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翌朝。いつもより早めに起こされて、わたしは寝ぼけ眼で顔を洗ったりしていた。半分くらい、思考が眠っている感じはあったけど、服を着替えたり髪を整えたりしていると段々目が覚めてきた。
「今日から視察ですね」
「うん。どんな街なのか楽しみだわ」
外装を羽織って部屋の外に出ると、そのまま玄関へと向かう。玄関先で兄と父に会った。ふたりはわたしを見ると「おはよう」と挨拶してくれたので、わたしもにっこり微笑んで挨拶を返す。
「おはようございます、おにいさま、おとうさま」
「良く眠れたかい?」
「はい、ぐっすり休めました」
「それじゃあ、気合を入れて行こうか。朝食は馬車の中でね」
バスケットをさっとわたしに見せてくれたのはラーラだった。そして護衛の三人。メンバーが集まったから、みんな馬車に乗り込む。
「あ、ちょっと待ってください」
「どうしたの、ラヴィ?」
おとうさまがわたしを抱き上げようとするのを躱して、馬車を引く二頭の馬まで近づく。馬は「なんか用?」とばかりに視線を向けてたので、わたしはお辞儀をした。
「今日からよろしくお願いします」
それに答えるように二等の馬は高く鳴いた。父はわたしがしたことに目を瞬かせるも、すぐにふにゃりと表情を崩して高い高いをするように脇の下に手を差し込んで持ち上げる。
「わきゃぁあっ」
「ほんっとうにいい子だね、ラヴィー! さ、お腹も空いただろ? 中で朝食を食べようね」
「はい、おとうさま」
そのまま馬車に乗せられて、視察への旅が始まった。どんな旅になるのかとても楽しみであるのと同時に、昨日ラーラに聞いた奴隷商人の話が頭の片隅から離れない。片隅から追い出そうとしているのに、何回も失敗した。
「ラヴィニアお嬢さま、こちらをどうぞ」
「ありがとうございます、いただきます」
ラーラから渡されたサンドウィッチ。一口サイズになっていて、とても食べやすい。レタスもきゅうりも瑞々しいし、薄く切られたハムを数枚一緒に挟んである。それが丁度いい塩加減になっていて、何個でも食べられそう。
五歳の舌にはまだ早いだろうけど、辛子マヨネーズのサンドウィッチが食べたくなった。あれ美味しいんだよね。五歳に辛子マヨネーズは辛いかな……。
「美味しいかい、ラヴィ?」
「とっても美味しいです!」
「そうか、じゃあいっぱい食べるんだよ。まだまだたくさんあるからね」
「はい!」
もぐもぐと食べていると、兄も父もわたしを見てどこか楽しそうに笑っている。なんでだろう? と首を傾げると、ひらりと兄が手を振った。なんでもないよって、言われているみたいだ。
「はい、お嬢さま。お茶です」
「ありがとうございます、アメーリエ」
紅茶を受け取って一息吐く。そういえば、この馬車全然揺れないな。前世で車酔い……いや、乗り物という乗り物全てに酔っていたわたしだから、ちょっと不安ではあったんだけど……。
「馬車が全然揺れませんね?」
「これは馬車が揺れないような魔法を掛けてあるんだ」
「……? 魔法で馬車が揺れないんですか? どうやって?」
わたしはきっとポカンとした表情を浮かべてしまっているだろう。だって全然想像が出来ない。
「風魔法の応用かな? 風を使って影響が出ないようにしているんだ。私は馬車酔いするみたいでね、これを編み出すのに結構時間が掛かったよ」
「おとうさまは風魔法が使えるのですか?」
「そうだよ。あれ、知らなかったっけ? あ、そっか。魔法のことは六歳に教えようと思っていたんだった」
結構緩いなこの家族!
それにしてもやっぱり六歳なのか。魔力がどうの、魔法がどうのって教わるの。
わたしの魔力は一体どんなのだろう……?
「……なぜ、六歳なんでしょうか?」
「うーん……、あまりに小さい頃に測っても正確ではないらしいし、そこで間違えた教育受けたら後々大変みたいだから、かな?」
ぽつりと落とした疑問には兄が答えてくれた。小さい頃の魔力は安定していないってことなのかな? それに、もしも赤ちゃんの頃に火魔法が得意って出ても、実は水魔法が得意でしたってこともあった、ってことなのかなー?
制作チーム、この辺の裏話もゲームで欲しかった……!
もしくはコンプリートガイドを出して欲しかったなぁ。……前世のわたしが死んだあとで出たかもしれないけどさ。
「六歳になるのが楽しみのような不安のような、まだ一年あるんですけどね」
「そうそう。今はほら、外の景色でも見よう? ラヴィは屋敷の外に出ること滅多になかったから、新鮮だと思うよ」
それは言えているような。三歳から五歳までの二年間で、『ラヴィニア』が外出したことなんて数えるくらいしかない。
それも屋敷の外、なんて。覚えている範囲では誕生日と姉の誕生日に森へピクニックに行ったくらい……。『ラヴィニア』はまだ子どもだしね。行動範囲が狭くても仕方ないか。
揺れない馬車に乗りながら、車窓から外を眺める。朝日を浴びて川がキラキラと輝き、木々も朝露を光らせていた。
それにしても見渡す限り全て自然。前世の故郷を思い出してしまうなぁ。田舎育ちのわたしだもの。なんだかこういう風景は懐かしい気持ちになっちゃう。
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週に一回は投稿したい今日この頃。
相変わらず不定期です。




