第八十四話 ドルドへの依頼
そうして休日になり、北地区のドルドの鍛冶屋に向かった。
エレナは損壊した薙刀を布でクルクル巻きにして背負っていて、ドルドの鍛冶屋に着くと、店の庭先にミライが掃除をしていたので声を掛ける。
「こんにちは、ミライさん」
「あらっ?ヨハン君にモニカちゃんじゃない?どうしたの?」
「あの?ドルドさんはいますか?」
「え?お師さんなら中にいるけど…………そっちの子達は?」
ミライはモニカとヨハンの後ろにいるエレナ達を訝し気に見た。
「えっと、彼女らは私の仲間なんですけど、ドルドさんにお話があって」
「うーん、別にいいんだけど……」
「どうかしましたか?」
悩む様子を見せるミライを見て不思議に思う。
「ううん、なんでもないよ。まぁお師さんが決めることだし、とりあえず中に入ったら?」
家の中に招き入れるミライの様子を見てモニカとヨハンは顔を見合わせた。
「もしかして、迷惑だったかな?」
「今の様子を見ると、かもしれないね。忙しいのかも」
「ま、まぁ、忙しいかもしれないけど、とにかく話してみようよ!」
「……うん」
そう言いながらミライに続いて家の中に入り、案内されたのは前に訪れた時と同じ鍛冶場。
ドルドは以前と同じように鍛冶場に居たのだが、何もくべられていな火をジーっと見つめながら考え込んでいる様子を見せていた。
「おーい、お師さーん。前に来たヨハン君とモニカちゃんが来たよー」
背後から声を掛けるのだが、ドルドは一切の反応を見せない。
「(また何かに集中しているのかな?)」
ヨハンはそのドルドの様子を見て考えるのだが、エレナやレインはドルドの反応の無さを見て疑問符を浮かべていた。
ミライがスタスタとドルドの背後に近付いて行くと、近くにあった金属製の容器を手に持って大きく振りかぶる。
そうして勢いよくドルドの頭目掛けて振り下ろした。
パコーンと鍛冶場中に響き渡る程大きな音を立ててドルドの頭を叩く。
その様子を見ていたエレナとレインはギョッとした。
「お、おい!あんなことして大丈夫なんか!?」
「あー、たぶん大丈夫じゃない?前に来た時もあんな感じだったよ?」
「(本当にあんな人に頼んでもいいものかしら?)」
ミライに頭を叩かれたドルドはポリポリと頭頂部を掻くと同時に背後を振り返る。
「おお、ミライか。どうした?っと、それにそっちは前に来た小僧たちだな?」
ドルドは背後を見てモニカ達の姿を見て笑顔になるのだが、すぐにその表情を変え、訝し気にヨハン達の背後を見た。
「なんじゃ?そいつらは?」
「えっとね、ドルドさん。ちょっとドルドさんにお願いしたいことがあって来たの」
「…………儂に願い事だと?」
ドルドは観察する様にエレナ達を見るのだが、どうして見られているのかわからないエレナ達は疑問を抱きながら再び顔を見合わせる。
「……まぁいい。話だけなら聞こうか。とりあえずそこに座れ」
ドルドは不満気な表情を浮かべたまま近くの長机に座るように促されたのでとにかく座った。
全員が座れるだけなかったのでヨハンよモニカとエレナが座り、その後ろにレインとニーナが立っている。
「――どうぞ、お茶ですけど」
「ありがとうございます」
「それで?話とはなんだ?」
ミライがお茶を配っていく中、ドルドは尚も難しい表情を浮かべたまま両肘を机に着いて口元に手を送り投げやり気味に口を開いた。
「えっとね、私の仲間、このエレナって子の武器が壊れたのよ。それで、ドルドさんに修復してもらえないかなって思って来たんだけど?」
モニカがエレナを紹介しながら来た理由を説明する。
しかし、ドルドはモニカの言葉を聞いて僅かにピクッと反応した後、その表情をさらに歪めた。
「――そうか、武器が壊れたか。それは残念だったな」
「ええ、ドルドさんなら修復できるかなって思ったんだけど、無理かな? エレナ」
「え、ええ。こちらですわ」
エレナはドルドの様子を見て不安気に思いながらもモニカに促されるまま背中に背負っていた薙刀をゴトッと机の上に置いて布を取り払う。
そこにはサイクロプスとの激闘の果てにボロボロになってしまっていたエレナの薙刀があった。
「……ふむ…………なるほど。確かにこれはひどいな…………」
ドルドはジッと見つめるようにその薙刀を隅々まで見渡した後に顔を上げてエレナを見る。
「どうすればここまでボロボロにすることができるのやら。これはかなりの業物だぞ?」
同時に、ひどく損壊した状態の薙刀を見てもそれが業物だということを見抜いた。
「(――なるほど、確かに眼は良いみたいですわね)」
そこでドルドと目が合ったのでエレナはニコリと微笑んだのだが、ドルドはフンっと鼻を鳴らして顔を逸らす。
「(ですが、性格はあまりよろしくないようですわね)」
エレナは笑顔のまま、ドルドに対して自身の見解を抱いた。
「(……これがこやつの武器か。 一体どうすればこれがここまで壊れるのやら。 だが、なんにせよここまで壊すほどこれを扱いこなせない者がこれだけの武具を持っておるのか…………)」
ドルドはエレナの薙刀に対して一定以上の見解を持つのだが、同時に使用者のエレナを見て一層の不満を抱く。
「それでね、どうかな?ドルドさん。 これの修復、お願いできないかな?」
「ふむ……」
モニカの提案を聞いたドルドはしばらく考え込んだ後にゆっくりと口を開いた。




