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第六百三十五話 提案

 

「――……仕方あるまい。地下水路へはわたしが向かおう」

「よろしいので?」

「ああ。地下は元々水の聖女の管轄であったことも狙いの内の一つだろう。魔素が充満しやすいのだからね」


 地上の水路の美しさとは別。見えない地下水路は排水路。魔素の充満しやすさは勿論であり想定内。これまで浄化を行ってきていたのは水の聖女、引いてはその部隊の役割。


「そこに、ここでクリスが地下に行けば火に油。向こうにクリスの関連の口実を与えることになる」

「しかしそれはテト様も同じでは?」

「引退した身であるわたしであればいくらかはマシだろう。とはいうが、無論何人かは連れて行く」

「かしこまりました」


 テトの提案にすぐさま頭を下げるアマンダ。


「ヨハンくん」


 振り返り、鋭い眼差しをヨハンへと向けるテト。


「はい」

「そういうわけだ。すまないが、クリスと一緒に水の塔へと行ってやってくれ」

「…………はい」

「不要な心配じゃな。お主等は自分達のことだけ考えておればいい。それに現状魔族に関してはお主等の方が間違いなく詳しいじゃろう。適材適所というところじゃな」

「…………」


 しかしそうは言われても悩んでしまっていた。何かできることはないかと。


「ヨハンくん。私、テト様と一緒にいこっか?」

「え?」


 ふと耳に入って来るその声はサナのもの。


「サナ?」

「だって、他の人達は街の方に手を付けないといけないんでしょ? ただでさえ人手が足りないのにこれ以上減ったら大変だもの」


 地下水路への対応も早急にしなければならない。地下を優先すれば地上の人手はかなり不足する。


「それに、地下水路だったら……さ、ほら私って」

「あっ」


 軽く腕を持ち上げるサナ。小さく音を鳴らすその腕にはウンディーネの力を宿したブレスレット。

 適材適所。つまり、そこはサナがもっとも力を発揮できる場所に他ならない。


「ありがとうサナ。じゃあ、お願いするよ」

「うん、任せて」

「絶対に無茶はしないでね」

「もちろんだよ。怖くなったら逃げるもの」


 満面の笑みを浮かべるサナ。逃げるとはっきり口にできることがまたサナの成長の証。信じていないわけでもなく、これほどまでに頼りがいがあるサナが正直心強い。

 それでも――――。


「カレンさん」

「ええ。かまわないわ」

「まだ何も言っていませんよ?」


 顔を見ると明らかに呆れられている。


「何を言おうとするのかぐらいわかるわよ。あなたのことなら」


 大きく溜め息を吐くカレン。


「そっか。ありがとうございます。じゃあよろしくお願いします」

「どういうこと? ヨハンくん? カレン先生?」


 二人の抽象的なやり取りを理解できないサナは顔をきょろきょろと見回す。


「ヨハンはね、あなたが心配だからわたしも一緒に行って欲しいって言ってるのよ」

「えっ!? でもそんな」

「ごめんサナ。確かにサナは強くなったし、信じてもいるけど、何があるのかわからないから。そんなところにサナを一人で行かせるわけにはいかないから。念のために、ね」

「そ、それは嬉しいけど、でも……」


 神殿の中枢部へと向かう人数を減らしてもいいものなのだろうかといった疑問が浮かぶ。


「ならばこういうのはどうだ?」

「アリエルさん?」


 そこで前に出て口を開くのはアリエル。これまでは黙って一連のやりとりを聞いていた。


「私も一緒に行こう」

「えっと……でも、それだと尚更悪いのじゃ?」


 おずおずと問い掛けるサナ。聞けばミモザと二人、元S級冒険者なのだと。それほどまで頼りになる人物であるのならば、余計に来てもらうわけにはいかない。


「いや、そうでもないさ。私が調べた限りだと、地下水路は神殿へも繋がっているはずだ」

「あっ。なるほど」


 ポンと手を叩くミモザもアリエルの提案を理解する。


「そういうことね。頭良いじゃないアリエル」

「えっと、つまりそれって」

「あなた達はあなた達で、別ルートで神殿に向かうってことね?」

「その通りだ」

「そういうことですか。でもいいんですか?」

「良いも何も、むしろ総合的に考えれば危ないのはそっちの方じゃないのか?」


 ピッと逆手で指を一本出すアリエル。

 現状、恐らく神殿内部には魔族が潜んでいるはず。むしろ間違いないと言っていい程。そうなればどちらがより危険なのかという比較。


「そもそも、帝都のギルマスとしてはカレン様の安全には配慮しなければならないしね。それになにより、より安全な方を私が選んだと考えれば良い。危険な方にはミモザを送るのだしね」

「ちょっとアリエルぅ? 今のは聞き捨てならないわねぇ」

「冗談だ」

「違うでしょ? 本気で言ってるでしょ?」

「勿論だとも」

「あんたねぇ!」

「あはは。相変わらずですね二人とも」


 これほど緊迫した状況であるにも関わらず、普段通りの軽快なやり取りを交わすアリエルとミモザ。二人の実力の高さはヨハン自身がこの場に居る中では一番良く知っている。頼りにならないはずがない。


「ではそういうことでかまわないかい?」

「はい。二人のこと、お願いします」

「ああ。任せたまえ」


 余裕の笑みを浮かべるアリエル。


「結局わたしも心配される方になっちゃった」

「頑張りましょうねカレン先生」


 苦笑いするカレンに笑みを向けるサナ。


「よろしくお願いします。事態は急を要します」


 ここまでの展開が明らかに早い。後手後手に回っていると言ってもいい。


「ヨハン様、ミモザ様、サイバル様、よろしくお願いします」


 出発直前で不意に生じた変更。


「決まったようだね」


 ヨハン達の前へ出るアマンダ。向き直る先は酒場の従業員。今も当時も部下である仲間へ。


「さーて野郎ども。アタイらの恐ろしさ、忘れてるやつらの記憶にはっきりと刻んでやろうじゃねぇかぃっ!」

「「「おおおっ!」」」


 アマンダを先頭して勢いよく地上へと駆けて行く。



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