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第八十二話 旧知の仲

 

「じゃああとのことはこっちでやっておくわね」

「はい。ありがとうございます」

「ふふふっ、お礼を言うのはこっちの方よ?」


「えっ?」


「だってあなた達がいなければこれほど速やかな捕獲はできなかったもの。じゃあまたね」


 笑顔で答えるスフィアは振り返り、オルフォード伯爵は騎士団に連行されていった。


 その後、攫われた子ども達はギルドまで連れていき、ギルドの職員によって子どもが行方不明になっている家庭を調べてからそれぞれ連れ戻してもらう運びとなる。


 人攫い集団はサイクロプスが暴れたこともあり壊滅的な状況になっていて、どれぐらいの規模であったのかということはスフィアを始めとする騎士団が全容を把握するのにかなりの苦労を要していたということを後になってから聞いた。




「――――なるほどな。やはり貴族が関与していたか。 ご苦労だった」


 深夜になり、ギルド長室を訪れ依頼終了の報告を行うのだが、夜も遅くなっていることもあり、詳しい報告は翌日に持ち越されることなる。


「あっ、それとな」


 簡単な報告を行ったあと、部屋を出ようとしたところでアルバに呼び止められた。


「その詳細の報告は国王のところでしてもらう」


「王様のところで……ですか?」

「ああ、貴族の関与が明らかになったのだ。それに今聞いた話だと色々とややこしい事情がありそうだからな」


「えっと…………はい。わかりました」


 王都への帰り道でニーナはエレナが王女だということを知ることになるのだが、特に気にすることなく「へぇ、そうだったんですね」と淡泊な返答をしているのは、ニーナにとっては階級などどうでもいいこと。




 翌日、依頼報告はローファス国王の前で行われる。


「ふむ、一通りはスフィアから受けていたがもう一度報告をしてくれるか」


「はい」


 シグラム王都、王宮内の謁見の間にてローファス王は玉座に座っていた。

 その表情からはいつもヨハンに親し気に向けられる表情の一切は感じられない。王たる威厳を醸し出している。


 王国の貴族が絡んでいたというその報告、内容が内容なだけに謁見の間は人払いされていた。

 直接関係したヨハン達と、他には宰相のマルクスに近衛隊長のジャン、シェバンニにアルバのみの同席となり報告を受ける。


「――ふむ、わかった。では、そのサイクロプスを生み出したという笛はこちらで預かろう。魔道具研究所に解明依頼を出しておく。それでいいな、シェバンニ、アルバ?」


「はっ」

「もちろん構いません」


 ローファスはアルバとシェバンニを見て同意を得ると次にマルクスを見た。


「それと、マルクス」


「はいでおじゃる」


「騒ぎを起こしたハングバルム伯爵家だが、これは伯爵の資格を取り消し、家は取り壊しとする。理由は人攫いの扇動と国家反逆罪だ。これは紛れもない事実であるからな」


「かしこまりましたでおじゃる」


「王国に不利益を与えたどころか場合によっては大規模被害の可能性もあった。だが、魔道具については触れるなよ?まだその内容や入手経路がわかっておらんのだ。ある程度固まれば余罪追及もできる」


「では早速処理してきますでおじゃる」


「任せた」


 そうしてマルクスは謁見の間を出て行くのを確認するとローファスは大きく息を吐くと、いつものヨハン達に接するローファスの表情に移る。


「今回はご苦労だった。王国に迫る脅威を未然に防いだのは評価に値する。感謝しよう」


「いえ、僕たちは依頼されたことをしただけですので」


「そんなに謙遜するな。お前の親父、アトムはこんな時は偉そうにふんぞり返っていたぞ?」


「……そうなんですね」


 なんとなくだが想像出来る気がする。

 高笑いを浮かべながら自慢気にしているだろう父の姿が。


「はぁ。よく言いますね。それでよく喧嘩していたのはどこの誰ですか?」


 溜め息混じりに口を開くシェバンニ。


「んなこと言ったってあいつが自慢するからなぁ」

「それに付き合っていたあなたもあなたです!」


 シェバンニの言葉にローファスは天井を見上げながら懐かしそうに話す二人。

 そのやり取りを見て唖然とさせられるのは、シェバンニの物言いから。


「えっと、先生と王様って…………」


「ああ、そういえば話していませんでしたね。ローファスもあなたの父親も私の教え子でしたからね」


「へぇー……」


 当時の話を聞いてみたいような、聞いてみたくないような。


「ま、まぁあん時の話はおいといてだな――」


 ローファスが慌てて話題を変えようとするのを見て皆似たようなことを思う。


「(きっと話されたくないことがあるんだろうなぁ)」

「(今度それとなく先生に聞いてみましょうかな)」

「(どんな悪ガキでしたのでしょう?)」

「(ヨハンの話を聞いても大して驚かないとこ見ると、相当やらかしたんだろうなぁ)」


 と。


「――それにだ。今回の件で王国も一枚岩ではないということはよくわかった。先代の時もそうであったが、どの時代においても良からぬことを企むやつはいる。これからも頼んだぞ」


 突然表情を引き締める辺りに狡さを感じた。


「はい!」


 強く返事はするものの、どこか卑怯に思える。

 ローファスはなんとか誤魔化せたと思っているのだがそんなわけはなかった。


 ふとローファスの視線がヨハン達から移る。


「それで話は変わるが、その隣におる子は誰なんだ?さっきから気になっていてな」


 ローファス王はヨハン達と同じようにしてさも当然のように並ぶニーナを不思議そうに見ていた。


「私が同席を許可しました。申し遅れました王よ、この子は―――」


「あたしはヨハンお兄ちゃんの妹です!王様!」


「……は?いもうと?」


 シェバンニがニーナのことを紹介しようとしたところに笑顔で言葉を差しこんできた空気を読まないニーナの一言、それはその場にいた全員を凍り付かせる。


「あいつに娘なんていたっけ?」


 そこでヨハンを見るのだが、ヨハンはブルブルと慌てて首を左右に振った。


「となるとどういうことだ?」


「す、すいません王様!これには色々と事情がありまして……って、僕も事情を詳しくは知らないんですが――――」


「何を慌てているんだお前は?」


 首を傾げ続けるローファス王に対して、父アトムが恐らく無責任な約束をしてしまったのだろうということや、シェバンニによってキズナと行動を共にすることなどの事情をなんとか説明する。



 一通りの説明を聞いたローファス王は大声を上げて笑い出した。

 それも過呼吸になるほどの引き笑いを。


「――ひっ、ひっ、わぁ、はっ、はははッ! そうか、そんなことがあったのか!なるほど、ほんとにあいつらしいな」


 腹を抱えて笑う姿にはとても一国の王には見えない。


「王よ、流石に笑い過ぎです。もう少しご自重して下さい。ここは神聖な謁見の間でございます」

「固いことを言うなジャンよ。こんな面白い話を聞いて笑うなって方が無理だ!ここにいるのは全員勝手知ったる仲じゃないか。なぁアルバにシェバンニよ!」


 シェバンニとアルバに同意を求めると、二人とも頷きながら苦笑いをしていた。


「(なるほど。となるとあの強さの理由ももしかしたら理由があるかもしれませんね。やはりヨハン達と一緒にさせておいて正解でした)」


「(どこかで視たことのある魔力だとは思っていたが、もしかしたらあやつは――――)」


 そうして二人は独自の見解をニーナに抱く。


「では王様は父さんがニーナのお父さんとその約束をしたと思っているってことですか?」


 ヨハンの問いに対してローファスは目を丸くさせた。


「ああ。あいつはいい加減で適当なやつだ! その程度の約束なら間違いなくしている。 だが一応やつの名誉のために言っておくが女には真面目なやつだったぞ?エリザが誰も近寄らせなかったからな」


「そうなんですね。わかりました」


 チラッとニーナを見ると、ニーナがどうして見られたのかわからず小首を傾げながら小さく笑う。

 父を良く知る人たちが挙ってそれを肯定するのだから恐らく本当のことだろうと考えた。


「(ってか、それは名誉を守れてるって言えるのか?)」


 レインはただただ話を聞きながらこの場で口に出せないもどかしさを感じている。


「(今の話からすると、ヨハンさんのお母様はお父様に対してアプローチしていたみたいですわね)」


 エレナは違う方向から今の話を聞いていた。


 それから謁見の間は最初の厳かな空気は何だったのかという程の緩い空気へ変わっていく。

 ローファスとシェバンニにアルバは楽しそうに昔話に華を咲かせていた。


 だが、まだ解決していない問題は残っている。


 オルフォード伯爵が使った笛が一体何だったのか。どこで手に入れたのか。

 いくつかの疑問は残るが、キズナは今回の依頼報告を終えた。



 後日、生き残った人攫いや攫われた子ども達によって伝説上とされている単眼巨人サイクロプスをわずか四人の子どもが倒したという噂が一部で流れたのだが、下賎の者や子どもの言う話。


 誰も信じることはなかった。



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