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第六百九十 話 最後のひとつ

 

「マリンさん!? あなた達も無事だったのね! それにレイン達も」

「ええ、なんとかね。詳しい話を聞きたいところだけど、それより今はここを切り抜けることが先のようですわね」


 聞かなくとも事態が切迫しているのだということはマリンもその場を見てすぐに理解する。


「く、クリスっ!?」


 慌てる声を発すリオンは、クリスティーナが血を流しながら倒れている姿を見て走り出そうとした。


「お、おいやめろって!」

「そうよ。死にに行くようなものよ。ただでさえあなたは今戦える身体ではないのだから」


 それをレインとナナシーが急いで制止する。


「俺の身がどうなろうとも構わないッ! 離せッ!」

「んなことできるかっつの!」

「ああもう! 鍛冶場のバカ力ねぇ」

「クリスぅっ!」


 口調が乱れ、聖騎士としての立場も忘れているリオン。


「ふぅ。その様子だと、どうやらあなた達も相当大変だったみたいね」

「ええ。そうですの」


 カレンが視界に捉えるそれぞれの風貌。一目でわかる程にボロボロ。感じ取れる魔力もほとんどない。全員が全員大きく消耗していた。そのような状態であれば、誰であろうとも今あの激闘の中に飛び込んでも確実に足手まとい。


「でも、とにかく無事で良かったわ」

「そこはわたくしのレインの活躍のおかげで切り抜けられましたわ」

「え? わたくし、の?」


 慈しむような笑みをレインに向けるマリンの反応に首を傾げるカレン。


「ちょ!? 何言ってんだお前!?」

「あら? 違いましたか?」

「なんか微妙に違うんだよ!」

「そうでしたか?」

「そうだよ! 俺とお前だよ!」

「あら? そんなこと言ってもらえるだなんて、嬉しいですわ」


 ぎゅっと腕を絡めるマリン。


「ちょ! 離れろってのっ!」

「そうですとも。今の言葉をお聞きになった通り、わたくしとレインの活躍であの窮地を乗り越えられましたもの」

「ち、ちげぇっての!」

「違いますの?」

「違わないけど、ちげぇんだよ!」

「ああもうっ! こんな時になにしてるの二人とも!」


 結果、リオンの制止が効かなくなったナナシーは植物を操作してリオンを絡めとる。


「……知らない間に妙に仲良くなったのね、二人は」


 これまでのマリンとレインの関係性では考えられない距離感。むしろ隠す事のないマリンの熱烈な好意。一体この短時間の間に何があったのか。


「なにを遊んでんだお前らは」


 周囲を警戒しながら声を掛けるシン。


「あなたは!? どうしてここに!?」

「いやまぁ、成り行きで」


 ポリポリと恥ずかし気に頭をかいている。


「んなことよりも、早くここを出るんだろ?」


 コンコンと土の牢を叩くシンは強度の確認をする。


「これは俺でも斬るのは一筋縄じゃいかねぇ。内部の魔法式で解除できるならそれに越したことはねぇな」

「実はそのことなのです。その解除のための魔力が少し足りなさそうで」

「そっか。ローズでもいりゃあその辺はなんとかなったんだろうが、今はいねぇしな。それに俺も魔力量は少ねぇし。そもそも専門外だしよ」


 加えて駆け付けたマリン達も満身創痍。魔力の補填は明らかに無理。


「やっぱりそうですよね……」


 救援に来たというよりも、現状の確認に来たという方が適切。


「だから嬢ちゃんアレを取りに行ったのか?」

「え? アレって……?」


 迷惑そうにしているレインの横で笑みを浮かべるマリン。


「そうですわ。まさかいきなり必要になるとは思ってなかったですが」

「必要って何が?」


 疑問符を浮かべるカレンを余所に、マリンが懐から取り出したのは手のひらサイズの緑の宝石。


「コレを使えば先程の問題は解決されませんの?」

「これって……まさか」


 笑みを浮かべながら小さく首肯するマリン。


「あなた方が視た魔具ですわよね? このような非常事態ですもの。勝手に持ち出しても多少は大目に見てくれますわよ」

「……そうね。元々彼が使っていたものだしね」


 マリンより手渡されるなり、同じようにして笑みを返すカレン。確かにコレが想定通りの力を発揮すれば局面の打開を図れる。間違いなく。

 ただ、問題は使える状態なのかということなのだがそこは問題なかった。


(凄い)


 手渡されたのは緑の宝玉であり、それが何かということはカレンもここに至るまでに目にしている。

 当時は魔宝玉と呼ばれていた魔道具。神殿内の巨大石像――シグの石像の杖の先端に取り付けられていた物。


(これって、やっぱりそういうことなのね)


 手にするまではもしかしたら魔力が枯渇しているかもしれないという可能性が過っていたのだが、明らかに違っていた。巧妙に細工されているのだが、今ならば感じ取れる。宝玉自身に封印のようなモノが施されているだけであり、神経が研ぎ澄まされた今ならばそれはすぐに開放できる。


「ミモザさん!」

「こっちは大丈夫よ! 準備おっけー」


 軽く指で輪を作るミモザ。何をするつもりなのか知らないが、恐らくニーナとギガゴン――人化した巨大翼竜の力を使って何かを成すのだと。


「いきます!」


 迷う必要のない判断。

 即座に土の聖女ベラルが施した魔法式を壊すために目一杯の魔力を流し込んだ。



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