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第 七百十九話 駆け引き

 

「――……ふぅ。やっとここも修繕できましたね」


 水の都である聖都パルストーンの再建に尽力しているクリスティーナは額の汗を拭いながら空を見上げる。


「クリスや」

「テト様? どうかされましたか?」

「いやなに。光の聖女の後任だが、正式に枢機卿団の承認が下りたことを報告しておこうと思ってな」

「そうなんですね! 良かったです!」


 手を叩き、喜びを露わにする。


「これであとは向こうの結果を待つだけですね」

「うむ。友好条約の締結もこれに掛かっておるので上手くいけばいいのだがな」


 同じようにしてテトが顔を向ける先はシグラム王国のある北東。



 ◆



「して、どのような案を持っておるのだマリオ」


 ローファス王が威厳たっぷりに鋭い視線をマリオ・ブルスタンへと向けるのだが、マリオ・ブルスタンは怯むことなく笑顔で返す。


「はっ。確かに国王のおっしゃる通り類い稀な実力のある者でなければ彼の地はとても平定できるものではありません。ただそれであっても今後空路が整うことで彼の地へは比較的簡単に訪れることができるようになりましょう。これは今回の話の最大の僥倖であります」


 友好条約の条項である一つが飛空艇の利権関係。

 いくら魔物が蔓延っていようとも空は撃墜でもされない限り陸路に比べれば比較的安全。移動手段の確保もまた重要であり、期せずとも今回の一件の成果。


「これだけの利をもたらしたのであれば爵位を与えるには十分な成果だ」

「おっしゃる通りです。それで、我等ブルスタン家に彼らを預けて頂ければ、今後彼の地に豊かな実りをもたらすことを約束しましょう。四大侯爵家である我等が後見ともなれば彼らも十分な面目が立ちます。それにここしばらく、カトレア家が彼の英雄を庇護に置いていることでいくらかの不和もありますのでね。ですのでこの辺りで一度これらの清算を成されては如何かと具申致します。どうかご一考を」


 周囲の反応を確認するかのように見回すマリオ・ブルスタン。その言葉にはいくらかの説得力があったのか、それならばと納得している様子を見せている者もいた。


「ふむ。お前の言うことも一理あるな」

「では、今後はそのように運びますので。子細は後程」

「ああいやまて。お前の言うことはわかったのだが、褒賞の話はまだ終わっておらんぞ」

「ええ、そうでしたね。ですが同じ侯爵家とはいえカトレア家が後見になるのはいけませんぞ? ここで四大侯爵家のどれかに肩入れするような贔屓でもすれば他の貴族へ顔向けができませんので。それは勿論ランスレイ家にしても同じです。先のアーサーの一件でランスレイ家は悪目立ちしておりますので」


 小さく嘆息するアーサー。レイモンドの独断でアーサーを養子に引き入れた時のことを言っているのだということは以前聞いていたことがあったのでヨハンにもわかった。


(僕としてはカールス様の方がいいんだけどなぁ)


 そうして視線の先に映るのは、これまで何度となく名前を出されているにも関わらず変わらず瞑目しているカールス・カトレア侯爵。マリオ・ブルスタンの言葉にまるで関心を示していない。


「ひとつ、よろしいかねマリオ殿」


 しかしレイモンド・ランスレイは違った。


「……なにかね、レイモンド殿」

「仮に、仮にだが。莫大な利益を得るほどの多大な貢献を果たした者がいて、それが一足飛びに辺境伯という地位を賜るのに適していないというのは私も貴殿の言う通りだと思う」

「ほぅ。レイモンド殿が私の意見に賛同するとは珍しいこともあるものだ」

「なに、あくまでも一般論、での話だ。そもそもそれだけのことが検討されるということ自体が普通ではないのでね。だからこそ皆も承知のように今回の一件はそれに値する、それだけ素晴らしいということだな」

「その通りだ。そのため今後の不興を買わないよう進言しているに過ぎない」

「そうだな。それならば確かに我等四大侯爵家のどれかが後見になるというもの筋が通っている」

「…………何が言いたい?」


 回りくどい言葉にマリオ・ブルスタンは苛立ちの色を見せる。


「いやこれも仮の話だが、これがそれなりの血筋を有している者の功績であればどうなる? そう、例えばマリオ殿の息子がそれを成したのだとすれば」

「ははは。何を言っているのか。我等侯爵家の子息子女がこれほどの功績を残したともなれば辺境伯の地位を賜るのに何の問題がある? それどころか、むしろいくら肥沃な土地であろうともこれから開拓が必要となり、陸と空の交通などの諸々の整備をしなければならないことを考えれば我が息子には爵位だけでは足らない程だな。他にも入り用なモノは山ほどあるのだ。だいたい、多大な貢献を果たした場合、血縁が何より優先されるのは知っておるだろう?」

「もちろんだ。いや、ふむ。そうか、これでは足りないか。なるほどなるほど。それだけの功績を彼は残したわけだな」


 顎を擦りながら周囲を見回すレイモンド。様子を見るに、異論はほとんどない様子。むしろカトレア家やランスレイ家に連なる、又は肩入れしている者にすれば不満の色が見られた。


「だがそれはあくまで地位ある者が成し遂げた時だ。地位なき者とは出発地点が違うだろう」

「その通りですね。では国王陛下、以上のことが全会一致のようであります。如何なさいますか?」


 レイモンドが問い掛けるのだが、レイモンドはローファス王の答えはわかっているのだとばかりの顔を向ける。


(こやつ、何を言っておる? 何が狙いだ? いや、これ以上は何も出ん。我が家があいつを傀儡とすればより今後はより発展を望めるだろう)


 なぜその様な表情を見せるのか、マリオ・ブルスタン侯爵だけでなくエルナンデス・ロックフォード侯爵も疑問符を浮かべていた。


「どうやら話は決まったようだな。まさかこの場でもう一度掘り返されるとは思っていなかった。だが、これも必要な事柄。どうせ清算をするのであれば一度に越したことはない」


 玉座より立ち上がるローファス・スカーレット国王は腕を大きく振るう。


「では此度の褒賞を改めて伝えよう」


 そうして全体を見渡すローファスへと視線が集中していた。それらを確認する様にローファスは静かに口を開く。


「当初の予定通り! ヨハン・カトレアへは辺境伯の地位を授けるッ!」


 玉座の間へ響き渡る程の大きな声を発した。



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