第七十九話 サイクロプス(中編)
「…………このままでは――――」
しかし、オルフォードの気持ちとは裏腹に戦局は徐々にヨハン達に傾いていく。
サイクロプスは次々と受ける止まない魔法攻撃に対して棍棒を振るい続けた。
だが、ヨハン達は近付いてはすぐに遠のき、すぐさま反対側から魔法を撃ち込まれ続ける。ヨハン達に対して効果的な反撃はできないでいた。
そして、ダメージが蓄積し始めたサイクロプスはとうとう片膝を着く。
「チャンスだ!」
「お願いしますわ!」
「ヨハン!」
「うん!任せて!」
レイン達の声に反応するヨハンは軽く跳躍して小さな丘の上に立った。
「――グゥ……」
サイクロプスが足元を確かめるように再び立ち上がろうとしたところで正面の丘から声が聞こえて来る。
「余所見しているとダメだよ!」
「グォ?」
サイクロプスが声の下を見ると、ヨハンはグッと力強く両手を使って弓引くように手に光輝く弓を構えていた。
ヨハンはサイクロプスが顔を上げたその瞬間を狙い、単眼を光の矢で射抜くための隙を狙っている。
「これで――」
パッと手を離して光り輝く弓をサイクロプス目掛けて放った。
タイミング的には躱すことの出来ない絶対的なタイミングで弓を放ったのだが、そこでサイクロプスの単眼がギラっと光る。
「――えっ?」
サイクロプスの単眼から光が凝縮した塊が光線状になって放たれた。
ヨハンに目掛けて一直線に凄まじい魔力の光が発せられ、ヨハンがいた丘に直撃すると丘が粉々に弾け飛ぶ。
「ヨハン!」
「ヨハンさん!」
「ヨハンっ!」
モニカ達はヨハンの安否を心配するが、モニカ達にもそんな余裕はない。
「こっちにきますわ!」
「とにかく避けるんだ!」
「こんのっ!」
単眼から放たれたその魔力光線はグルリと首を回してその勢いのまま、支援魔法攻撃を行っていたエレナ達目掛けて下に到達する。
ズババババッと激しい音をまき散らしながら地面が弾け飛んでいった。
モニカ達はすぐにその場から飛び退きギリギリのところで回避することができたのだが、内心ではそれどころではない。焦燥感に駆られる。
「ヨハンは大丈夫なの!?」
「わからないですわ!ですがわたくし達は今できることをするべきですわ!」
「チッ!あいつ死んでないだろうな!?」
元居た場所を見ただけでヨハンが受けたであろう光線の破壊力を物語っていた。
ヨハンの安否は気になるのだが、自分たちのしなければいけないことをすぐに判断する。
まずは魔法攻撃を続けること、それが無事でいるかもしれないヨハンの支援にも繋がり、サイクロプスを倒すのに必要な行為。
エレナ達は逸る気持ちを抑えて魔法を放ち続けた。
「――フ、フハハハハハ!素晴らしいぞサイクロプス!いいぞ!もっとやれ!小僧どもを消し炭にしてしまうんだッ!」
劣勢だったサイクロプスの状況が一気に好転したことで歓喜の表情をオルフォードは浮かべ、高笑いをしている。
「そうだな、いっそこのまま…………このまま王都まで攻め込んでやろうか。王国は一度壊滅する必要がある。そこで私が王国の再建を担えば…………フ、フフフフフ――――」
オルフォードは不敵な笑みを浮かべていた。
「――きゃっ!」
「モニカ!」
「だ、大丈夫……少しかすっただけだから」
エレナが慌ててモニカに駆け寄り治癒魔法を施す。
「はぁ、はぁ、はぁ…………。おい、つったって俺達もいつまでも躱し続けられるわけじゃないぞ?」
レイン達はサイクロプスの光線を躱すことに精一杯だった。
サイクロプスも魔法が効いているのだろうか足を進められずにいる。
その場から眼からの魔力光線をあちこちに放っているに留まっていた。
しかし、足のダメージが回復してきたのか、サイクロプスは光線を放つのを止め、グググっと片足を起こしていく。
「だめだ、あいつ動けるようになりやがる!」
「ヨハンさんは……」
エレナが背後に目を送ると、サイクロプスがヨハンに放った場所の瓦礫がガタゴトと動いていた。
「いててっ……ちょ、ちょっと油断しちゃったな」
ガタンと瓦礫が落ちるとヨハンが身体を起こしていた。
「無事だったのね!」
モニカ達がヨハンの下に嬉しそうに駆け寄る。
「うん、なんとかね。でも闘気と合わせた障壁を展開しなければかなり危なかったよ」
「お前の魔法障壁でそれだけダメージを受けるって…………俺だと直撃したら即死だな」
たははと苦笑いするレインはブルっと寒気に襲われた。
それだけヨハンが先程危機的状況に陥ったのだと理解する。
ヨハンは被弾直前に闘気の上に魔法障壁を展開してダメージを抑えたのだった。
「ヨハンさん!サイクロプスの魔力の底が見えない以上、このままではこちらの魔力が先に尽きてしまうかもしれませんわ!その前に手を打たないと!」
ヨハンの無事を確認してエレナは安堵するのだが、すぐに表情をキッと厳しくさせる。
「そうだね――――」
ヨハンは身体を起こそうとしているサイクロプスをジッと見つめて考え込んだ。
そして「よしっ」と小さく声を発したあと、エレナの手を握る。
「えっ!?ヨハンさん――」
「ちょっとヨハン!いきなり」
レインが唐突なヨハンのその動きにドキッとするのだが、ドキドキしているのはレインだけではない。エレナもまた大きく心臓を跳ね上げていた。
「エレナ!その命、僕に預けてくれないか!?」
突然のヨハンの発言に一同は驚愕する。




