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第九十四話 ヨシュア・ラスペル

 

 レナトの街が遠くに見える頃に、ヤンセンからは「たまたま何も起きなかったが、常に備えはしておけ」と、学校でも頻繁に言われるお決まりの台詞をヨハン達に伝えている。



「懐かしい!やっぱり帰って来るとそれなりに思うところがあるわね」


「おいおい、お嬢ちゃんの故郷かもしれんが、遊びじゃないんだからな」


「わかってます!」


 感傷に浸っているところに横やりを入れられそっぽ向くモニカ。


「ちょっとぐらいいいじゃない」

「仕方ないよ、時間を見つけてモニカの親に会いに行こうよ」

「う、うん……なんか恥ずかしいけどね」


 レナトの街は小さな街で、特に目立った特徴は見られない。

 農作物を中心とした輸送とちょっとした工芸品がある程度。


 そうして王都からの荷を運んで来た商人が街への搬入手続きを終える。

 その後はレナトから再度王都へ運ぶ荷物の確認などがあるので、三日はレナトの街に滞在することになっていた。


「さて、じゃあ今日の宿についてだが――」


 ヤンセンがヨハン達に滞在中のことを話そうとしているところで、街の入り口で商人と話していた金髪の若い男がヨハン達に気付いて慌てて駆け寄ってくる。


「お、おい!そこにいるのはモニカじゃないのか!? なんだ? 帰ってきてたのか!?」


 その男はモニカを見て驚き目を見開いていた。


「あっ、お父さん! あー、えっと……ごめんなさい。今冒険者学校の実習で任務中なの…………」


「あっ、そうなのか……。それはすまないな」


 モニカはどう対応したらいいかわからず僅かに視線を彷徨わせてヤンセンを見る。


「なんだお嬢ちゃん。レナトの出身って言ってたけど、ヨシュアさんとこの子だったのか?」

「はい、まぁ……」


「なら今日はここまででいいさ。宿もヨシュアさんのところ、実家に泊まっていいぞ」


「えっ!?いいんですか?」


「んー、まぁせっかく故郷に帰って来れたことだし。ヨシュアさんのとこなら所在も掴み易いしな」

「おいおい、ちょっと甘いんじゃないのか?」

「そこがヤンセンのいいところだよトマス」

「ったく、ヤコブの旦那も相変わらず甘いぜ」


「その代わり約束事が一つ!」


 ヤンセンはモニカ達の前で前かがみになり真剣な表情になり人差し指を一本立てた。

 どういう約束を提示されるのかとしっかりとヤンセンを見る。


「学校には内緒にしといてくれよな」


 ニカッと笑顔で話すヤンセン。

 思わず気が抜けて息が漏れる。


「なぁんだ、びっくりしたぁ。そんなことですか。わかりました。もちろん秘密にしておきます」


 笑顔で答えると、横に立っていたヨシュアが深々と頭を下げた。


「ありがとう、それに気を遣ってもらってすまないヤンセンさん」

「いやいや、気にしないでくれ。その代わり、俺達がレナトにいる時は遠慮なくお手軽な指名依頼だしてくれたらいいからさ」

「ははっ、抜け目がないな。わかったよ。借りにしとくさ」


 ヤンセンとヨシュアが軽く握手を交わす。


「じゃあお前たちはここで一旦護衛任務の実習を中断する。明日朝九時にここに集合だ」

「了解しました」


 そうしてヤンセン達は先に街の中に入っていった。早速飲み屋がどうこうと話をしているのは、学生の面倒を見る肩の荷も下りているのもある。


「おかえり、モニカ」

「ただいま、お父さん」


 ヨシュアの表情は緩みっぱなしなのだが、モニカもまた笑顔。それだけで親子仲は良いのだとわかった。


「おっと、こうしてはいられないな。残りの仕事を――」

「あっ、お父さん別に私待ってるからゆっくりでいいよ!」

「何を言っている!お父さんも仕事を他の者に任せて切り上げるんだ」


「あっ……そう」


 ヨシュアは慌てて運び込まれた荷の方に向かって行く。そうしていくらか話をしてモニカ達を指差しているのは、娘が帰って来たから今日は仕事を終えるという内容。


「優しそうなお父さんだね」

「なんか恥ずかしいな」


 頬をぽりぽりと掻きながら恥ずかしさを口にするが、嫌がる素振りは見せていない。


「お母さんもあんな感じ?」

「うーん、お母さんも優しいのは優しいんだけど、厳しいかな?」

「まぁ母親だもんな」

「ううん。そういうのじゃなくて、もっと……こうなんていうのかな?鬼のような強さ的な?」

「なんだそりゃ?」


「待たせたね」


 モニカの両親に関する話をしているところで、話を終えたヨシュアは再び駆け戻ってくる。

 モニカ達のところに着いた頃には息を切らせており、肩で息をしていた。


「全然待ってないよ。でもお父さん、恥ずかしいよ」


 僅かに俯きながらヨハンを横目に見るモニカ。


「おっと、友達がいたんだったね。 失礼した。 私はモニカの父でレナトの商人代表を務めているヨシュア・ラスペルだ。 よろしく」


「(あっ、そっかモニカにも家名があったんだ)」


 チラッとモニカを見る。

 そう思うのも冒険者学校では余計な格差をつけないようにするために家名を必要としない。


 ヨシュアは先程までモニカに向けていた笑顔とはまた別の微笑みをヨハン達に向ける。


「初めまして、僕はヨハンといいます」

「レインです。よろしくお願いします」

「エレナといいます。よろしくお願いしますわ」


「あっ……」


 それぞれ自己紹介をしたところでヨシュアは小さく声を漏らし、微かに眉をひそめたがすぐに笑顔になった。


「とにかくよく来たね。じゃあとりあえず家に向かうがてら街を案内するよ。ヘレンの驚く顔が楽しみだ」


「ヘレンってどなた?」

「お母さんよ。今は家にいるみたいね」

「楽しみだね、お母さんに会うの」


 ヨシュアに案内されながらレナトの街中を歩く。

 街の中は立ち並ぶ建物同様に落ち着いた雰囲気が似合うのは人々が笑顔で往来しているから。それだけで平和な街なのだろうという印象を抱く。


 そして、街の雰囲気に加えてもう一つわかったことがあるのは、モニカの意外な知名度。


 行き交う人々がモニカを見てヨシュアに声をかけて来る。


「モニカちゃん帰って来てたのかい!?」

「偶然遠征の先がうちだったみたいでな」

「そっか、良かったな」


 などといったような声を掛けられ、ヨシュアも笑顔で返していた。


「ちょっとおっきくなったね。それに相変わらず可愛いわ」

「ありがとうございます。アネモネさんも元気そうで」


 モニカも声を掛けられ、軽く挨拶をして手を振り笑顔で応える。


「モニカって、有名人なんだね」

「あー、まぁ小さい街だからね。それに、お父さんが運送の仕事をしているからよ?街の中に運ばれる物はだいたいお父さんを通るから一緒にいる私も、ね」


 笑顔で自分の知名度は父の影響なのだとヨハン達に説明したのだが、レインは疑問符を浮かべながら首を傾げる。


「ふーん。俺んとこも商家だけど関係者以外には知り合いなんていないけどなぁ」

「そりゃあ王都と比べること自体が間違ってるわよ」

「まぁそれもそうか」


 レインの問いに対する答えに一定の納得をするのだが、次の瞬間それは覆された。


「おーい、モニカちゃーん! 次冒険者が暴れたらモニカちゃんが撃退してくれよ!最近ヘレンさんばっかでわりぃからさ!!」

「そうそう、モニカちゃんが切る啖呵また見せてくれよ!あの『フンッ、子どもに負ける冒険者なんて情けないわね!出直してきなさい!』をさっ!」

「カッコいいよな、アレ! 早く卒業して帰って来てくれよッ! モニヘレの活躍がまた見れるの楽しみにしてるからさ!」


 唐突なモニカの一面を聞かされ、ヨハン達は驚きに目を丸くさせる。


「そん頃にはモニカちゃんもヘレンさんぐらい大人になって綺麗だろうな!息子の嫁になってくれ!」

「バッカ、ヘレンさんにぶん殴られるぞ!」

「ハハハッ」


 続けて住人たちが大声で笑った。

 モニカは俯き顔を上げられない。その上、恥ずかしさから顔を赤らめる。


「えっと……今のは?」


 ヨハンが苦笑いしてモニカに声を掛けるのだが、レインはニヤッと薄く笑っていた。


「姐さん?どうやら姐さんの知名度は理由が違うみたいっすけど?暴漢者がどうこう言ってますけど? アレ、どうしたんですかい?」


「う、うるさいっ!あんたは黙ってなさい!」

「いっってえぇっ!」


 ちゃかすレインをモニカはすかさず剣の鞘でレインの臀部を叩いた。それも勢いよく。

 直後にヨハンの両肩を掴んで必死な形相を浮かべる。


「ち、違うの!聞いてヨハン! あのね、ほ、ほらっ! 暴れた人をそのままにしておいたら危ないじゃない!?」

「う、うん」

「それでね!ほら、取り押さえるのに強引にしなきゃいけない時も場合によってはあるじゃない!」

「わ、わかるよそれは」

「だからね!戦える私が時々それをやってたってだけだけら!ね!」

「そ、そっか、つまりモニカは街の人に頼りにされてたってことだね?」


「そ、そうよ!その通りよ!さすがヨハンはわかってるわね!頼りにされるのだから期待には応えないとね!」


 ヨハンのフォローもあり、なんとかこの場を凌いだことに安堵したモニカは笑顔でヨハンの肩から手を離す。


「――プッ」


 しかし、横から吹き出す音が聞こえて来た。


 必死に笑いを堪えているのはエレナ。

 口に手を当て、今にも堪えきれないのは、その表情が緩みまくっている。


「――モ、モニヘレ――――プッ……だ、ダメッ! も、もう我慢できないですわ! あははははは――――」


 エレナの盛大な笑い声が辺り一面に響いた。


「ちょっとエレナ?笑い過ぎじゃないかなぁ?」

「だ、だってモニヘレって、なんですかソレ?いえ、わかりますわよ?モニカとお母さんのヘレンさんの二人でモニヘレですのよね?いいですわね、可愛らしい略称を付けて頂いているみたいで」


「そ、それは街の人が勝手にそう呼んでるだけよ」


 エレナがひたすら笑うのを、モニカは拳を握りしめて我慢する。


「モニカさん?エレナさんのお尻は叩かないんすかね?」

「あんたは黙ってなさい!」


 痛烈な破裂音が響き渡った。


 レインは四つん這いになり、ジンジンとお尻を赤くさせて突き出す。


「……レインも懲りないね」

「なんで俺ばっかりなんだよ」

「……一言多いからだと思うけどね」


 愚痴るレインにヨハンは屈みながらレインの臀部に治癒魔法を施すのだが、苦笑いを浮かべるしかできない。


「――ふぅ、お待たせしましたわ。ええ、十分に笑わせて頂きましたわ」

「ほんとよ。もうっ!」


 ヨシュアはそんなモニカを満足そうにうんうんと頷きながら笑顔で見ている。


「モニカ」

「なにお父さん?」


「良い友達を持ったみたいだね」


「いや、まぁ、うん…………そうね。見ての通り楽しくやっているわ」


 笑顔のヨシュアにモニカも満面の笑みで答えた。



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