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第五百十七 話 探しもの

 

 話をしながら向かう先は学生達が待つ場所、遺跡の倒壊した建物内へ。道中リシュエルが肩に担いでいるのは気を失っているニーナ。


「そうだったんですね」

「ああ。彼は凄まじい。学ぶことは多くあると思ってナ」


 その途中で聞いたリックバルトとリシュエルの関係性。旅の途中で出会って行動を共にしているとのこと。カサンド帝国でヨハンと出会ったあとにここシグラム王国を訪問している際に偶然知り合っただけ。ダゼルド家のことは以前に遠縁であるという話を聞いていた。


「それにしましても、あのお方がニーナの父親でしたか」


 内心では動揺しているはずのエレナが平静を装う様は流石の一言。ニーナが一撃の下に叩き伏せられた際にはマリンは驚愕に口を呆けさせていた。こっそりニーナと一緒に覗きに来たモニカとカレンにしてもそれは同様でありほとんど似たような感情。


「そうか、君がローファスの娘だったか。このような偶然もあるものだな」

「父をご存知で?」

「ああ。少しばかりな。それにしても、アトムとエリザが活動を再開しているとは思いもよらなかった。それでヨハン君のところに行っていたとは。すまなかったね」

「いえ、大丈夫です。それにニーナにはいつも助けられています」


 ニーナと行動を共にしている諸々の事情を既に話して聞かせている。

 リシュエルは特に問題に捉えることもなく、深く頷いていた。


「だがこの子は世間知らずなところがあるからな。実際は色々と迷惑を掛けているだろう?」

「そんなこと……――」


 ないです、と答えようとしたところで思い出す数々の出来事。迷惑は、間違いなく掛けられている。


「――……ちょっとだけ、ですね」


 苦笑いを作り、指先を摘まむようにしながら答えた。


「あっはっは。その様子だと上手くいっているようだな。安心した」


 笑顔を浮かべるその様子から心底本音に違いはないのだろうということは感じられる。


「でも、どうしてここへ?」


 差しているのはこの場所自体のこと。

 旅をしていることと騎士団同士の争いに参戦するなどということは全く繋がらない。


「オレは反対したのだが、こいつがどうしても気になると言ってな。結果的に良かったわけだが、毎回こう上手くいくとも限らないぞ?」

「わかっていまス」


 一度はその場を離れようとしたリシュエルとリックバルト。しかし思い留まったのは、もしかすればそこに遠縁であるダゼルド家の姉妹がいるのではないかという不安。

 その確認のために踏み込んでおり、事実確かにダゼルド姉妹がいた。


「…………」


 しかしリックバルトがここでは話さないこと、その理由にはもう一つある。

 これもまた結果論に過ぎないのだが、突然獣人が姿を見せたことで当然のように驚かれはしたものの、自身の獣の風貌を目にしながらも怖がることなく質問に答える第一中隊の騎士達。明らかにこれまで接して来た人間との反応の違いに違和感を覚えていた。


(こういう見分けはつくようになったからな)


 経験則の成せる術。数は少ないがそういう顔をする人間には覚えがある。

 それが特に印象的だったのは、ここでまさかの再会を果たすこととなった目の前の幼い少年。


(どうやら間違いではなかったようだな)


 騎士達――その後はスネイル達が話していたような内容と同じ。騎士団同士の争いの場に参戦していた。

 当初は内部のいざこざに対して、どちらかに肩入れするのもどうかと思ったのだが、話し掛ける第十中隊側は聞く耳を持たない。そのため、自身の直感を信じてリシュエルを巻き込む形で加勢を行っていた。

 結果的には第一中隊の圧倒的勝利で幕を閉じているのだが、実際のところアーサーとスフィアを欠いた第一中隊は戦力が大きく損なわれている。被害をほとんど抑えられることができた、軽微で済んだ理由にはリシュエルの存在、それが殊更大きく貢献している。


「そうなんですね」


 そうこう話している内にナナシー達が待つ場へと戻って来ていた。


「……えっと、どちら様?」


 突然姿を見せた騎士とも言えない風貌の初対面の男性二人。

 首を傾げてナナシーが問い掛けるのだが、サナの視線の先には獣人のリックバルトよりもリシュエルにより担がれているニーナ。


(あの子、またなにかしたの?)


 そんな疑問が浮かび上がる中、サナ達にリシュエル達の紹介をすることになる。



「――……そうなんだ、そんなことがあったんだ」


 貴族間の権力争い。騎士団を掌握しようとする動きにしてもそうなのだが、結果として今回はアーサーが一枚上をいっていた。ブルスタン家の仕掛けを全て見透かしただけでなく、逆手に取って絡めて嵌めている。


「それと、地下の調査だけど数日は僕たち自由にしていいってさ」


 濃度の高い魔素の浄化には相当な時間を要するのだと。それまでは特にすることがない。あれだけの魔素の濃さであれば奥にいかなければいけないのだが、魔獣の複合体がいたとなるとそれすら適わなかった。


「自由ねぇ」


 そう言われても周辺で何かできるわけでもない。警備程度。


「あっ、だったらさ、セラに行ってもいい?」

「セラに?」


 不意に声をあげるサナの思い付き。それにはヨハンも思い当たることがある。


「あっ、もしかして調べてくれるの?」

「うん。ヨハンくんが象ってくれたその人形も頼めばもしかしたら作れるかもしれないし。でもそのためには木の種類を特定しないとね」


 そうしてサナがヨハンに木片を返すのだが、リシュエルが横目に見る。


「もしかして、その木は竜木か?」

「りゅうぼく?」

「ああ。違うのか?」

「リシュエル様はこれが竜木だと?」


 聞いたこともない単語に反応を示したのはエレナ。


「そうだ。もうほとんど力を宿していないがそうだと思ったのだが」

「エレナ、りゅうぼくって?」

「ヨハンさん、竜木とはその名の通り、竜の力を宿す木のことです。稀少な木であることはもちろんですが、原生林もどこにあるのかわかっておりません。一説には竜の巣にあるということらしいのですが、確かめることにも命がけですからね」

「そうなんだ」


 木材の中でも幻級とされている竜木。希少だということは勿論なのだが、それ以上にその持ち得る力が大きいのだと。

 火を点ければ数か月は燃え、魔道具としての魔力伝導率もナナシーの見解通り尋常ではない程に高い。


「そんな珍しい木だったらさすがに手に入らないね」

「……うん」


 遺跡の地下扉を開けることに繋がるかと思ったのだが、そうなると代用品を探すしかない。しかしそれだけの物ともなるとすぐに見つかるとも思えない。


「竜木が必要なのか?」


 疑問符を浮かべながら問いかけるリシュエルに対して苦笑いで返す。


「かもしれないってことです」

「ふむ。あるぞ、竜木」

「えっ!?」


 リシュエルの言葉に全員の視線が集中した。



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