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第六十四話 閑話 スフィンクスの集い

 

 シグラム王国から遠く離れた辺境の地。

 ――――時は遡ること数か月前。



「ったく、とんでもねぇな」


 ブツブツと独語を言っているアトム。

 かつて大陸最強冒険者パーティーと云われたアトムにエリザとガルドフ達スフィンクス。


 ここ近年、天候が変わることが多い山があるという噂話を聞き、近隣の村や町の住人が噂しているという山を登っていた。

 一同はシルビアというかつての仲間がそこにいるのではないかと推測し、その山を登っている。

 岩肌が剥き出しのおよそ人が登頂しえないような標高の高い気高いその山を。


 アトムが度々文句を言う中、ガルドフ達は困難を要することもなく登頂する。

 そこはいくらかの平地が広がっていて、その山頂の中に小さな小屋を見つけた。


「ふぅ、ようやくだな。もういよいよ確実だ。こんなところに小屋を建てるのは姐さんぐらいだろ」

「そうね、それにしてもこんなところで何をしているのでしょう?」

「あやつのする行いは常人には計り知れんよ」


 ゆっくりと歩きだし、小屋に向かおうとすると小屋の扉の方が先に開く。

 扉から出てきたのは長い金髪を背に垂らした妖艶な気配を醸し出す背の高い女性だった。


 その女性はアトムたちの姿を見るなりその表情を険しくする。

 手には装飾を施した杖を持っており、その杖を空に掲げた。


「逃げるぞい、エリザ」

「――えっ!?」


 ガルドフは慌ててエリザを脇に抱える。


「おい!ちょ、まっ―――」


 女性が杖を掲げてすぐに空に濁った雲が集まっていった。

 ゴロゴロと音を立て、途端に鋭い雷鳴が鳴り響く。


 突然複数の雷がアトムたちの居た辺り一帯に凄まじい勢いで降り注いだ。


 エリザを脇に抱えたガルドフは脇に抱え、その場から一歩で遠くに飛び退き岩の下に入り込む。


「ふぅ、あやつは相変わらずよの」

「あーびっくりしたぁ。ありがとガルドフ」


「――ちょ――このっ!――ぐっ――はっ!――――」


 アトムは降り注ぐ雷をギリギリのところで躱し続け、何度も転げながら回避していた。


 次第に雷は勢いを弱めて、空を覆っていた曇天も散っていき日差しが差しこむ。


「……はぁ……はぁ……はぁ…………」

「ふむ、なるほど」


 息を切らせるアトムの様子をジッと眺める金髪の女性。


「こ、殺す気かぁぁぁーっ!何考えてやがんだ!!」


 アトムが大声で女性に怒声を浴びせる。


「何も考えておらんだろう」

「……ですね」


 ガルドフとエリザはその女性の行動を当然と受け入れていた。

 女性はアトムたちが雷を回避したのを確認してゆっくりと口を開く。


「ふむ、やはりお主たちで間違いはないようじゃな。久しぶりに見た顔ばかりだと思えば一体何をしに来たのじゃ?」

「おい、それが最初に言う言葉かよシルビア姐さん!」

「ああ、あの程度が躱せなくなっているようだったら死んでもらって構わん」


 シルビアは堂々と言い放った。


「こ、この変態サディストが――――」


 アトムはここに至る道までのことを思い返す。


「(ここに来るまでにガルドフに再度鍛え直してもらってなきゃ何発か喰らっていただろうな)」


 それでも数発喰らっただけでは死ぬことはないと判断した。

 が、わざわざ喰らいたくもない。


「おや、何か言ったかの?アトムの坊や?」


 ツカツカとアトムに近付くシルビア。


「いえ何でもないっす。それより、姐さんちょっと話をいいですか?」

「話とな?」


「どうやら変わっておらぬようだの。お互い健勝でなによりだ」


 ガルドフもシルビアとアトムに歩み寄り声を掛けるとシルビアは尚も不思議そうに首を傾げた。

 シルビアの様子を見ていたガルドフはシルビアが変わっていないことに安心と心配の二つを同時に抱く。


「どういうことじゃ?」

「まぁとにかく腰を据えて落ち着いて話そうではないか」

「よくわからんが何やら深刻そうじゃの。まぁよい、入れ」


 シルビアが家に招き入れ、エリザはそのやりとりを嬉しそうにニコニコと眺めていた。


「久しぶりね、やっぱり良い雰囲気だわ」


 そのままアトム達に続いて家の中に入る。



 シルビアの家の中に入り、無造作に置かれた机に着く。

 小屋の中は殺風景だが、そこかしこに見知らぬ魔道具のような物が置かれており、杖が何本も立て掛けられていた。


「それで、話とは一体何じゃ?これだけ勢揃いしおってからに。わざわざ来たのじゃ、普通の話ではないのは想像が付く」

「その話については儂から話そう。それがじゃな――――」


 ―――そこでガルドフからシルビアに訪れた理由を話した。


 話を聞きながらシルビアは微妙に口角を上げ始める。


「――ふふっ、はーっはっはっは!なるほどなるほど!ローファスのやつめ、中々面白いことになっておるではないか」

「おいおい、姐さん、これが本当なら笑い話じゃないんだって!」

「いやいや、これが笑わずにいられるか。魔王の呪いなどというものが実在していたというのだからの」

「シルビアさんは呪いのことを知っているのですか?」

「……噂程度じゃ。昔に師が言っておった伝説級の話じゃの」


 エリザの問いかけにシルビアは師のことを言う時に苦々しい顔を浮かべた。

 しかし、すぐに表情を綻ばせる。


「まぁその辺は今はいい。ふふっ、面白い。非常に興味深い」


 小さく呟く。

 そこで思い出したかのようにアトムとエリザの二人を見る。


「そういえば時にアトムの坊やにエリザよ、主等の子供、なんといったかの?ああ確かヨハンといったか?」

「ええ、ヨハンがどうかしたのですか?」

「そやつは今どうしておる??主等がここにおるということはもう手元を離れたのか?」

「ええ。ヨハンは今シグラム王都の冒険者学校に通わせています。もうすぐ二学年になる時期ですね」

「そうかそうか、もうそれほどの年月が過ぎたか…………となると一度は会ってみたいの」

「ええ、自慢の息子なので。是非シグラム王都に来られた際にはご紹介致しますわ」


 エリザは満面の笑みをシルビアに向けた。


 それからシルビアはエリザからヨハンの幼少期の自慢話をいくらか聞かされる。

 シルビアのその目はとても穏やかなもので、エリザのことをまるで我が子を見るような目で見ていた。


「――まぁ、姉さんも『変わっていない』様子で安心しました」

「何じゃアトムの坊や、それはどういうつもりで言っておる?」

「いえ、あれから十数年、変わらず綺麗なままっす、ってことっすね」

「そうか、アトムの坊やよ、お菓子でもお食べ、そこにあるやつを自由に食べて良いぞ。紅茶も淹れてやろう」


 シルビアは笑顔で立ち上がり、菓子と紅茶を取りに行く。


「(ほんと何から何まで変わってねぇよ!時の秘術ってすげぇなやっぱ)」


 アトムは勧められたお菓子を食べながら心の中で嘆息していた。


 シルビアが菓子と茶を入れて持って来たところにガルドフが溜め息を吐きながら口を開く。


「ではシルビアよ、一緒に来てもらえるよの?これからまだ行かなければならんところがあるのでな。あまりのんびりもしておれんのじゃ」

「ああ、もちろんじゃ。すぐに支度をする。ちょっと待っておれ。こんな面白い話を持って来てもらったからには行かぬわけにはいくまい」

「では積もる話も道々話しながら行こうか」


 こうしてガルドフ達大陸最強冒険者パーティー、スフィンクスはかつての仲間シルビアと合流を果たしたのであった。


 そして次の目的地に向かうためにシルビアの準備が整い次第山を下りる。


 シルビアが山を離れた後、この気高い山の頂上付近で度々見られた天候不順は以降パッタリと見られなくなったと付近の町や村で噂されていたのであった。



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