリアも遊びたいと思っているよ、きっと」

「はい!」


 今日はそのまま図書室で兄とアメーリエ、ラーラと一緒に昼食であるサンドウィッチを食べた。本当は侍女と一緒に食べるのはダメなんだけど、ここにいるのは共通の秘密を知るものだから、ってわたし、わがままをゴリ押ししたの。アメーリエもラーラも断っていたけど、わたしのわがままに付き合ってくれた。

 ありがとう、みんな。なんだかすっごく気が楽になったよ……。


次回は来週の火曜日か土曜日になります。

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