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第五百四十八話 円卓の間再び

 

 クルシェイド劇団の公演から二日後、ヨハン達キズナは王宮へと呼び出されていた。


「今度は何だろうね? エレナ、何か聞いてる?」

「……いえ。今回は見当もつきませんわ」

「どうせ碌なことじゃねぇって」


 チラとヨハンが見る後ろを歩くナナシーとサイバル。


(二人も呼ばれているってことは……)


 エルフに関する何らかの事態が起きている可能性。しかし思い当たることはない。


(遺跡に関することで何か進展でもあったのかな?)


 それぐらいしか最近の出来事で大きなことはない。そうだとすれば覚悟を決める。


「早く来い、もう全員揃って待っているぞ」


 そうして王宮の入り口へと着いたところで待っていたのは近衛隊長のジャン。


「全員って? 僕たちだけじゃないのですか?」


 以前と同じように騎士団が待っているのかと。


「行けばわかる。ついてこい」


 そのままジャンの後をついて歩くのだが、謁見の間を通り過ぎた。


「あれ?」


 大きな扉を横目に通り過ぎながら、どこへ向かうのかと考えていると、隣を歩くエレナが口を開く。


「こちらは、もしかして円卓の間?」



 ぽつりと呟いたエレナの言葉を、ジャンは前を歩きながら肩越しに視線だけを向け無言で受け取っていた。そのまま何も発さずに再び前を向く。


「ヨハンさん、これは相当の覚悟が必要になりますわ」

「円卓の間って、確か前にも一度入ったよね?」


 その予想の通り、向かった先は円卓の間。以前巨大飛竜を討伐した際に今後の方針を決めた部屋。


(やっぱり、何かあったんだ)


 この部屋を使う時は王国の重大な案件を話す時。つまり、相応の事態が起きているのだと。

 どれだけの事態が起きているのかと、気を引き締めたところでジャンが扉を開いた。


「えっ!?」

「なっ!?」

「ど、ういうことですの?」


 円卓の間の中にいる人物達に驚き、それぞれ思わず声を上げる。


「父さん!? それに母さんも」

「長っ!?」

「あれ? お父さんもいるね」


 居並ぶ面々に大いに驚かされる。


(このためにわざわざ顔を合わさないなんて)


 兄ラウルとは先日顔を合わせているカレン。驚かせたいので帰還したことはヨハン達に伝えないように言われていた。カレンが呆れる中、そうしてヨハンが円卓を見まわす。

 円卓の最奥に座るのはシグラム王国の国王ローファスがいることはもちろんなのだが、既に腰掛けているアトム達のその中に見知らぬ人物が一人いた。


(誰だろう、あの人)


 その中で気になる女性、シルビアの隣に座るのは白髪交じりで見た目いくらか歳を重ねた様子。

 疑問に思いながら、入り口で棒立ちになる。


(父さんたちが帰って来たってことは……)


 魔王に関する何らかのこと。見回すのは、この場所が円卓の間であった。

 つまり、それだけの、重要な何らかの話し合いがこれから行われるのだと。


「でも、ドルドさんまで。どうして?」


 さらにもう一人この場にいることに対して疑問を抱くのは、円卓に座るもう一人の人物。鍛冶師ドルド。

 どうしてドルドがそこに座っているのか理解出来ない。

 しかし疑問を問い掛けることもできず、ニーナが先程の疑問を口にする。


「ねぇ、あの人は誰?」

「……たぶん、それが僕たちが呼ばれた理由だと思う」


 ただ一人、大賢者パバールの存在。どうにも妙な感覚を抱く不思議な人という印象。

 推測通り、直感とも置き換えることができるそれがヨハン達が円卓の間(ここ)へと呼ばれた理由。


「よぉ、そんなところに突っ立ってたら始まんねぇだろ。とりあえず座れよ」


 ニヤッと笑みを浮かべながら口にするアトム。


「それは俺のセリフだがな」

「お前が何も言わねぇからだろ」

「これがどれだけ大事なことだと思っているのだ?」

「あほっ。重苦しくなるのは後でいいんだよ。今は気楽に行こうぜ気楽によぉ」


 アトムの意地の悪い笑みに思わず呆気に取られるローファスなのだが、すぐさま薄く笑う。

 これまでアトムのその前向きな思考にどれだけ助けられてきたか。全てが明かされるかもしれないこの場に於いて尚も変わらない親友(アトム)に心の底から感謝した。

 ヨハン達がわけもわからず席に腰掛ける中、ローファス王は大きく息を吸い込むと立ち上がり、ヨハン達へと真剣な眼差しを向ける。


「さて、まずはお前たちに来てもらった理由を話す事からしようか」


 緊張感と和やかさを共存させた雰囲気を纏い、ローファスは口を開いた。



 ◆



 二十四席ある円卓には最奥にローファス・スカーレット。その右隣にジェニファー・スカーレット王妃。その横に続いて座るのはエリザ、クーナ、シルビア、パバール。反対側、ローファスの左隣にはアトム、ガルドフ、ラウル、リシュエル、ドルドと座っている。

 ローファスの真正面にヨハンが座り、右へモニカ、カレン、ニーナ、レイン。左へはエレナ、サイバル、ナナシー。

 近衛隊長を務めるジャンは円卓の間の入り口に立っていた。


「ヨハンやエルフの二人はいくらか知っていることだが、俺はとある依頼をスフィンクスに出していた。国家的な依頼ではなくどちらかというと個人的な依頼……――」


 どうしてヨハンとナナシーとサイバルが知るのかということに若干の疑問を抱く中、ローファスはチラと確認する様にジェニファーへと視線を向ける。ジェニファーは同意する様にコクリと小さく頷いた。


「――……エレナ、それはお前たちも知ることだ。魔王の呪いを解明することに他ならない」


 いくらかが目を見開く中、ローファスはお構いなしに話を続ける。


「これに関しては正直なところ、王家に受け継がれてきた正式な話、伝承とはいえ詳細、真偽が定かではなかったのはお前達も知るところだが、ようやく呪いの解明、その糸口を掴んだ」


 アトムとラウルが揃って円卓上にコトッと音を鳴らして置くのは赤と青の宝玉。シグラム王国とカサンド帝国の秘宝。


「これに加えて大賢者パバール殿が所持されている時見の水晶、これの力を借りる」


 パバールが中空に腕を伸ばして異空間から取り出す水晶。同じようにして卓上に置いた。


「大賢者パバール!?」


 その名を聞いたカレンが思わず驚愕に声を上げる。


「カレンさん?」

「あっ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって」

「びっくりしたっていうのは?」

「え、えぇ。大賢者パバールという名のことよ。前に文献で見たことあるのだけど、パバールって確か少なくとも三百年前後は昔の人物だったはず……」


 そうなれば同名の別人の可能性なのだが、それはすぐさまパバール自身が否定した。


「ほぅ。他にも私のことを知る者がおったか。なるほど、勤勉なものよ。如何にも私がそのパバール自身じゃ」

「一体、どういうことですか?」


 ヨハンの問いかけの意味は誰もが気になるところ。エルフのような長寿の種族には見えない。見た目は人間。となると他の長命種族なのかと。


「私は、というか私達といった方が正確じゃが、【時の魔法】を使える」

「……時の……魔法……?」

「ああ。私の師がそれについて研究しておって、それを私が引き継いで完成に近付けた。要はその研究の成果で肉体の進行を遅らせることに成功したのじゃ」

「そんなことが……」

「先に言うておくが、相応の代価は払うことになるので使用を勧めるものではないがな」


 敢えて説明する必要もないのだが、禁忌とも呼べる代物に代価が存在しないはずがない。


「にわかには信じられない話ですが……」

「この魔法は特殊なものでな。使える者がそもそも限られるし、自分自身にしか使えんからの。もし知りたいのであれば教えてやらんことでもないが?」

「いえ、必要ありません」


 カレンがはっきりと断言する。


「そんなことの為に呼び付けたわけではないでしょう?」

「私の生涯の研究の一端をそんなこと呼ばわりするか。ふふふ、面白い」


 パバールが少し表情を綻ばせる中、ローファスはほっと胸を撫でおろしていた。

 もし仮に時の魔法に興味を示すのであれば時見の水晶の使用を考え直すと言われていた。


「では、話の本題だ」


 仕切り直すように口を開くローファス。


「その【時の魔法】を用いた魔道具がこの時見の水晶になる」


 それをどう用いて魔王の呪いについて確認することになるのかヨハン達がそれぞれ疑問を抱く中、視線を僅かに左隣へと向ける。


(……エレナ)


 これだけの面々が居並ぶ中、ヨハンは隣に座るエレナの不安そうな横顔を視界に捉えた。



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