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第七十七話 炭鉱の悪魔

 

「あれ……何か取り出す?」

「ん?なんだって?」


 ヨハンはオルフォードの様子を見て疑問が浮かぶ。

 その表情からはまだ諦めている様子が見えない。


「エレナ!気を付けて!その人まだ何か隠しているよっ!」


 慌てて声を掛けるとエレナはピタッと歩みを止めオルフォードの動作を確認する。


「まだ何かありますの?」


 オルフォードはそれまでとは違う笑みを浮かべた。

 それは余裕を失っているどこか狂気染みた笑み。


 疑問符を浮かべるのだが、オルフォードはそのまま胸元から笛のような物を取り出した。


「笛……でしょうか?」


 一体その笛をどうするつもりなのだろうか、目的がわからない。


「これを……!これをこれをこれをッ!これをこんなところで使わなければいけないとはッ!」


 オルフォードは取り出した笛を力一杯吹いたのだった。




 廃坑の広場に笛の音が響き渡る。

 しかし、音と表現してもいいものなのか、それはとても音色とはいえないほどの歪なただの音だ。


「なんですかこれは!?」

「ぐっ、耳が痛ぇっ」

「……くっ、妙な魔力を感じる」


 思わず耳を塞いでしまう程の歪な音。

 人攫いの男達の何人かは口から泡を吹いて倒れていた。


「クッ……ククククククッ。あーはっはっはっはっはっは!」


 高笑いを上げるオルフォード。


「これで貴様らは完全に死んだ。もうどうにもできん」


 一体どういうことなのだろうか。

 余裕を取り戻したオルフォード。その前の地面に途端に黒い大きな影が浮かび上がる。


 その影から黒く影が濃い何か大きな物体が浮かび出て来た。


 黒く大きな物体は徐々に色味を帯びていく。



「なっ!?なんだこいつ!?」

「一つ目の……巨人?」


 ヨハンとレインは目の前の光景に驚愕した。


「まさか!?」


 エレナはその場から後ろに飛び退き、ヨハンとレインの横に並ぶ。


 影から姿を現したのは人型の単眼の巨人。


「グオオオオオオオオオッ――――」


 その巨体は褐色の肌をしており、姿を現すなり大きな咆哮を上げた。

 そして、その手に持つ武器、巨大な棍棒を豪快に振り回す。


 その棍棒にオルフォードの仲間なのか子分なのか、味方であるはずの人攫いの男達を蹴散らすように巻き込まれた。


 それは広場に大混乱を生み出す。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

「に、逃げろおおおおおおっ!」

「こ、殺されるぅぅぅぅぅ!」



 オルフォードはその様子を見て大きく口を開けた。


「ふはははははははっ――――」


 大声を出して笑う。


「まさか、まさかこれだけのヤツが現れるとは思ってもいなかったぞ!ハハハハハッ!信じられん!これならば――――」


 オルフォード自身も目の前の光景に驚愕すると共に歓喜の笑みを浮かべている。



「エレナ!あれは何!?」


 ヨハンが問い掛けるのだが、エレナの頬に一筋の汗、冷や汗が流れた。


「あれは…………恐らく『サイクロプス』ですわ」

「サ、サイクロプスだってっ!?そ、それって、伝説の巨人だよな!?」

「あれが……サイクロプス。確か前に本で見たことがある」


 目の前で人攫いたちがサイクロプスに蹂躙されている。


「とにかく子ども達を安全なところまで避難させよう!」

「ええ」

「くそっ!なにがどうなってやがんだよ!」


 ヨハン達は事態の把握ができないまま子どもたちを避難させることにした。


「――お兄ちゃん!!大丈夫!?」


 背後に走り、子ども達が入っている麻袋まで辿り着いたところでニーナとモニカが慌てた様子で走ってくる。


「ちょっとちょっと!外で待ってたら物凄い叫び声が聞こえたと思ったら叫びながら逃げている人達がいるじゃない!」


 状況のわからないモニカが問い掛けながらサイクロプスを見て言葉を続けた。


「一体何が起きているのよ!?それにあの巨人は何!?」


「詳しい話は後でしますわ!まずはこの子達の避難が先ですわ」


「そうだね、まずは避難しよう!」


「もうわけがわかんないわよっ!」


 エレナが子どもたちの避難を呼びかけ、十人の子どもたちは一人で二人ずつ抱き抱えて外に飛び出す。

 動ける人攫いの男達も蜘蛛の子を散らすように炭鉱から飛び出していった。




 ヨハン達は炭鉱から十分な距離を取り、大きな岩陰になる安全な場所まで子どもたちを運び込む。

 その間にモニカとニーナに炭鉱の中の出来事を簡潔に話して聞かせた。


「ニーナ、あなたはこの子達をお願いしますわ!」

「何で!?ニーナも戦います!」


 エレナに声を掛けられたニーナは驚き目を見開く。


「ダメだよ。ニーナの実力は申し分ないけど、実戦経験がまだ不足している」

「お、お兄ちゃん!?」


 ヨハンにも止められ、悲し気な表情を浮かべるニーナなのだが、ヨハンは優しく微笑んだ。


「それにね、子どもたちの安全を確保することが今一番大事なんだ。その大事な役目をニーナにお願いしたいんだ」

「で、でも…………」

「ごめん、今はとにかく言うことを聞いてくれないかな?子ども達を頼むよ」

「むぅー、お兄ちゃんがそこまで言うなら…………。わかった!じゃあレインさん、苦しくなったら言ってね!いつでも代わるから」


 ニーナはレインに向かって笑いかける。


「そこでなんで俺なんだよっ!」

「だってレインさんが一番最初に死んじゃいそうですからね」

「……うぐぐっ!こ、このやろうっ!」

「ふふっ」


 そしてレインがニーナに小馬鹿にされ、そのやり取りを横目にモニカが頼もしく思いながら笑った。



「――――グオオオオオオオオッ!」


 そうしている間にサイクロプスは狭い炭鉱の洞窟路をその巨体で押し壊しながら外に出て来る。


「あいつ!?外まで出てきやがった!」

「じゃあみんな、行くよ!!」


 しっかりとそれぞれの目を見て声を掛ける。


「ええ」

「うん」

「おうっ!」


 大きく頷き合い、尚も暴れ続けるサイクロプスを見た。


「お兄ちゃん、死なないね!」

「もちろんだよ。じゃあ行って来るね」

「うん!」


 そうしてキズナは大きく咆哮を上げるサイクロプスに向かって立ち向かう。



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