第五十五話 試験開始
ヨハン達冒険者学校の一学年は学校の地下ダンジョンへ続く入り口に集まっていた。
普段地下の入り口は結界で封じられており、シェバンニ教頭が呪文を唱えてその封印を解く。
その入り口は右・中・左の全部で三つあった。
学生達はそれぞれの入り口に分かれて待機している。
「さて、準備はよろしいですか?先程引いて頂いたクジの順番通りに中に入って、次の班はしばらく時間を空けた後に入ってもらいます」
シェバンニが全体に向かって話した。
クジの結果、ヨハン達は最後に入ることになっている。
徐々に他の学生がダンジョンに入っていくなか、最後のヨハン達の番が来た。
他の入り口に視線を向けると、他の入り口はゴンザをリーダーとしたグループとユーリをリーダーとしたグループ。
ゴンザと目が合うと、ゴンザはヨハン達を一瞥して入っていくので、疑問符を浮かべて小首を傾げる。
「(ん?僕、何かしたかな?)」
「あいつ、相変わらず態度悪いよな」
「まぁ仕方ありませんわ。ここ最近わたくし達を目の敵にしているようですしね」
「そんなの放っておきましょ」
「まぁ…………うん」
エレナ達がゴンザを相手にしていないので、多少気にはなったのだが自分達のことに集中することにした。
そこでユーリと目が合うとユーリは親指を立てていて、サナはヨハンに小さく手を振り中に入って行く。
「さて、じゃあ僕たちも行こうか!」
一声かけるとレイン達の顔が引き締まった。
一体中でどんな試験が待っているのか、期待と不安を抱いて中に入る。
――――階段をしばらく下っていくと地上の光は入ってこない。
土の壁と天井に遮られたその空間は静寂な暗闇が広がっていた。
それぞれ魔道具のランタンに火を灯すのだが、十数メートル先まではランタンの灯りが照らしても、それでも明かりとして十分ではない。
「結構暗いもんなんだな」
「そうね、試験の目的の一つはこの暗さの中で奥まで進むことができるかどうかっていうのはあると思うの。授業でこういうケースを想定したのがあったでしょ?」
「ええ、ですがあの時はほんの短い時間でしたものね。今回は実際にダンジョンに潜っています。下手をすれば死ぬ可能性だってありますわ」
物騒な物言いだが、例え学校の授業であっても演習中に事故に遭遇することは起こり得る。
だから常に想定外の事を想定できるようにしておけとは何度も何度も何度も言われ続けてきた言葉。
しばらくダンジョン内を歩き続けて先を進む。暗闇の中の歩きにくさ以外は特に目立った困難に遭遇していない。
そんな中、分かれ道が何度か見られたので分かれ道の度に印を付けていく。
先に通ったグループだろうか、印を付けられた跡が他にも見られたので他とは違う印を付けた。
「さて、そろそろ魔物が現れてもいい頃ですわね」
「ああ、魔素計を見る限りここは魔素が充満しているからな」
レインがチラッと手に持つ魔素計に視線を向けた瞬間にモニカはバッと身構える。
「――待って、何か来るわ!」
前方から微かに足音が聞こえて来た。
先に入ったグループが行き止まりにでも遭って引き返してきたのだろうかと考えるが、全員がすぐに違うということを理解する。
足音はドタドタと響いてきた。
それぞれが声を掛け合うこともなく既に抜剣して構えている。
「キシャアアアア」
「ガアァァァア」
奇声を発しながらそれは目前に迫って来た。
人の形を成したその手にはナイフを持っている。
「ゴブリンか。いいよ、俺が行く」
授業だけでなくこれまで何度も対峙していた。
子供の背丈ほどの体躯なのだが、凶暴性を有している。人型で青色の体皮をしていて、その知能は低い。魔物の中でも討伐ランクは下位に属した。
そのゴブリンは、明らかに常軌を逸した気配で襲い掛かって来る。
それが二匹。
歩きながらゴブリンに近付くレインは両手に短刀を逆手に持つ。
ゴブリン二匹は一人前に歩いてきたレインに狙いを定め、手に持ったナイフを同時に振りかぶった。
しかし、勢いよく走ってきた二匹のゴブリンのナイフは空を切る。
タンっと地面を踏み抜き、レインはゴブリンの間を一足飛びで通り過ぎた。
ゴブリンの背後にレインが立って振り返る。
レインが振り返ると同時に二匹のゴブリンはピシャアアとその首から音を立てて血を吹き出し、バタンと前のめりに倒れて果てた。
レインは両手に持った二本の短刀でそのゴブリンの首を切り裂いていたのであった。
軽々とゴブリンを退治する様を見てモニカはヒューと口笛を吹く。
微塵も動揺しないのは、全員がレインの実力とゴブリンの程度を把握していたから。
「ったく、やっと魔物が出て来たかと思えばゴブリンかよ。まぁこれなら他のグループも苦戦することはないな」
「ゴブリンだけ、ならね」
軽口を叩くレインの横でモニカが気を引き締めさせる。
そこからもしばらく歩き続けるが一向に階下に続く階段が見つからない。
何度かゴブリンに遭遇することはあったが、先程と同じように特に手を焼くことなく先を進む。
「これどこまで続いているんだろうね」
「さぁ?」
「こういう見通しがつかないのは精神を想定以上に擦り減らしますからね」
「たしかに終わりが見えないとキツイものね」
現状における自分達の状態を確認しても、まだ余裕は持てた。




