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第五十一話 試験前日

 

 冒険者学校に入学して一年近くが経とうとしていた。


「ねぇ、本当に校長先生どこにいったのかしら?」

「うん、エルフの里に行く前に会ったのが最後だね」


 ガルドフは未だ学校に戻ってきている様子がない。

 寮の談話室でいつものように集まって話していた。


「まぁそのうち戻って来るんじゃねぇの?仮に旅に出ていたとしても旅先でおっ死んじまうような人じゃねえしな」

「それもそうですわね。わたくしたちは目の前の試験に集中しますわよ」


 ヨハン達一学年は学年末試験を目前にしていた。


 試験の成績が悪いからと退学になるということはないのだが、試験の結果次第でギルドへの推薦内容が変わってくる。

 冒険者になる学生達はこの成績如何で今後の請け負える依頼内容に差が出てきてしまうため皆真剣に取り組んでいたのであった。


 表向きは普通の学生と変わらないヨハン達。

 実際はギルド内部での評価は鰻登りのため、ギルド長や受付嬢などから実質一学年時の試験はあるようでないようなものと言われていた。


「けどよ、実際俺達なら余裕なんじゃねぇの?」

「わからないわよ?ガルドフ校長がいないといっても、シェバンニ教頭が私たちに簡単な試験を用意するとはとても思えないわ」

「あー、確かに。あの婆さんなら俺たち用に意地の悪い試験用意してやがるかもしれねぇな」


 レインが余裕を見せるのもまた必然。

 目標が明確になったレインはその実力をぐんぐん上げ、それは如実に結果として現れていた。


 先日は魔法実技テストの時に互角の戦いを繰り広げていたゴンザを相手に短時間で倒してしまっていたのだから。

 その勢いはモニカやエレナに迫るほどであり、モニカもエレナもそれを感じたのか、レインに追いつかれまいと必死になっているのはその相乗効果。


 一方ゴンザの方はというと、入学当初互角だったレインに差を付けられたことに相当のショックを受けていた。

 去り際に苦し紛れの負け惜しみを言うに留まる程度。



 そんな中、学年末試験の二日前に試験内容が発表された。


 試験は『学校地下ダンジョン最奥に設置してある宝石を各自持ち帰る』という内容だった。



 学校の地下は魔素が満たされており、下位の魔物が現れる。

 こういった試験の際によく利用され、普段その入り口は結界によって封じられていた。


「地下ダンジョンの宝石……かぁ」

「どうしたの、ヨハン?」

「ううん。説明の時、一切の質問を受け付けなかったじゃない?言われたのは目的と『この一年あなた達が勉強してきたことを実践すればそれで大丈夫です』って」

「そうですわね、明らかに含みのある言い方でしたものね」

「これは色々想定しておかないと結構大変なことになるかもしれないね」


 簡単な説明はあったが、詳細の見えない学年末試験。

 準備期間も含め、試験前日は休みとなっていた。



 一通り話したあとそれぞれ部屋に戻る。


「――ねぇヨハン、もし良かったらだけど、明日買い物に付き合ってくれない?」


 振り返りモニカが小さく声を掛けて来た。


「えっ?別にいいよ?」

「じゃあ明日の9時に東地区の門でね!」


 待ち合わせ場所を決めてそそくさとモニカは部屋の方に小走りで走っていく。


「いや……別に寮の門で良かったんじゃ?」


 どうしてわざわざ外で待ち合わせをする必要があるのかと疑問符を浮かべて不思議に思いながらヨハンは遅れて部屋に戻った。


 レインは既にベッドに横になり寛いでいる。


「どうした?遅かったじゃないか?」

「いや、モニカに呼び止められて」

「うん、それで?」

「明日の休日買い物に付き合ってくれってさ」


 そこまで聞いたレインはガバッとベッドから勢いよく身体を起こす。

 そしてヨハンの方を見た。


「(モニカのやつ、いよいよ踏み切るのか?)」


 と考えるが、その後に試験が控えていることもあるのでそんなまさかな、と過ぎた考えだと改める。


「(ただの買い物だろうな)」


 考えたことをなかったことにて再びベッドに横になった。


「でね、寮の門で待ち合わせすればいいのに、わざわざ東地区の門で待ち合わせするんだってさ」


 ヨハンの言葉を聞いたレインはガタンッと音を立ててベッドから床に転げ落ちる。


「ど、どうしたの!?大丈夫?急にどうしたのさ?」

「(ほんとにこいつは何考えてやがんだ?)」


 呆れてものも言えなかった。


「あ、ああ、すまん。ちょっとびっくりしただけだ」

「えっ?何に?」

「――――いや、なんでもない。じゃあ明日も早いだろ?もう寝ろ」

「うん?」


 こういうことは当人たちの問題だ。

 余計なことをわざわざ言わないに限る。




 ―――翌日東地区、門前にて。


「お待たせ!」

「あっ、その服とネックレス!」

「えへへ、覚えててくれた?」

「もちろんだよ」


 待ち合わせの東地区の門にヨハンから少し遅れてモニカが合流する。

 時刻は9時を少し回った頃。


 モニカの服装はヨハンが初めてのギルドの報酬でモニカにプレゼントした服。その首には青いネックレスが着飾られており、これもまたヨハンがプレゼントしたもの。


 ヨハンがすぐに気付いたことでモニカははにかんで喜ぶ。


 そうして二人は待ち合わせた門から中に入り、東地区内を歩いて行く。


「あっ、これすっごい美味しい!」

「どれ?」

「これ、さっき買ったお饅頭、リンゴの味が付いているの」


 途中の露店で適度に食べ物を買いながら歩いていた。


「リンゴかぁ。そういえばもうすぐこの街に来て1年になるんだよね」

「うんそうね」

「それにしても1年なんて早いものだよね」


 感慨深げに思い返す。


「そうよね。まさかあの時偶然馬車に乗り合わせたヨハンと今こうして一緒にいるんだもんねー」


 モニカはヨハンの横顔を見ながら呟いた。


「どうしたの?」


 ジッと見られていることで小首を傾げながら問い掛ける。


「ううん。なんでもない。そういえば聞いた?スフィアさん卒業したら王国騎士団に入るみたいよ?」

「みたいだね。まぁでもそれもそうか。お父さんが近衛隊長だもんなー。できればスフィアさんともまた旅をしてみたかったな」

「(っ!しまった、藪蛇だったかも)」


 スフィアとの旅を懐かしそうに回想するヨハンを見てモニカは慌ててしまう。


「そ、そうね、けど騎士団に所属すれば簡単にはいかないんじゃないかな?」

「いや、最近知った話なんだけど、意外に大丈夫みたいだよ?すぐには無理かもしれないけど騎士の人たちと共同依頼みたいなのもあるんだって」

「へ、へぇー」


 話を変えようにも変わらない。


「(どうしよう話題が逸れないわ)」


 何かいい話題がないか周囲を見渡す。


「――あれ?ヨハンとモニカじゃないか?」

「えっ?」


 突然後ろから声がした。


 振り返ると同じ学年のユーリで周りには三人いる。

 三人の内一人がユーリの前に出て来た。


「ヨハンくんだー!」

「――あっ、ちょ……」


 と言いながらヨハンの腕に抱きつく。

 モニカが止めようとするも間に合わない。


「どうしたの?サナ?」

「ううん、なんでもないよ?いつも通りだよ?」


 最近のサナは会うなりだいたいこういった身体的接触をしていた。

 笑顔でヨハンに抱き着いたサナは視線の先のモニカをジーっと見る。


 モニカもサナの視線には当然気付いており、お互いの視線がバチバチと交わる。


「ヨハン達は二人でどうし――痛っ!何するんだサナ!」

「なんでもないよ!ユーリの馬鹿さ加減に呆れただけ」


 ユーリの足を踏みつけ、きつく睨みつけた。


「あっ、そうそうヨハン君?」

「なに?」

「私たち明日の準備で色々と買い物をしていたのだけど、もし良かったらヨハン君達も一緒にどうかな?」


 サナは顎に手を当てながら問い掛けてくる。


「あっ、そうなんだ。僕たちもちょうど買いも――痛っ!ってなに!?モニカ!」


 突然モニカに脇腹をつねられた。


「ううん、ごめんなさいね。私たちも明日のことでちょっと大事な話があるから!ほんとごめんね!」


 再びサナと視線を交差させる。

 そこで後ろの二人が口を開いた。


「そっか、残念だな色々と話をしたかったんだが」

「そうね」


 ケントとアキだった。

 ビーストタイガーの件でヨハンに助けられた二人はヨハン達の救援とモニカの治療がなければ危うかった。


「ごめんね、また時間がある時にいつでも」


 そんなに大事な話なんてあったかなと考えるのだが思い当たることはない。


「いや、気にしないでくれ」

「そう?」

「じゃあ明日の試験お互い頑張ろうぜ!」

「うん」

「私たちもあれから本当に必死になって頑張ったわ。あれがなかったらここまで頑張れなかったかもしれない」

「そうなんだ。じゃあお互い頑張ろうね」


 結局ユーリ達とは挨拶をほどほどにして別れる。

 別れ際、サナが「ちっ」と小さく呟くのに対してモニカは「ふぅ」と安堵していた。



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