表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S級冒険者を両親に持つ子どもが進む道。  作者: 干支猫
エピソード エルフの里
745/746

ふとした疑問

 

 幼い頃よりナナシーが過ごしていたという湖まで歩いてニ十分ほどの高所にある。


「べつにお前まで来なくて良かったんじゃねぇの?」

「あんな話を聞いておいてほうっておけないでしょ?」

「……忙しいんだろ?」


 シグラム王国とパルスタット神聖国とエルフの三者会談。その途中で抜け出してきているのだから。


(ったく、機嫌悪いのが目に見えてらぁ)


 隣を歩くマリンの不貞腐れっぷりが手に取るようにわかる。表情を険しくさせて唇に親指を押し当てていた。

 大事な会談の最中に余計な仕事をさせないでと言わんばかりの態度。何度か戻るように声を掛けても「また問題を起こされてはかないませんわ」の一点張り。

 もう問題を起こすつもりはないのでマリンには戻ってもらって一向にかまわないのだが、しかしレインが考えるようなことをマリンは考えてもいなければ気にもしていない。


(わたくしの直感が告げていますわ)


 このまま二人きりにさせてはいけない、のだと。

 何故かそう確信する。


(あのエルフにそんな気はなさそうだけど)


 周囲の人間からしても、一目見てすぐにわかるほどの感情。レインから向けられるナナシーへのその好意。

 当のナナシー(ほんにん)がどう思っているのかはわからないが、見る限りナナシーに脈はなさそう。聞き知った通り、長寿のエルフであるからこそ、年若いエルフには色恋沙汰に基本的には無頓着らしいという噂にもそれほど大差がない。それは事前にマリンからサイバルへとそれとなく探りを入れた時にも同様の反応が得られている。

 これまでは、だからこそ今のうちにレインをこちらに振り向かせることが出来れば、と躍起になっているのだが未だに上手くいかない。


 しかしいつまでも油断しているわけにもいかない。いつそれが変わるともしれないのだから。

 その潮目が変わるのが今日この時なのだという直感。


(そうなると、ここは一気に押し進めるべきですわね)


 思い返せば、パルスタット神聖国より帰国して以降、レインの反応が以前と大きく変わっていた。明らかに恥ずかしさからの困惑。

 感情を表に出して精一杯の主張をすることには恥ずかしさで顔から火が出そうな程だが、手応えがある以上ここは引いてはならない。


(ですが、今のわたくしに何ができますの?)


 とはいえ、他にどんな手段があるのか。押してダメなら引いてみろとはよくいったものなのだが、ここで引いてしまえばきっとそこから先が難しくなる気がする。

 それに、そうこう手をこまねいている間に、あの忌々しいエルフがこの帰郷をきっかけにして二人の距離が縮まらないとも限らない。特に今は珍しく感情を露わにしているあのエルフにレインが寄り添えばどう転ぶか。


(だったらいっそ、無理やりにでもここで押し倒して)


 チラリと周囲へ視線を向ける。

 幸い辺りに人気はない。人目につかないような隠れる茂みもいくつもある。


(それでもしレインがその気になれば……――)


 そこでふと考えが過る。押し倒すといっても、そもそも元々レインには力では敵わない。そんな状況で興奮したレインに逆に押し倒されでもすれば抵抗のしようがない。


『――……やっ! だ、だめよレインっ! わたくしが悪かったですわ! だ、だから……せ、せめて……あ、あの、や、やさしく、して…………――――』


 と、そこから先の妄想を膨らませると一気に羞恥が込み上げて来た。


(って、わ、わたくし! いいいったいなななにを考えていますの!?)


 瞬間的に顔が沸騰し、無意識に両頬を触ると明らかに熱を持っていることを自覚する。


(か、かか仮にも王家の人間がそんなはははしたない手段を用いるわけにはいいきませんわ)


 既成事実も確かにある種有効な手段には違いはないのだが、そんな手段を用いるわけにはいかない。迷いを振り払うように目を瞑りながらぶるぶると顔を振り、小さく一息吐いてゆっくりと目を開ける。


「さっきから一人で何やってんだよ?」

「はうあっ!?」


 目の前には疑問符を浮かべて覗き込んでいるレインの顔。


「ん?」


 レインから見たら、真剣な顔をしていたと思えば次にはしかめっ面。次には途端に慌てふためき赤面させると、まるで一人百面相。


「あ? ちょっとお前」

「えひぃ」

「顔、赤いな。熱でもあんのか?」

「あ、あ……」


 ゆっくりと額に伸ばされる手の平をギュッと目を瞑り受け入れるしかない。


「ちょっと熱い、か? いっぺんもどって休みにいくか? お前もここんところ色々と積み重なってて大変だろうし」

「だ、大丈夫ですわよ! れ、レインのくせに余計なお世話ですわよ!」

「んだと?」

「い、いえ、お気遣いは感謝しますわ。で、ですが、無用ですわよ。そ、それよりも、セブさんの言っていた湖はもうすぐそこでしょ!? ほ、ほら早く行きますわよ!」

「ん? あぁ……おぅ」


 その状況に耐えられないマリンは足早にその場を後にする。


「ったく。なんだあいつ」


 その背中をレインは首を傾げながら付いて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ