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第六百八十二話 合流

 

「じゃあギガゴン、あたしはお兄ちゃんたちと合流するね」


 水の塔最上階である清浄の間のその更に奥へと向かう事になっている。いくら人語を話すとはいえ、巨大な翼竜であるギガゴンを同行させることはできない。


「待て。ワレも一緒に行こウ」

「一緒にってどうやって?」

「無論、このようにしテ」


 大きく光を放つギガゴンの身体。その光が収まると同時に、崩壊した壁際に立っているのは頭部に二本の角を生やしている男。


「……あなた、人型になれたの?」


 一同が驚愕する中でのミモザの問い。


「他の仲間はなれないようだがナ」


 竜種の中でも稀に見られる、魔力を凝縮させて容貌を変化させる特異な存在。


「…………ベラル様はご存知でしたか?」

「い、いぃえぇ。これはさすがに驚きましたわぁ」

「ですよね」


 間違いなく現風の聖女であるイリーナ・デル・デオドールでさえも知り得ないだろうと。


「ワレも巣を破壊され、行き場を無くしておるのダ。しばらく一緒にいさせてもらおウ」

「やたっ! いいよね、お兄ちゃん!」

「う、うん。僕は別にいいけど」

「きーまり」


 満面の笑みを見せるニーナ。

 そうしてニーナとギガゴンに加え、土の聖女ベラルを伴い水の塔を抜けて四つの塔に囲まれるようにして立つ、光の塔へと向かっていった。



 ◆



「これ以上の深入りは危険ですわね」


 エレナ自身ミリア神殿のどの辺りを歩いているのかよくわからない。光の聖騎士であるリンガード・ハートフィリアの後を追っていたのだが、どうにも目的地があるように進んでいるとは思えなかった。


「やはりここは一度引き返した方が」

「あら? ここまで来てどこに行かれるのですか? エレナ王女」

「!?」


 不意に聞こえる声に振り返ると、そこには左右に異なる目を持つ女性、光の聖女であるアスラ・リリー・ライラックの姿があった。


「どうしてあなたがここに!?」

「それはこちらのセリフですよ、エレナ王女。ここで何をされているのですか? 大人しくして頂きませんと」

「っ!」


 素早く後方に飛び退く。


「少し、大人しくしてもらいませんと」


 背後から聞こえる声。振り返るよりも先に手を後ろ手に組まされた。


「は、放しなさい!」


 エレナを捕らえたのは、先程まで追っていた光の第一聖騎士リンガード・ハートフィリア。


「できかねますな。あなたは我ら聖騎士の内の一人を手にかけておりますので」

「なっ!?」


 その言葉だけで理解する。嵌められたのだと。


(誰かと接している様子は見られませんでしたわ)


 エレナが後を尾けるよりも前にリンガードに第四聖騎士を倒して部屋を抜け出したという報告が入ってあったのだとすれば話は別なのだが、ここまで真っ直ぐに降りて来ており、後を尾け始めた頃の時間を考えてもその可能性は低い。だとすれば初めからそれらが想定されていたのだと。


「どういうつもりですか?」

「あら。そんなに怒らなくともよろしいですのに。エレナ王女が探している人に会わせてあげようと思っていまして」

「……探している人?」


 そう言われてもピンとこない。誰かを探しているよりも、何が起きているのかを探っていた。


「ええ。しかしその前に。もう間もなくここに来られる方達を迎え入れませんと」


 一体誰のことなのかと考えたのだが、答えが出るよりも先に良く知る声が耳に飛び込んでくる。


「エレナっ!」

「ヨハンさん!?」


 近くにある階段を、ヨハンを先頭にして何人も見知った顔が駆け下りて来ていた。


「ようやく来られましたか」

「アスラ様っ! これはどういうことですか!?」


 大きく声を上げる水の聖女クリスティーナ・フォン・ブラウン。

 目の前ではアスラの聖騎士がエレナを捕らえている。


「何も不思議なことはありませんよ。大人しくしているように通達しているエレナ王女が部屋を抜け出してこんなところにいたので」


 その言葉自体には確かに齟齬はない。しかし抱く疑問は他にあった。


「……アスラ様の部隊は街の鎮静化に向かっていないのですか?」


 クリスティーナの問いに首を傾げるアスラ。


「あなたの言いたいことはよくわかっていますよクリスティーナ。ですが心配ありません。ほどなくして街は落ち着きを取り戻すでしょう」

「それは、どういう?」

「ここで話していても仕方ありません。全てを確認しにいきましょうか。もちろん他の皆さんもご一緒に。リンガード」

「はっ!」


 アスラの指示でエレナを開放するリンガード。そのエレナをヨハンが抱きとめる。


「大丈夫、エレナ?」

「え、ええ。それよりヨハンさん。何が起きていますの?」

「僕にも詳しい事はわからないけど、モニカが捕まったみたいなんだ」

「モニカがっ!? それは本当なのですのヨハンさん!?」

「……うん。まだ正確には確認できていないけど、たぶん本当だと思う」

「どう、して……」


 悲壮感を漂わせる表情を浮かべるエレナ。モニカが捕らえられるとすれば思い当たることはただ一つ。


「まさか!?」


 声を上げるエレナに、ヨハンが小さく頷いた。


「それに、あの追想の時の魔族、魔族の将軍だったクリオリス・バースモールがいたんだ。色々あって倒してはきたけど」

「なにが、どうなっていますの」


 極度の混乱を来すエレナ。まるで理解が追い付かない。


「さぁ。参りましょうか、皆さん」


 そのエレナの表情を捉え、聖騎士リンガードと並び立つ光の聖女アスラ。

 エレナの動揺を意にも介さず招き入れるようにして聖騎士を伴い歩き始める。


「どうするのお兄ちゃん?」

「罠かもしれないわねヨハンくん」


 ニーナとミモザに小さく問い掛けられるのだが、選択肢は一つしかない。


「もちろんモニカを助けにいくよ。ごめんエレナ、ここまでの詳しい話は歩きながら教えるから」

「……わかりましたわ」


 エレナと合流を果たし、そのままアスラに連れられてミリア神殿の最奥へと向かっていった。



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