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本日2回投稿。(2/2)



 誰かの手がわたしの額に触れた。わたしはぼんやりとした頭で目を開けると、すぐに侍女のアメーリエがぱっと額から手を離して、「お嬢さま、お目覚めですか?」と問いかけてくる。彼女は手は冷たくて、きっと緊張していたんだろうなぁって思うと胸がぎゅっと締め付けられた。

 わたし専属の侍女のアメーリエ・ニコライ。わたしのわがままを諌めることなく叶えてしまう彼女。確かゲームでは学園にも居た。だが、断罪イベントで彼女はわたしのことを捨ててしまう。甘えすぎていたのよね、『ラヴィニア』は彼女に。


「ええ、おはよう」

「はい、身体の具合は大丈夫ですか? 痛かったりしませんか? 昨日は本当にヒヤヒヤしましたよ……!」

「ごめんなさい、心配を掛けてしまって……」


 本当に悪いことをしたと思っているわ。昨日、わたしの五歳の誕生日。わがままを言って家族と使用人を連れてピクニックに行って、川の魚を見たいからと川に前のめりになって溺れちゃったのよね……。せめてアメーリエを一緒に連れて行くべきだった。

 アメーリエはそんなわたしのことを見て、驚いたように目を丸くしている。それもそうか、多分、『どうしてわたしが溺れなきゃいけなかったのよ!』と八つ当たりされて当然と思っていただろうしなぁ……。五歳とはいえわがままな子だったから、わたし。

 ベッドから起き上がってアメーリエに微笑んでみせる。


「お、お嬢さま……?」

「アメーリエ。いつもわがままばかり言ってごめんなさい。わたくし、あなたに甘えすぎていたみたい……。いつもあなたには助けられていたのに……」

「い、いえ、そんな……恐縮です……!」


 今にも泣きそうな顔になってしまったけれど、どうしたのかしら? アメーリエはすぅっと大きく息を吸って、それから真顔になってわたしの額に手を当てた。


「熱はありませんわよ?」

「あ、し、失礼しました……。昨日までのお嬢さまとはなんだか別人のようで……」

「……そうでしょうね」


 ぽつりと呟いた言葉は、アメーリアには聞こえなかったようだ。

 前世の記憶を取り戻したわたしは以前とは違う。前は良く言えば天真爛漫、悪く言えばワガママ放題な子だった。アメーリエが苦労しているところしか思い出せないわたしもわたしだが、前世を思い出した結果、アメーリエとは仲良くしたいと考えるのが普通じゃない?

 いい関係を築き上げていけば、彼女はきっとわたしを助けてくれると思うのだ。だって彼女、『ラヴィニア』のわがままを聞き続けたくらいだし。きっとゲームでの彼女は『ラヴィニア』のことが嫌いだったと思う。小さなわがままでも重なればそりゃあイヤになるよね、うん。


「わたくし、決めましたの。立派な伯爵令嬢になることを……!」

「お嬢さま……。わかりました、このアメーリエ・ニコライ、精一杯ラヴィニアお嬢さまにお仕えしますッ!」

「ありがとう、アメーリエ。これからもよろしくお願いしますね」


 ふわりと微笑んでみせると、アメーリエも笑ってくれた。それから着替えをしたり髪を整えたりして身支度を済ませると家族と朝食を摂るために食堂へ向かう。伯爵家とはいえこの屋敷を歩くのは五歳の『ラヴィニア』の足には中々大変だ。


「おはようございます、おとうさま、おかあさま、おにいさま、おねえさま」


 スカートの裾を持って軽く会釈して挨拶をする。どうやらわたしが一番最後だったようだ。『ラヴィニア』が丁寧に朝の挨拶をしたのが家族全員意外だったのか目を丸くしている。


(でしょうね)


 五歳までの『ラヴィニア』の記憶がある今の『わたし』にはそれがはっきりとわかる。まぁ、さすがに三歳くらいからの記憶だけど。それでも末っ子ってこともあり、甘やかされていた記憶しかない。


「ら、ラヴィ? どうしたの……? 悪いものでも食べたの……?」


 母が心配そうにわたしを見る。わたしはにっこり笑ってふるふると頭を横に振った。そして席に着くと朝食が配膳される。

 全員が食べ始めるのを見て、ちょっとした違和感を覚えた。

 ――ああ、そっか。


「いただきます」


 手を合わせてそう言うと、みんなが首を傾げた。


「ラヴィ、今のはなんだい?」

「え? と……、食材には命が宿っています。それを食べることでわたしたちはつづがなく暮らせています。それに、この食事を作って居る料理長たちにも感謝して食事をいただくための言葉ですわ」

「お、お嬢さま……ッ!」


 隅に控えていた料理長のフーゴがうっすら目尻に涙を浮かべていた。


「エクレストンに使えて二十五年、こんなに嬉しいお言葉を頂けるとは……!」


 おっと、ガチ泣きに変わった。父はなにかを考えるように手を顎に掛けて「ふむ」と呟いた。そして、一旦フォークとナイフを置いて、わたしがやったように「いただきます」と言った。


(おお……!)


 ふ、と父が笑った。その顔はどこか優しげで、それからわたしのほうへと顔を向けた。


「これはいい言葉だな、ラヴィ。これからは私も言うようにしよう」


 そう微笑む父の姿に、わたしは嬉しくなって表情が緩んだ。

 ――それにしても、エクレストン家って美男美女ね……。食事を摂りながらチラチラと家族の顔を見る。

 まず、父であるハインリヒ・シャウラ・エクレストン。

 現在三十五歳。茶に近い金色の短い髪。髪はさらさらのストレート。鳶色の瞳は鋭利に輝き、薄い唇。うーん、美形。こうしてゆっくりと食事をしているのも様になっている。身長も結構高く、体格もすらりとしている。って言うか足長ッ! どんだけスタイル良いの!? ってツッコミを入れたい。

 次に、母のアンドレア・カトレア・エクレストン。

 艶やかなハニーブロンドは纏めてあり、輝きを増している。晴れ渡る青空のような瞳の色に、父とは逆にぷっくりとした唇はつやつやで、まさに美女。右目の泣き黒子もセクシー! なによりも、スタイルが良すぎる……! ボンキュッボンってこういうことをいうのね……! って感じ。母の年齢? 女性の年齢は当然秘密よ。

 しかしふたり寄り添うとほんと絵になる……。

 おっと、次は長男であるランベルト・アルナイル・エクレストン。

 母譲りのハニーブロンドと父譲りの鳶色の瞳。割りと大人しく、いつも読書をしているような……? って言うか、攻略キャラなのよね……。ランベルト……。末妹であるわたしのわがままに困ったように眉を下げて、それでも「ダメだって言ってるよね?」と首を傾げる彼。ゲームだと『ラヴィニア』は兄を取られるかもしれないと兄にべったりくっつくのよねぇ……。ブラコンだったのかな……?

 それはともかく、最後に長女のユリア・ペチュニア・エクレストン。

 父譲りの茶に近い金髪。髪の長さは肩くらいで、リボンのついたカチューシャをつけている。母譲りの青色の瞳。ニコニコと食べる姿はものすごく愛らしい。ただ、この姉ものすごく強い。なにがって剣術が。普通貴族の令嬢と言えばもっとお淑やかっぽいのにね……。元気に走り回る姉の影響もあって、『ラヴィニア』も結構やんちゃだったみたい。もちろん、ゲームでの話だ。

 ちなみに兄は勉強が得意で姉が運動が得意。そのおかげでゲームのラヴィニアも割りと勉強と運動が出来た。確か、公爵家の婚約者になってからはマナーとか国の仕組みとかも勉強していたっけ。努力家だ。

 って言うか、わたしゲームのラヴィニアになれる気がしない……。伯爵令嬢として、恥ずかしくない程度のレディになれたらいいのだけど……。

 そんなことを考えながらご飯を食べて、お腹がいっぱいになったら「ごちそうさまでした」と両手を合わせた。

 すると、みんなで視線を合わせてこくりとうなずき、みんなで「ごちそうさまでした」と言った。びっくりしてみんなを見ると、みんなにこやかに笑った。


スローペース更新になると思いますが、よろしくお願いします。

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