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第六百四十七話 加勢の先は

 

「アリエルさん?」


 サナが振り返った先。そこには目を真っ赤にさせた第二聖騎士のネオン・ローレライと第三聖騎士のガウ・バードリー。アリエルに対して攻撃を加えて吹き飛ばしている。


「まさか彼らも!?」


 どうやってなのかはわからなくとも、アリエルを吹き飛ばせるだけの攻撃が生み出せたのだと。先程まではその兆候の一切が見られなかった。しかし、状況を見るにどうにも変調を来しているバニシュに同調しているように見える。


「があああああああッ!」

「うがあぁぁぁぁぁぁッ!」


 猛獣と化したかのような二人の叫び声。


「ひっ!」


 余りにも突然の変異。まるで何かに取り憑かれたかのような様子の変化。自分達へ攻撃対象を変えて迫りくる二人に対してサナは僅かに怯んでしまった。


精霊衝(エレメントショック)


 サナの前に立ち塞がるカレンが伸ばす手の平。眼前に光の膜が展開され、バチッと音を立てるとガウとネオンは後方に弾け飛ぶ。


「あ、ありがとうございます」

「こんな時に気を抜いてはだめよ!」

「は、はい!」


 カレンの声の調子により、すぐさま気を引き締め直すサナ。


(それにしても、この様子からして、恐らくあっちの影響を受けてるみたいね)


 肩越しにチラリと見えるバニシュの姿。まるで憎しみの炎を燃やすかのように、その身にゆらめく炎を纏っていた。


「っつぅ。今のは効いた」


 ガラっと瓦礫をどかしながら立ち上がるアリエル。


「大丈夫ですか?」

「ああ。心配は無用だ。しかし気を付けることだ。見ての通り、どうやら身体能力が桁違いに上がっている」

「……はい」

「とはいっても、気を付けろとは私が言えたことではないがな。いかんいかん、私も鈍ったものだ。あの程度の攻撃をいなせないとは」


 手足の確認をして、ぐっぱっと手の平を握り直す。


「良かった、大丈夫みたい。カレン先生、どうしますか? 分かれて二人の加勢に入りますか?」

「…………」


 サナの提案に対して僅かに思案するカレン。果たしてその選択が最適なのか。


(魔族化の影響が強いわね)


 それまではアリエル一人で聖騎士二人を圧倒していた。しかしそれも状況の変化によって確実ではなくなってしまっている。

 となればサナの提案の通りにするべきなのか。


(いえ……――)


 だがその判断を即座に否定した。


「――……二人でテトさんの加勢に回るわ」

「えっ!? でも」

「アリエルさん。しばらく持ち堪えてもらえますか? あの人を倒して来ます」


 声を掛けるアリエルは僅かに目を丸くさせる。


「なるほど。そういうことか。構わんさ。こちらへの心配は不要だ。むしろ私もこの二人を倒してすぐにそちらへ向かおう」

「そんな強がりはいいですよ。今は時間さえ稼いでもらえれば」


 振り返りながらサナの背を押すカレン。


「さ、いきましょ」

「か、カレン先生?」

「いいから。あっちはアリエルさんに任せましょう。あの人なら大丈夫よ。それよりも、あの火の聖女を倒せば彼らももしかしたら正気に戻るかもしれないの」

「……カレン先生はそう考えているんですね」


 魔族化したバニシュの影響。ガウとネオンもまた同様に力を増幅させているのだと。その可能性は大いにある。神の代行者である聖女に崇拝する聖騎士という関係性。その強い繋がりがあるが故に干渉しているのだと。

 結果、そうであれば現状を打破するためにはテトに加勢をしてバニシュを倒すことが先決。


「やるわよっ!」

「はいっ!」


 二人して駆け出す。視線の先には杖を向けられ、防御姿勢に入っているテト。


「神の怒りを思い知れッ!」

「くっ!」


 杖の先端から巨大な炎の塊を射出するバニシュ。


不可視の魔弾(インビジブルバレット)

「水連華」


 テトの後方から大きく声を発すカレンとサナ。追い越すようにして水の華がいくつも咲き誇り、バニシュが放った炎に着弾する。


「ふっ。その程度、燃やし尽くして――」


 水魔法の最高峰であるテトでさえも凌駕する獄炎。見知らぬ少女の魔法など容易く消滅させられるものだと思っていたのだが、水の華は炎に着弾するなり弾けるようにして、周囲を覆い尽くす程の氷の華となった。


「――なにっ!?」


 結果、炎はまるで氷像かの如く凍り付く。


「おおっ。これは見事だ」


 思わず感嘆の息を漏らすテト。それが二人の魔法によって行われたことだと。


「大丈夫ですか?」

「わたし達が加勢するわ」


 テトの横に並ぶサナとカレン。


「すまんな。まさかこれだけの炎の使い手とは思ってもなかったわ」


 テトの知る歴代のどの火の聖女のよりも巨大な力。


「でも三人で戦えば一人ぐらい」

「アレを忘れてはダメよ」


 アレ――カレンの視線の先には、口腔内に炎を凝縮させ、準備万端とばかりに今にも吐き出そうとしている火の蜥蜴。サラマンダー。


「術者を倒せばそれで終いじゃが、邪魔をされるとそれはそれで厄介じゃ。先にアイツを倒そう」

「ええ。それもそうね」

「きますっ!」


 サラマンダーより吐き出される炎弾に対して、三人で腕を前方に伸ばす。三重の魔法障壁の展開。

 強度で云えば誰よりも強いカレンの魔法障壁が後方で支え、前面をテトとサナによる水属性を付与させた障壁。その三重。相性補完も十分。

 サラマンダーの炎は着弾と同時に大きく爆発音を伴うのだが防御はできていた。ダメージはない。


「いくぞっ!」


 テトの声に同調するかのように、爆発によって生じた煙の中を左右に動くカレンとサナ。



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