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 まずは深呼吸をひとつ。それからまずは歩いてみる。砂利道が少し足に痛いけれど、このくらいなら平気平気。やっぱり木の後ろとかが定番かしら。それにしてもかくれんぼなんて何年ぶりかなぁ。

 わたしは木の後ろを見てみる。うーん、ハズレ。じゃあ今度は馬小屋のほうに行ってみよう。馬小屋までの距離はそんなにないからすぐに着いた。馬小屋の扉を開けてみる。ワラがいっぱい積んである場所があったから、思わず近付いて見た。ふかふかそうなワラだから、寝っ転がったら気持ちよさそう。そうしたい気持ちもすっごくあったけれど、この服をあまり汚すわけにもいかない。伯爵令嬢らしくしないとね。

 それでも――……。


「ロロ、みーつけた!」


 ワラの間に挟まっているロロを見つけた。ガバッとワラを取り除くとロロはびっくりしたように目を丸くしてわたしを見た。わたしはにこりと微笑んでロロに手を差し出す。ロロは何度か目を瞬かせてから、すぐにふにゃりと笑ってわたしの手を取った。


「みつかっちゃったぁ」

「ふふ。ええと、見つかった人はいつもどうしているの?」

「いっしょにさがすよ!」

「そうなのね、じゃあ、がんばってみんなを見つけましょう!」

「うんっ」


 ニコニコ笑うロロはとても可愛い。あ~、やっぱり癒される……。わたしとロロは馬小屋から出て、ロロがいつも隠れている場所を中心に探し回る。木の窪みの中にティアナちゃん、木の上にルルが居て、あとはリリを探すだけ!

 だけど、なぜかリリだけ見つからない。もう二十分近く探しているのに……。


「……あの子、まさか裏通りに行っちゃったんじゃ……」


 不安そうなティアナちゃんの声がわたしの耳に届いた。


「裏通り?」

「うん、リリは少し方向音痴みたいで……。もしかしたら間違えて行っちゃったのかも。ここから遠くはないし……」

「ティアナちゃん、案内してくれる?」

「ラヴィちゃん!?」

「ルルとロロはここで待っていてね」


 こくりとうなずくふたりの頭を撫でて、わたしとティアナちゃんは裏通りへ向かう。なんだかとても嫌な予感がしたのだ。きっとそれはティアナちゃんも同じだったみたい。わたしは前を走るティアナちゃんを追い掛けた。

 十分もしないうちに裏通りに着いた。そこで泣いている誰かの声が聞こえた。


「……リリ?」

「……とは、違うような声もするような」


 裏通り、というだけあってまだ陽が差しているのに薄暗い。わたしはゆっくりと呼吸を繰り返す。そして、ティアナちゃんの手を握る。ティアナちゃんの手は震えていたけれど、それでもわたしの手を握り返してくれた。


「行ってみよう」

「……うん」


 不安そうな表情を浮かべるティアナちゃん。こんなところ怖いよね。ごめんね。心の中で謝って、わたしたちは裏通りを歩き始める。

 父が治めているこの街に、こんな場所があったことに衝撃を受けつつも、だからこその視察なのだと納得もした。それにしても本当に薄暗い。


「はなしてっ、いやぁぁああっ!」


 叫び声が聞こえた。それはリリの声ではなかったけれど、わたしたちは顔を見合わせて声のしたほうへ走り出す。なにがあったのかわからない、けれども――……。


「おにいちゃんっ、だれか、たすけて!」


 声がどんどん大きくなる。

 そして――わたしたちは自分の目を疑うことになる。

 曲がり角を右に進んですぐに、数人の覆面を被った人物が女の子の口を塞いでいる場面に出くわしたのだ! 地面には小さな子が伏せている。頭から血を流しているようだった。


「ああ? なんだぁ、このガキどもは?」

「どうします、頭。こいつらも連れて行きますかい?」

「そうだな、見ちまったんだもんな。それにあっちの金髪は上質な服を着てやがる。いいとこの嬢ちゃんみてぇだし、金もがっぽり儲けられそうだ」


 金髪の嬢ちゃんってわたしのこと!?

 山賊っぽい格好をした覆面たちを見遣る。……こんなにわかりやすい悪人、このゲームに居なかったハズなんだけど……。裏設定であったのかしら、こんな設定。それでもなによりも、まずはあの女の子を助けるのが先!

 わたしはティアナちゃんの手を離して、近くに捨てられている木の棒を拾う。

 そして、構えた。


「ああん? 俺らとやり合う気かい、嬢ちゃん。せっかくの商品を傷つけたくはねぇんだがなぁ」


 からかいの混じる声。わかってる、わたしじゃ多分勝てない。子どもの力なんて彼らにはそれこそ赤子の手を捻るようなものだろう。


「……あなたたちは奴隷商人なのですか?」


 声が震えないように気を付けながら問う。覆面たちは「さぁな」と肩をすくめてみせた。


「わたくしたちをどうするおつもりで?」

「そんなん、高く売りつけるに決まっているだろう。こっちの双子は珍しい二属性持ち、嬢ちゃんはその可愛い顔で、そっちのピンクの髪のガキも売れそうだな。今日はラッキーだぜ」

「やはり、奴隷商人なのですね。この国での奴隷は法律違反。罰が下ります!」

「ハッ! 捕まらなきゃ罰もくだらーねよ!」


 悪人だ、まごうことなき悪人だ!

 ぎゅっと木の棒を持つ手に力を入れる。わたしになにが出来るかはわからないけれど、とにかくやってみるしかない!

 ダンっ、と勢いをつけて踏み込む。まず狙うのは、女の子を捕まえているヤツの脚!

 先が尖っている木の棒だから、うまくすればダメージを与えられる、と思う。


「乱暴なことはしたくねぇんだがなぁ」


 面倒そうに覆面のひとりが呟く。わたしの攻撃をあっさりと躱したけれども、むしろそれが狙い。口を塞がれた女の子ががぶりと覆面の手を噛んだ。


「いてぇじゃねぇか、このクソガキ!」


 一瞬、意識が逸れたところを狙ってもう一度脚を狙う。木の棒がちょうどかかとより少し上のところに当たった。服が裂けて血が出ているのを見て、木の棒でも割と攻撃力あるんだな、なんてちょっと違うことを考えた。


「きゃぁああっ!」

「ティアナちゃんっ!」


 覆面のひとりがティアナちゃんの腕を引っ張る。彼女の叫び声にわたしは、目の前がチカチカとするような怒りが、心の奥底から湧いてきた。



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