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第六十二話 理由

 

「(――どうしよう、王女様なんて勝てるかな?)」


 サナは集まった一同、特にエレナを見て頭を悩ませる。



 試験を終え、集められたのは校長室。

 未だ帰らぬガルドフの校長室。


 まだあれ以来ガルドフと会っていない。


 校長室には他にもシェバンニはもちろんS級冒険者『ペガサス』のメンバーであるローズとシンもいた。


「いやぁ、ここも懐かしいなぁ」

「そうね、もう何年振りかしら?」

「ああ――――」


 パチンと鋭い音が響く。


「――ってぇな!」

「言わなくていいわよ!このバカ!」

「テメェが最初に言ったんだろ!?」

「定番の感想を口にしただけじゃない!」


 口論を始めるシンとローズ。


「(えっと、これ私達どうしたらいいんだろう……?)」


 ユーリとサナはどうしたらいいかわからずに戸惑っていた。

 アキとケントはあまりにも想像以上の話で、内容に全く付いていけなさ過ぎたのでその場に集まるのを辞退している。


 シンは黒い鎧を脱ぎ、茶色を基調とした軽装に着替えており、ローズはローブ姿のまま。


「それよりも、本当に申し訳ありませんでしたエレナ王女。まさかご学友に内密にしていたとは露知らず」

「それはもうかまいませんわ。幸いそれを知ったのはユーリのグループだけでしたので。彼らが外に漏らすことはないでしょう」

「いや、そんなこと言っても俺たちの衝撃は想像以上に凄かったけどな」

「(だろうな。わかるぜその気持ち)」


 レインは内心で深く頷いていた。


 ローズが地下四階の小部屋でエレナに跪き「王女」と呼ぶので自体の収拾がややこしくなってしまった。

 そのため、まずキズナとユーリのグループは一度地上に戻り、エレナの素性を伝えてから再度集まっている。



「それで、何故そのS級冒険者の方々がわたくし達の試験に参加されていたのでしょうか?」


 エレナが眉をひそめてシェバンニに問い掛けた。


「それは彼等からお願いされたのです。あなた達に会いたいと」

「えっ!?僕たちに?」


 ヨハン達をジッと見て難しい顔をするのだが、一体どういうことなのだろうか。ヨハンはシンにもローズにも会ったことなどない。

 そこで一番可能性がありそうなエレナを見ると目が合い、困った顔をされる。

 モニカもレインも首を振り、覚えがない様子だった。


「えっと、先生?」

「まぁ慌てないでください。順を追って話します」

「はい」


 シェバンニの言葉を待つ。


「とにかく、どうやって合わせようかと考えたのです。試験が終わってからか、試験前にするか。それに、あなた達の試験内容をどうするかに悩んでいましたし……あなた達は学生としては抜けた実力ですからね。それで丁度良かったと思いついたのが今回の試験に参加してもらうということでした」


 確かにシン達がいなければ試験とはいえ、物足りなさは感じていた。


「ですが、そこの判断の甘さは私のせいですね。まさかこの馬鹿が暴走などするから」


 シェバンニはそこで深い溜息を吐く。

 横に居るシンは一切悪びれた様子を見せていない。


「(ちっ、この婆さんやっぱりいらんこと考えてやがったな。一学年の試験にS級冒険者を当ててくるとか頭おかしいだろ?)」


 レインは複雑な感情を抱くのだが、この場では声に発せずグッと飲み込む。


「まぁガルドフの言う通りで納得したけどな」


 笑顔のシンからガルドフの名が飛び出した。


「えっ!?ガルドフ校長!?ガルドフ校長に会ったんですか!?」

「ええ、依頼先で偶然ガルドフに会ったのよ。それで一度王都に帰ることを話したら、あなた達に伝えて欲しいことがあるって」

「僕たちに伝えたいこと?」


 聞きたいことは多くある。

 ガルドフが今どこにいるのか、何をしているのか、どうして自分達に伝言があるのか。

 ローズの顔を見ると笑顔を向けられる。


「それに、私たちにもあなた達とは一度会っておけ、とも言っていたわ」

「ああ、まさか俺が本気にさせられたからなー。いやー、実際面白かったぜ!」

「(俺は死にかけたけどな!)」


 シンは軽く言うがレインは少し前に聞いたことを忘れられない。一つ間違えれば死んでいたのだから。思い出すだけで恐怖が甦ってくる。


「それで、校長先生は何を?」

「ああ、そうだった。それが本題だったな。それはだな『すまない、当分帰れそうにない。お前たちはこれからも色々知っていくだろうが、気にせず今は学生生活を満喫せよ』だってさ」

「それだけ……ですか?」


 シンによって伝えられたガルドフの言葉はとても簡素だった。


「ん?ああそうだ。他になんか言ってたか?」

「いや、それだけだが?」

「だよな?」


 たったこれだけでは意味がわからない。

 どうしようかと思ったのだが、横にいたモニカが小さく笑った。


「なんだか校長先生らしいわね」

「えっ?」

「だって、いつも唐突で言葉短めじゃない?」

「えっと……まぁ」

「そうですわね、まぁあまり深く考えずにわたくし達は言われた通り学生生活を過ごしていきましょうよ」


 エレナもモニカの言葉に同意する。


「そうだね、うん」


 落胆してしまったが、すぐに前を向いた。


「シンさん、ローズさん、ありがとうございました」

「いやいや、俺の方も楽しかったし礼を言うぜ」

「あんたはお礼より謝罪よ!試験をぶち壊しときながらなに言ってんのよ!」

「いや、だってよぉ――――」


 詰まる所、ガルドフからの短い伝言があった。

 今回の話はただそれだけの話だったのだ。

 それが巡り巡って話が大きくなりここまでになってしまったのだ。



「あ、あのー…………」


 その場にいた全員が声の主を見る。

 一斉に視線が集まったことでその声の主は「ひっ」と息を呑んだ。


 声の主はサナだった。



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