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第五百三十五話 遺跡調査報告

 

 三日後、サンナーガ遺跡を後にして王都へと帰還する。


「この短期間で二往復とかマジでくたびれたぜ」


 マリンによって半ば強要されることとなった行程にげんなりするレインを横目に、王都に着いた頃にはもう既に灯りが街中を照らしていた。


「お疲れ様レイン」

「いやなに、とはいうもののお前達の方が大変だと思うけどな」

「まぁでも」

「じゃなくて俺はこれからの話をしてんだけどな」

「ん?」


 首を傾げるヨハンを余所に、レインが頭を悩ませるのはニーナを許嫁にしているという話。ぶったまげた話にも程があると。


(ったくどうすんだよこれ)


 ここまで誰もそれ以上のことを踏み込まない。決まっているのは暫定的にだがニーナがヨハンの婚約者として決まったこと。しかし明らかなのはこれが当事者であるヨハンとカレンとニーナ、その三人だけの問題ではない。


「そういえば、イルマニさんとカールス様に報告しないと」


 ヨハンからすれば問題として取り上げるのかどうか判断に迷う。

 しかし、特にカールス・カトレア侯爵からは女性関係で問題が起きそうであれば即座に報告するように言われていた。その時は笑って否定したのだが、個人的なこととはいえこれもそれに関係する話。


「さてキズナの諸君、それに他の学生たちにしても今回はご苦労だった。大いに助けられたよ」


 いつ連絡しようかと考えている中、王都の入り口で馬から降りるアーサー。


「私達はこの後も報告書を作成したりと色々と片付けが残っているのだが、君達はここで一時任務終了ということでいいかな?」


 今回の合同任務の主たる目的はサンナーガ遺跡の調査。その大部分は終えている。


「はい。いいよねエレナ?」

「ええ。お父様にはわたくしから連絡しておきますので」

「では後日経過等について連絡をしよう」

「わかりました」


 そうして騎士団との合同任務を終えた。



 ◆



「じゃあとりあえず僕たちも今日は休もうか。リシュエルさんとリックバルトさんはどうするんですか?」

「我はダゼルド家に顔を出したらまた旅に出る。通り掛けに挨拶に来ただけだからな」

「そうなんですね」


 一時的に行動を共にしていただけ。リシュエルともここで別れるのだと。


「オレはそうだな……――」


 そのままリシュエルが顔を向ける先は中央区の王宮へ。


「――……久しぶりにローファスの顔でも見に行くさ」

「わかりました」

「で、ニーナはどうなるの?」


 ふとモニカが疑問を呈するのはその後について。元々リシュエルが旅に出るからという理由でここまでの生活を送っている。


「ふむ。ニーナはどうしたい?」

「あたし?」


 まるで自分のことではないかのような反応。というよりも、ニーナからすれば答えは最初から決まっていた。


「お父さん、あたしを連れて行く気はあるの?」

「ないな」

「だよね。あたしも付いて行く気ないし」


 腕を頭の後ろに組んで笑顔であっけらかんと答える。


「だーかーらぁ」


 ギュッとヨハンの腕に自身の腕を絡ませると笑顔を浮かべた。


「これからもお兄ちゃんと一緒にいるよ」

「いいの?」

「いいもなにも、あたしも婚約者なんだよ?」


 ニコッと当然のように主張する。


「そうか。ならそのあたりもローファスに話しておこう」


 無邪気にニーナが主張することでレインは周囲を見る事が出来ずに、心臓を鷲掴みされるような恐怖に晒されていた。



 ◆



 夜、中央区王宮にて。

 ローファス・スカーレット国王の私室にはリシュエルが訪れている。


「なるほど。合成獣(キメラビースト)か」


 リシュエルの訪問から遅れること数時間。アーサーから報告を受けたのは遺跡について。その魔獣の複合体は識者によってそう名付けられた。


「それと遺跡にあった壁画の間がまさか人魔戦争だとはな」


 それほどのモノが存在していたのであれば一度は直接この目で見に行かなければならないと考えながら、ローファスがくいッとグラスを傾ける先に捉えるのはリシュエルの姿。


「しかしまさか……――」


 ガシッとグラスを持つ手と反対の手で頭を抱える。


「――……アトムのやつ、いったいどういうつもりなのだ?」


 ニーナをヨハンの許嫁にしているとは。しかしある程度の推測はできる。どうせアトムのことだから酔った勢いに任せて適当に返事でもしたのだろうと。


「ローファスはどうしたいのだ?」

「どうしたいって、お前……それはもちろんこの国に貢献してくれれば俺としては特に強制することでもないが」


 好きにしてくれて構わない。帝国に帰属しているカレンよりもニーナの方が王国へと寄与するのでどちらかというとそちらの方が望ましいのは間違いない。

 だが、問題はカールス・カトレア侯爵への報告をどうしたものかと。ありのまま伝えれば憤慨することは間違いなく目に見えている。思い返す若かりし頃の二人の大喧嘩。


「そうか。ならあとはアトムに確認するだけだな」

「ああそうしてくれ」


 遺跡の話と同程度に気疲れしてしまう内容。


(もういい。あいつに任せるしかない)


 ローファスへ近い内に賢者パバールを連れシグラムに戻るという連絡があった。それをリシュエルに伝えるとそれまでは王都に滞在するのだと。


「そういえばあの遺跡はどうするのだ?」

「ああ。それについては王国の歴史学者を派遣して調べてもらうことにする。地下の魔素も問題なさそうだしな」

「それはオレが保証しよう」


 サンナーガ遺跡地下、その最奥にある壁画の間については今後王国の歴史学者が調査をすることに決まる。どちらにせよ調査に膨大な時間を要することは間違いなかった。


(しかし黄の宝珠、か)


 にわかには信じられない話。リシュエルより内密に報告があったその黄色の玉のこと。エレナがそう判断したのであれば必要以上に責め立てる必要もないと。

 初代シグラム王が手にしていたという四つの宝玉の内これで三つが揃う。


(運命の巡り合わせとでもいうのか……)


 これが偶然なのか必然なのか。手元にある赤と青の宝玉を見比べながら思案に耽った。


 ◆


 リシュエルが退室して次に部屋を訪れているのはジェニファー王妃。


「――……本当に大丈夫なのでしょうか?」

「わからん」

「そんな……」

「だがわかっているだろう? こればっかりは誰かが先を見通せるものではない。ただ、あの時信じようと決めたではないか。例え全ての悪い予感が当たったとしてもあの子自身の力を」

「そう、ですね」


 ジェニファー王妃は小さく溜め息を吐きながらも笑顔を浮かべる。



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