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第八十三話 エレナの薙刀

 

「はぁ…………どうしましょう」


 ギィィィと寮の自室のドアを押し開けるエレナは大きく溜め息を吐いていた。


「どうしたの?妙に落ち込んでるみたいだけど?」


 俯き加減に部屋に入って来たエレナの様子に気付いたモニカが声を掛けるので、エレナはドサッとベッドに腰掛け、口を開く。


「ああ、いえ。わたくしの武器のことなのですが、サイクロプスとの戦いで壊れてしまったじゃないですか」


「それでさっき鍛冶師に見てもらうって持って行っていたのよね?あれがどうかしたの?」


「それがですね、どうやら新しく新調しなければならないみたいですの…………」


「えっ!?そうなの?」


「鍛冶屋に見てもらった結果、これは修復不可と言われてしまったのですわ。使い慣れた薙刀でしたのに…………ほんとどうしましょうかと悩んでいるのですわ」


 再び大きく溜め息を吐くことからモニカもエレナが如何にあの薙刀を大事にしていたことがわかる。


 しかし、修復不可と言われたのであるならば、そうなると他に新しい武器を探さなければいけない。


「でも、エレナのあの薙刀って、出所が王宮の物だからかなりの業物だよね?」


 顎に指を当てエレナの薙刀を思い出すモニカは、どう見ても普通の武器には思えなかった。


「まぁ、一応それなりに、ですが」


「うーん、だとするとそれに代わる武器ってなると中々難しいわね。他の武器を使う気はないのよね? エレナって剣や槍もかなり高レベルで扱えるじゃない?」


 念のために問い掛けるだけなのだが、モニカにも答えはわかっている。


「ええ。もちろんありませんわ」


 きっぱりと即答された。


「そっかぁ、じゃあ新しいの用意するしかないよね」

「ええ。ですがただ薙刀であればいいってものでもないのですわ。耐久度も必要なのです。そもそも薙刀の形状の武器ってそれほど多くないので探すのも一苦労ですの」


 エレナが薙刀を好んで使うのにも理由がある。


 一般的に剣やナイフといった形状の武器は多く作られるが、薙刀を筆頭にククリ刀や戦斧などという特殊な形状の武器は少ない。


 理由は明確。

 その扱い方が特殊なのだから。


 冒険者学校の授業でも武器に関することは多く習うのだが、それぞれの武器には長所も短所もある。

 剣の使用率が高いのはその汎用性の高さから。使用者が多いためにその対応はある程度周知されている。

 もちろんその分、型の豊富さや変則的な動きなどもあるのだが、それはあくまでも奇をてらう程度で地力が違えば意味がない。


 薙刀などの使用者が少ない武器はその扱いを知られていないことが多いので初見殺しになり得る。

 熟練者になればなるほどそれほどの開きはないのだが、個々の戦闘スタイルは多様であり流動的である。


 正解があるわけでも不正解あるわけでもない。

 個人の特色が出るもので、一概にどれの方が良いとかは言えない。



 そんな中、エレナは薙刀を特に好んで使っていた。


 王女という立場で幼い頃から英才教育を受けて育ったエレナは幼少期から様々な武具の取り扱いを学んでいる。剣や槍といった他の武具の扱いも全て平均以上は取り扱えるが、やはり命を共にするのなら自信の持てる扱い易い方が望ましいと考えていた。


「――はぁ、仕方ありませんわね。明日一度王宮に戻って何か適当に間に合わせでいいから探してきますわ」


「(……ん? ちょっと待って。要はエレナの薙刀がしっかりとしたものであれば別に修復しなくてもいいのよね?)」


 もう何度目かというほどの溜め息混じりで言葉を口にしているエレナを視界に捉えながらモニカは頭の中を考えが過る。


「あっ!」


「えっ!?どうしましたの、急に大きな声をだして!?」


 モニカは立ち上がりエレナの両肩をグッと掴んだ。


「ドルドさんよ!北地区のドルドさん!!」


 突然モニカが声を大きくして言うものだからエレナは目を丸くしてモニカを見る。


「えっと……それって確か……前にヨハンさんと一緒に行ったっていう? そうだわ……ヨハンさんと二人で出掛けていたあの時ね。 ふ、ふふふっ――――」


 俯き小さく笑うエレナを見てモニカは背筋をゾッと寒くさせ、慌ててエレナの肩を揺すった。


「ちょ、ちょっとエレナ!あれはあなたのプレゼントを買いに行ったって言ったじゃない!」

「はぁ。よく言いますわよ?モニカの誕生日だってわたくしの次の日じゃないですの。あの次の日、モニカの分を買いに行く時は皆で行きましたわよ?」


「えっ? あ……あー、そうだったけなぁ?」


 モニカはエレナにジトリと見られることに視線を外して苦笑いを浮かべることしかできない。


「ま、まぁもういいじゃない!今はそんなことよりエレナの薙刀のことでしょ?」


 ジーっと上目遣いで見られることにどうしたものかと考えるのだが、エレナはそこで小さく息を吐いて笑う。


「――プッ。 冗談ですわよ。 それで?そのドルドという方がどうしたのですか?」


「な、なによもうっ!びっくりするじゃない!」

「いえ、今度はわたくしがヨハンさんと二人で出掛けるだけですのよ?」


「あっ、ずる――」


 い、と言葉を続けようとしたことで軽く睨まれたので、モニカは慌てて口笛を吹いて誤魔化した。


「そんなことよりも、そのドルドさんのことですわ」

「あっ!そうよ!」


「確か、あの時かなり腕の良い鍛冶師だって言っていましたわよね?」

「ええ。だから一度お願いしてみたら?」


「うーん、そんなところに腕の良い鍛冶師なんていましたかしら?」


 頬に手の平を当て考え込むエレナは、王都の情報は王女という立場も合わせてなるべく知るように努めていることから。


 そんなエレナにもドルドのことは聞いたこともない。


「まぁとにかく一度会ってみてから考えてもいいかもしれませんわね。どうせこのままでは他のを探さなければいけなくなりますし。では次の休みにでも案内をお願いしますわ」


 考えた末にドルドを紹介してもらうことを決める。


「ええ、任せて!」


 数日後の休みにドルドの下を訪れることになった。


 ヨハンにもドルドのところに行くことを伝えると、「じゃあ僕も行くよ。せっかくだからレインも行かない?」ということになったので、連れ立って一緒に行くことになる。


 ニーナをどうしようかと悩んだのだが、「ねぇどこに行くの?ねぇねぇ?」と言うので仕方なく連れて行くことにした。



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