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第五百四十九話 時見の水晶

 

「つまり、時見の水晶(その魔道具)を使えば魔王の呪いが何かわかるということですわね?」


 周囲から向けられる僅かの含みを持つ視線を意にも介さず、エレナは平静を装い気丈に振る舞った。


「いや、あくまでもわかるかもしれないということだ」

「それは――」

「まぁ聞け。ここに至るまでの経緯だが、俺が最初にガルドフに依頼を出したのが今回こうして集まることになった始まりだ。そのきっかけはもちろん世界樹の輝きが落ちているのが確認されたからだということはお前達も見て来たとおりだ」


 ローファス王は事の成り行きを事細かにヨハン達に話して聞かせる。

 これまで代々受け継がれてきたその話は何百年も年月を重ねることで風化してしまったその話。現代に置いては伝承程度。王家の血筋であってもほとんど信じられてさえいない。

 しかし事実世界樹の輝きが落ち始めていることは見過ごせない。


「そのため、スフィンクスに極秘裏に依頼を出しておいた」


 その手掛かりとして、当時――その時代を生きていたであろう古代竜、人語を話せる漆黒竜グランケイオスに話を聞きに行った。


(そう、なんだ……)


 話の内容がまるで雲の上の話、伝記に聞こえる。レインはあんぐりと口を開けていた。


「で、俺も後で知ったんだが、お前が倒した飛竜、あれこいつらのせいだったらしい」

「え? それって……」

「それは今は関係ないだろ?」

「直接はなくとも間接的にはあるだろう?」

「ん、まぁ、な」


 軽く会話しているラウルとアトムの言葉に対する理解がまるで追い付かない。

 結局詳細は話されなかったが、その結果によって大賢者の存在を知ったのだと。大賢者パバールの持つ持ち物によってそれを知る可能性が示される。


「それが……――」


 先程提示された魔道具。それとその効力を上げるための宝珠。


(――……だったら、もしかしたらあれがあればもっと助かるのかな?)


 そうしてヨハンは卓上に置かれた赤と青の宝玉を見る。鞄に入っている黄の宝珠と酷似している。


「つまり、スフィンクスはそれらを揃えに行っていたと。その時見の水晶というので魔王の呪いがわかるかもしれないということですよね?」

「ああそうじゃ。お主たちには儂の不在で苦労を掛けたと思うがその辺りはシェバンニが上手くやったことだろう。少し気掛かりな事案は起きたようだがな」


 ガルドフにジッと見られるのは魔族とゴンザのことだろうということはわかった。


「でもどうしてそれでわかるのですか?」


 しかし今はその問題は横に置く。魔族が関与していることで魔王とも無関係ではないのだが今は関係ない。


「この時見の水晶は私の師、当時の賢者が作った物でな」


 パバールが周囲を見回しながら口を開いた。


「魔力を流すとその者が探している物を見つけることができるという物なのじゃ。それは例えその者が忘れている事、思い出せないことであっても記憶の奥底にある見たこと聞いたこと知ったこと経験したことのあることを掘り起こして思い起こさせることが可能なのじゃ。ただし、それがわかるのは水晶を使用した本人のみじゃがな」

「なるほど。確かにそれは素晴らしい魔道具ですわ。ですが、それはその人、個人が経験したことに限られるわけですわよね? どうしてそんな大昔のことまでわかるのでしょうか?」

「ああ。いくらなんでも千年前から生きてる人間なんているわけないじゃないすか」

「何を言っておるレイン。ここにおるだろう」


 憎々し気に隣を見るシルビア。


「え? じゃ、じゃあパバール、さま、が?」

「うむ。それなりに歳を重ねておる」

「ババアじゃババア」


 ボソッと呟くシルビアを睨みつけるパバール。

 確かに年齢を感じさせる容姿をしているのだが、まるで想像以上のその事実に対して驚愕せずにはいられなかった。


「じゃあパバール様が時見の水晶を使うんですか?」


 ヨハンの問いかけに小さく首を振るパバール。


「いや、違うな。確かに私が使えば記憶のもう遠い向こう側にある当時の記憶を思い起こすことはできるであろうが、私自身は呪いを受けておらんのでどうせ詳細はわからずに終えるだろう。それだと何も変わらない。まぁ無論、私が記憶していない深層意識に何かが刻まれておれば別だがその可能性も低い」

「じゃあ、誰が?」

「さて、当然そういう話へと問題は帰結することになる。しかしここにはそれに最も適した人物がいるだろう?」

「それって……」

「私もこれは知らなんだが、どうやらグランケイオス曰く、先の話に出たその宝珠とやらがあれば、血を遡って過去の、つまりは先祖の記憶を追体験できるらしい」

「そんなことが…………」

「それができれば現在と合わせて、過去の勇者が受けた呪いがわかるやもしれぬ」


 血を遡る記憶、それこそ血に刻まれた呪いと同等の様に感じられた。



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