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本日2回更新。(1/2)



「さて、ラヴィ。今日はどうするの? わたくしと遊ぶ? お兄様と遊ぶ?」

「ええと……、ではおにいさまと。教えていただきたいことがあるのです」

「あら、残念。じゃあわたくしはじいやに剣でも教えてもらおうかしら」


 心底残念そうに眉を下げて頬を膨らませる姉。反対に兄はめっちゃ嬉しそうにわたしを見る。兄は齢十歳ながら本を通して博識である。わたしが今、一番気になること――……それは、あのわたしを助けてくれた騎士の方――、あの方がどこの騎士なのかが知りたいっ。


「じゃあラヴィ、ついておいで」

「はい、おにいさま!」


 元気よく返事をして、兄が差し伸べた手を取る。一緒に歩き出すと、兄は真っ直ぐに図書室へと向かった。もちろん、アメーリエと兄付きの侍女、ラーラが一緒だ。ラーラは十六歳のそばかすがチャーミングな女の子。茶色の髪を三つ編みにして、わたしたちの後をただ着いてくる。

 図書室に着くと、ラーラは鍵を開けて「どうぞ」とわたしたちを中へ入れてくれた。


「それで、ラヴィはなにを教えて欲しいの?」

「えっと、ですね。昨日、わたしが溺れたときに助けてくださった方が、どこの方なのかが知りたくて……」

「ああ、昨日の……。名前聞いたんだけど、『名乗る程の者じゃないので』って言われたよ」


 わぉ、一度は言ってみたいセリフにノミネートされてるわ、それ。じゃなくて。ええと、よーく思い出すのよ、わたし。昨日の彼のことを。藍色の髪が長かったことと……、あ、そうそう。


「胸元にこのくらいの大きさのバッジをつけていましたわ。ええと、白塗りの馬に背景は三日月だったかと」

「三日月に馬? それなら……ちょっと待ってて」


 親指と人差し指の間を少し離して伝えると、兄は本を取りに行った。そして、あっという間に戻ってきた。


「は、はやいっ!」

「ここに置いてあるのなら大体覚えてるからね」


 にこやかに笑う兄に、わたしは周りの本棚を見渡しだ。ざっと二千冊くらいあると思うのですが。それを覚えてるってどういうことなの……。


「さて、これは各国のエンブレムの特集なんだ。確か、そんなのがあったような……あ、これだこれ」


 パラパラとページをめくって、目的のページを見つけるとわたしに見せてくれた。白塗りの馬、背景に三日月。うん、確かこんな感じだった。えーっと、ここは……。


「ルーナ王国、王立騎士団……って書いてありますね」

「ってことは、昨日の彼はルーナ王国の王立騎士団に所属しているっていうことで……。そんな彼がなんでこの国に立ち寄ったんだろうね?」

「うーん……。戦争になるようなことは起きていないハズですし、ただの遠征……?」


 わたしが口元に手を当てて悩むように首を傾げて言葉を発すると、兄は少し驚いたように目を瞬かせた。それからすぐに目元を細めてにこりと微笑む。


「ねえ、ラヴィ」

「はい」

「……昨日までと生活態度が全然違うんだけど、どうしたの?」


 うっ。そこをつっこまれるのは勘弁してもらいたかった!


「それに今日の『いただきます』、と『ごちそうさま』ってどこの国の言葉? ラヴィ、勉強が全然ダメだったし、本なんて読まないし、そもそもそういう言葉が載ってる本ってここには置いてないんだよね。口調も昨日までのラヴィじゃないし。きみは一体誰なのかな?」


 ニコニコと微笑みを浮かべる兄に、わたしは表情筋が凍るのがわかった。兄よ、なぜそんなに聡明なのですか……!

 わたしはどうしよう、どうしようと悩んでにこやかに笑う兄に全てを話すことにした。だって一番それが良いような気がしたから!


「あ、あの……おにいさま。……前世って信じていますか?」


 わたしは顔を伏せて、恐る恐る声を出した。多分声が震えていたと思う。兄はぽんっとわたしの肩に手を置いて、伏せたわたしの顔を覗き込むようにして微笑む。


「ラヴィの話を信じない兄ではないよ。だから安心して話してごらん」


 わたしを安心させるように兄は言った。だからわたしもこくんとうなずいて、近くの椅子に座る。兄も座り、わたしの後ろにアメーリエ、兄の後ろにはラーラが居た。ちらりとアメーリエに視線を向けると、少しだけ重い空気にオロオロしているのがわかる。ラーラはいつの間にか紅茶を用意してくれていた。


「アールグレイのアイスティーでございます。お嬢さま、シロップはいかがなさいますか?」

「だいじょうぶよ。ありがとう」


 差し出されたアイスティーを受け取って、そのままテーブルに置く。この図書室にはテーブルも椅子もあって、読書をしながら飲み物を飲んだり、おやつを食べたり出来る仕組みだ。まぁ、以前のわたしは全然興味なくて、兄に連れられて一度か二度ほど入ったくらいだったけど。

 ゆっくりと深呼吸をして、心を落ち着かせてから兄へと視線を向ける。兄はただ優しく微笑んでいた。意を決して口を開き、昨日わたしになにがあったのかを話し始めると、兄は時折相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた。

 アメーリエとラーラもただわたしの話に耳を傾けてくれていた。

 溺れて意識がなくなり、前世のことを思い出したこと。前世のわたしはここではない世界――日本で暮らしていて、『いただきます』と『ごちそうさま』は日本では当たり前のこと。そういうことを兄に伝えた。前世の年齢については成人式を済ませていた、とだけ。実際? アラサーだったよ……。



2回目の更新はお昼頃になります。

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