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第七十三話 廃鉱調査

 

 建国祭を堪能した後に突然舞い込んできたギルドからの依頼。

 それは、偶然目撃した建国祭での人攫いが関与していた。


 ヨハン達が捕らえた人攫いから得た情報では、人攫い達のアジトは王都の南にある廃坑を根城にしているのだと。


 支度を終え廃坑目指して出発する。

 人攫いのアジトがあるという廃鉱へと、キズナに新たにニーナを加えた五人は向かっていた。


 廃鉱は王都の南に位置する小さな山にある。


 以前はそこから様々な鉱物などが掘り出されていたのだが、いつからか鉱山内には魔素が発生して、充満しだした。そうなると、魔物が度々発生するようになっていく。

 初めの内は王国の騎士団や冒険者達で魔物が発生する度に討伐をしていたのだが、その頻度が多く、魔物は鉱山から出ることがなかったので次第に鉱山は閉鎖された。次第に人間が近付くことはなくなっていたのだという。



 その廃鉱へは馬車を使わず歩いて向かっていた。

 普段人の出入りのない場所に馬車などの目立つもので移動すればすぐに人攫い集団の目に着く。



 ―――その道中。


「ねぇ、その人攫いの目的ってなんだろうね?」


 ヨハンがふと疑問を口にした。


「そんなもん決まってるだろ、金だよ金。連中は攫った子で身代金要求や他国の奴隷商人に売り払ってるって話だからな」

「うん、それはわかるよ。許せないけど、それがどうして王国の貴族と関係してるのかなって」

「そりゃあれだろ…………って、あれ?なんでだ??」


 レインが一般的な人攫いの行動原理を話すが、そのまま続けられた疑問には答えられない。


「まだ明確に貴族の関与が確定したわけではないですわ。しかし、万が一関与していた場合、その理由が何にせよ、王国に害を成す以上見過ごせられません」

「そうよね、とにかく気を付けて取り掛からないといけないわね」


 考えてみたのだが、そもそも貴族が王都で人攫いを指示する理由が見当たらない。

 可能性としてはなんらかの金銭の絡みなのだが、それ以外となると王国自体へ謀反の恐れがある。

 もしそうであれば早急な対応が必要だった。



 そうしてほどなくして一行は廃鉱の入り口近くに着く。

 廃鉱付近は見てわかる程に廃れており、長年人が使用した形跡が見られない。

 だがそんな中で、近くの土の道でヨハンが違和感を覚えて足を運ぶ。


「みんな、これを見て!」

「これ、足跡を意図的に消した跡みたいに見えるわね」


 ヨハンが見つけた跡をモニカが確認する。

 そこにあった地面の様子は土をかぶせられて見え、足跡などの痕跡を消しているようなことがそこから窺えた。


 遠目に見る炭鉱への入り口は複数あり、その中の一つにこの痕跡がある。


「さて、じゃあ予定通り二手に分かれよう」


 お互いに顔を見合わせ合い頷き合った。

 ヨハン達は素直にその痕跡のある入り口には入らない。


 予め用意しておいた鉱山の見取り図を確認すると、他の入り口からもそれぞれに繋がっている部分がある。

 正面から入っても気付かれれば他の出口から逃げられる可能性がある上に、そもそもここが人攫いのアジトで間違いがないのか、そこにリーダーを含めた者がいるのかなど、その素性や規模など確認することが多い。


 建国祭の時に捕らえた男達から引き出した情報が全て正しいとも限らないので慎重に行動する。

 偽の情報を掴まされ罠に掛けられることもあり得るので、こういった隠密行動の際は特に細心の注意を払わなければならなかった。


 現地の状況を確認してどうするか相談しようとしたところで、炭鉱の入り口から人の声が聞こえて来る。

 同時に複数の足音が聞こえて来たので岩陰に隠れて聞き耳を立てた。


「おい、そろそろ引き上げるってお頭言っていたけど、実際どうなんだ。今回の収穫は?」

「ああ、この間ヘマしたやつらを除けば上々らしい」

「へぇ、それは良い話だな。早く売りさばいちまおうぜ」


 会話の内容からそれが人攫い集団だと判断でき、声色からは下卑た気配を感じさせる。

 更に男達は他にも攫った子供がいることを仄めかしていた。


「お頭もそうしたいらしいが、オルフォードの野郎が段取りを組んでやがるからな」

「チッ、あの野郎。いちいち俺達のやることに口出ししやがって」

「まぁしょうがねぇ。持ちつ持たれつってやつだ。さーて、俺達は今晩の宴会のための食糧を調達に行こうか」

「おうよ」


 会話の中に人物らしき名前が聞こえて来る。

 そこでエレナの顔を見ると、僅かに表情を曇らせていた。


「エレナ……やっぱり……」

「ええ、まだ名前だけでは断定できませんがオルフォードという名前は確かに王国の貴族にいますわ。わたくしは会ったことはありませんが、確か……オルフォード…………オルフォード・ハングバルムだったかと」


 エレナは曇らせていた表情から即座に切り替え、その目に強い決意を宿す。


「(貴族が関与しているって、やっぱり僕らにはわからない責任があるんだろうな)」


 いくらかの心情を慮ったところでエレナと目が合った。

 小さく頷かれたのは恐らく気にしないで欲しいという意図なのだろうと汲み取り周囲を見渡す。


「みんな。早速情報が入って来たのはいいことだけど、人攫いは近々アジトを引き払うみたいだ。できれば今晩中になんとかしよう」

「あいつら宴会するみたいだからその時を狙えばいいんじゃないか?」


 レイン提案するのに誰も反対はしないのはそれが一番効果的だろうと思えるから。


「そうね、それまでに廃鉱の中をちゃんと確認しとかないとね。それと、誰かがこの入り口から出入りする人数を数えなければいけないんじゃないの?」

「そうですわね、この機会に一網打尽にしてしまいたいですものね」

「わぁ、エレナさんカッコいいー」

「ありがと、ニーナ」


 そのやり取りを見てヨハンはいくらか安心する。

 ニーナに向けられるエレナの笑顔には迷いは見られなかったのだから。


「じゃあその役、私とニーナちゃんでするわ。もちろんできるよね?」

「うん。要は人数を数えておいて、夜の襲撃時に出て来たやつらを逃がさなければいいってことだよね?」

「そういうこと!」

「じゃあ僕とレインとエレナは三人で中の確認をしに行って来るね」

「気を付けてね」

「うん、モニカとニーナもね」


 そうして話がまとまる。



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