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「わかったわ。心配かけてごめんね、アメーリエ。ありがとう」
「ラヴィニアお嬢様……!」
感極まったようにうるうると目に涙をためて、それから飛び切りの笑顔で「すぐ用意しますね!」と本当に素早くネグリジェを持ってきてくれた。着替えてベッドに横になると、思っていた以上に疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた――……。
夢の中で、日本に居た。日本で乙女ゲームを楽しんでいる『わたし』を『ラヴィニア』が見ていた。
それにしても、カミサマはもうひとつのゲームとくっついたって言っていたけれど、どんなゲームとくっついたのかは教えてくれなかった……。気にはなるけど、考えていても仕方ないのかしら。
わたしは……ゲームの『ラヴィニア』とは違う人生を歩んでいる……のかもしれない。それでも良いよね。だって、わたしはこの世界を楽しみたいんだもの。
目指すは冒険者。色んな国を見て回るの!
夢の景色はぐるりと変わり、今の『わたし』になった。客観的に見れば『ラヴィニア』ってきれいよね。……なんかナルシストっぽいな。でも、折角のきれいな容姿、磨いて磨いて、磨きぬけばもっときれいになる、ハズ。
……いや待って。わたしは冒険者になるんだから容姿は関係ないのかな?
冒険と言えばやっぱり仲間が必要よね……。あの子たちはわたしについて来てくれるかな? ヴォルケとミーティア……きっとすごい魔法使いになるだろうし……。……あ、後衛ばっかりのパーティになっちゃう……。誰か、剣士を見つけないと……。
そこまで考えて、深い眠りについたみたい。
「おはようございます、ラヴィニアお嬢様」
「おはよう、アメーリエ……。うーん、良く寝た!」
「ふふ、今、お茶をご用意しますね」
アメーリエのお茶も美味しくて好き。てきぱきとお茶を用意するアメーリエ。わたしはそれを見ながらぐーんと手を上に伸ばしてストレッチをした。すっきりした目覚めだ。眠っている間に夢を見ていた気がしたけれど、覚えていないわ……。夢って覚えている時と覚えていない時の差がすごいわよね。
「お待たせしました」
「ありがとう」
お茶を受け取って一口。目覚めのペパーミントティーは良いね。口の中がさっぱりしたところでアメーリエがそわそわとしているのが見えた。どうしたのだろうと首を傾げると、彼女はハッとしたように顔を上げてわたしを見た。
「どうしたの、そんなにソワソワして」
「あ、いえ、ええと。昨日お嬢様が眠られたあとに、旦那様がいらっしゃいまして……」
「おとうさまが?」
「はい。旦那様はお嬢様がぐっすりと眠られるのを見て、風魔法で優しい香りを広げていって下さったのです!」
ああ、父の魔法を見たことを報告したかったのか……。それにしても、風魔法で優しい香り? もしかして、わたしがぐっすり眠れるように気を遣ってくれたのかな? おかげでスッキリ目覚められたし……。…………ところで今、何時かしら……?
「ねえ、アメーリエ。今何時……?」
「……えっと、十一時くらい、ですね……」
あと一時間でお昼じゃない! そりゃあ良く寝たって感じるわ!
「起こしてくれて良かったのよ……?」
「すみません、あまりにも気持ちよさそうに眠っていらしたので……」
気が付いたら昼前だったわけね……。ふむ、まぁ……たっぷり眠れて良かったってことで納得して、次のことを考えないとね。
「おとうさまとおにいさまは?」
「視察に出ています。お嬢様はゆっくり休んでいるように、と……」
まぁ、あんなことがあったばかりだものね……。
「ティアナちゃんたちは?」
「部屋で大人しくしていますよ」
「一緒にご飯食べたいな~」
アメーリエに向かって両手を合わせてウインクすると、彼女はぱちぱちと目を瞬かせてから、ふっと表情を緩めて「旦那様たちには内緒ですよ」と人差し指を立ててウインクをした。
すっかりぬるくなったお茶を一気に飲み干して、アメーリエに身支度を手伝ってもらうとぐぅ、とお腹の虫が鳴いた。……昼食はいっぱいたべるぞー!
動きやすいドレスにしてもらい、ティアナちゃんたちのところへ向かう。宿は貸し切りなのか、お客さんひとり見えない。……あ、今がお昼前だからかもしれないけれど……。どっちなのかな。アメーリエが「ここです」と扉の前に立った。わたしが小さくノックをすると、すぐに「誰ですか?」と声が返って来た。
「ティアナちゃんたち、一緒にご飯を食べない?」
わたしが扉越しにそう誘うと、バタバタと足音が聞こえて、扉が開いた。そこには嬉しそうな笑顔のティアナちゃんと、わたしが誘ったからか驚いた様子の双子ちゃんたちが見えた。
「……あの、私たちがラヴィニア様と一緒にご飯って良いんですか……?」
おどおどした様子のミーティアが尋ねてくる。だからわたしはにっこり笑ってこう言った。
「大丈夫よ、今ならおとうさまもおにいさまもいないから!」
「……それって見つかったらヤバいんじゃ……」
「平気平気。それに、わたし、あなたたちと話したかったの。アメーリエ、今日は天気も良いし、外で食べるのも良いと思わない?」
「かしこまりました、ラヴィニアお嬢様。用意をして来ます」
アメーリエはそう言って厨房に向かってくれた。わたしは「中に入っても良い?」と三人に尋ねると、ティアナちゃんたちはこくりとうなずいてくれた。やったね、お昼ごはんが出来るまでこの子たちといっぱい話そう!




