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第五十三話 鍛冶師ドルド(前編)

 

 ミライに案内され、鍛冶場の横に置いてある椅子に腰掛けた。


 少し後に先程のボサボサ頭の男は顔を洗ってきた様子でさっぱりした様子を見せながら目の前に座る。


「それで、儂の剣を見つけてきたって?どこで?どっちが?」


 ボサボサ頭の男に訝し気に見られた。


「えっと、僕が先に見つけました。東地区のファランクスという武器屋です。そこに他の剣と同じように無造作に置かれていたので」

「ほう、それで何故その剣を手に取った?」


 剣を手に入れた経緯を話すと、さらに質問をされる。


「どうして?うーん、どうしてって言われても、明らかにこの剣は他の剣よりも硬度が高く見えました。それに実際に手に持ってみても、この剣はひどく手に馴染みます」

「そうよね。これだけがあの無造作に置かれていた中でも明らかに良い剣なのに他の飾られている業物の剣と同じように扱われていなかったから気になって聞きに来たのよ」

「ほうほう、そちらのお嬢ちゃんもこの剣を良い剣というか」

「違うの?」


 モニカが疑問符を浮かべて確認すると、ボサボサ頭の男は薄く微笑んだ。


「いや、間違ってはいない。確かにこの剣はこの儂ドルドが打ったもので、あの店に置かれているほとんどの剣より良いと断言できる。だが、そんなことはどうでもいい。気になるのはそれを手にしたのがお主等の様な子供達だということだ」


 ぼさぼさ頭の男はドルドと名乗る。

 ドルドが言うのは一体どういうことなのか。


「にわかには信じられないが、こんな子達に剣の目利きができおるとはの」


 ドルドは尚も鋭い目つきで見定めるようにヨハン達を見る。


「それで、どうしてこの剣はあんな所に置かれていたのでしょうか?」

「ふむ、それに答える前にちょっと外に来てくれんか?」


 ヨハンとモニカはお互い顔を見わせるのだが、ドルドの言葉の意味がわからない。

 そのまま家の庭に連れられた。




 庭はそれなりの広さがあり、そこには一本の巻藁が立てられている。


「ほれ、この剣であの巻藁を斬ってくれんか?」


 ドルドが先程とは別の剣をモニカに差し出した。


「えっ!?この剣で?」

「……これって」


 モニカが驚くのも無理もない。

 差し出された剣は誰がどうみても鈍らだった。


「そんな剣ではできんか?」

「…………」


 ドルドが小さく溜め息を吐く。


「いえ、できるわよ?」

「ぬっ?」


 モニカはスタスタと巻藁に向かって歩いて行き、シュッと素早く剣を振るう。

 その仕草はほとんど無駄のない綺麗な動作。


 巻藁はスパンと鋭い音を立てて綺麗に斬られ、トスンと地面に落ちた。


「なんと!?」


 ドルドはモニカがあっさりやってのけたことで目を丸くする。

「これでいいわよね?それで?これがどうしたの?」


 振り返り小首を傾げるモニカ。


「お、おい!ミライ!あれを持ってきてくれ!」

「あーい」


 するとすぐにミライに何か持ってくるように指示をする。



「――んしょ、んしょ」


 数分待ち、ミライは先程と同じような巻藁を持ってきて、モニカが斬った巻藁の横に立てた。


「次はこれを斬ってくれんか?」

「えっ?同じの?どうして?」


 モニカは意味がわからない。

 また巻藁かと思い、溜め息を吐きながら巻藁に向かおうとする。


「――いや、モニカ。ちょっと待って」

「どうしたの?」


 ヨハンはどこか違和感を覚えた。

 ふと疑問が浮かぶ。


「(さっきのミライさん、やたら重そうに持ってなかった?)」


 どこかおかしい。

 先程のミライが巻藁を持って来た時の様子を思い返す。


「ごめん、次は僕にさせてもらってもいい?」

「えっ?別にいいけど?」


 モニカはどうしたのかと疑問符を浮かべながら剣をヨハンに手渡した。


「ほっ、次はそっちの小僧がするか。見物だな」


 ドルドはどこか嫌らしい笑みを浮かべ、ヨハンの動向を見守る。


 巻藁の前に立ったヨハンは小さく息を吐いた。

 真っ直ぐに巻藁を見る。


「(たぶん、普通に剣を振ったところで剣が折れるだけなんだろうな。となるとアレを使ってしか切れないだろうな…………)」


 ゆっくりと剣を振り上げ、上段に構えた。


「(なんだ、あいつ?やたらと雰囲気を感じるな。それにどこか奴の気配を感じさせる)」


 目を閉じて深呼吸をした次の瞬間には素早く振り切る。

 その手にうっすら黄色い光を灯しながら。



 ――――シュッ――ドスン……。


 鋭い風切り音を上げて巻藁はスパッと綺麗に斬られて地面に落ちた。


「あわわわわ…………」


 ドルドは慌てふためくのだが、モニカはその巻藁を見て憤慨する。


「あっ!なにこれ!ずるっ!っていうかミライさんこんなのよく持って来れましたね」

「えっへん、鍛えてますから!」


 巻藁の中には鉄柱が仕込まれていた。


 ドルドがぽかんと口を開けて呆ける中、ミライは小さな胸を張っていた。


「えっと、ドルドさん、これでいいですよね?」

「…………」

「ドルドさん?」


 ミライはヨハンの声に瞬き一つしない様子のドルドを見て、近くに立て掛けていた小さなハンマーを手に持ち、ドルドの背後に立つ。


 ゴツンと鈍い音を立てた。


「――ッたぁ…………」

「お師さん、しっかりしてください」


 ドルドは頭を抱えて地面にしゃがみ込む。

 その様子を見ていたヨハンとモニカは共に似た感想を抱いた。


「(うわー、いたそうだなぁ)」

「(ミライさん、結構容赦ないわね)」


 ドルドは頭を擦りながら立ち上がりヨハン達を見る。


「――つぅう、たたた。お前さんらの実力はよくわかった。中で話そうか」


 そうして家の中に再び招き入れられた。



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